宇宙鯨の足編
これは一本目
気球がぐんぐん上がっていく。
気球ががしがし運ばれていく。
緑色の空に向かって、尾翼に向かって、
リオ坊のやつは最後の最後まで泣いていやがった
せっかくの俺の晴れ舞台だってのに
せっかく揃いのゴーグル買ってやったのに
あれじゃ目が溺れちまうぜ
下を見りゃ俺がジジイになるまで生きた町が見える
さっきまで聞こえてきてたリオ坊の声はもう聞こえねえ
町や家なんかも全然見えねえ、老眼だからか
ガハハハハ!
1人で笑ってもしょうもねぇ
でも笑ってねぇとあいつらがなあ
老眼ってぇのは嘘だ
まぁ一人だから嘘なんてあってないようなもんか!
今この空に俺1人!
最高年齢俺!
つまり老眼よ
くだらねえこと言ってねぇで、下の景色も目に焼き付けとかねえとな
帰る時迷子になっちまう
海の男は目がいいんだ、
リオ坊とは約束したからな
ふぇひゅり、ふぇひゅり、
飛んできた。
尾翼側から飛んできた。
捻れた木の種が一つ飛んできた。
馬鹿みてえな音立てやがって
ガキん頃はよく遊んだもんよ、これ投げて
こいつひっかけといたら風上に進まねえかな、
無理か?
お、俺らが住んでた半島が見えらぁ
誰が最初に気づいたんだかなぁ
大陸が鳥に見えるなんてよ
俺らが住んでだ場所は「嘴」なんて呼ばれれてる
今の国になる前は「晴れの国」なんて呼ばれ方してたらしいが、それも俺の爺さん連中から聞いたくらいで教科書にも載ってねえ
俺の気球は風に運ばれて、いろんな景色を眺めていく。
街を越える頃には上昇は終わったらしくて、そっからは順風満帆よな、船じゃねえけど
街の向こうだった山脈も遥か遠くだと思ってたお国の真ん中も7日もありゃ飛び越えた。
流石に真ん中火山が噴火しねえかはヒヤヒヤしたけどよ
とっつかまえた鳥を気球の火で炙って、俺はこうならんでよかったと思った。
ここまで来りゃ尾翼の端っこも見えるかと思ったが、どうやら世界は広いらしい
気球に無理矢理積まれた毛布にくるまって夜も明かした。
空の上は思ったよりもあったけえし思ったよりもさみい、積み込んでくれたガキどもにゃ頭が上がらんな
ほんでさては、飛ばす気なかったな、とは思う。
12日目には空の色は橙に変わった。どうやらおそらはご機嫌らしい。
そんで尾翼側も見えてきた
俺らんとこじゃ風下で漁するなんざ、馬鹿のすることだと思ってたがこっちにも港があるらしい
でけえ船もいっぱい泊まってやがる
こっちはなんの国なんだろうなおべんきょ真面目にしときゃこの旅ももうちょい楽しかったかもな
尾翼の端も飛び越えて、海の上を飛んでいく
見えやしないだろうが大陸に手を振っておく
元気でやれよ
元気でやれよー!
ま、叫んでも届きやしないだろうな。
ここ数日おとなしいとは思ったが、叫んだせいか腹がいてぇ
おっと、海に出たついでにクソ溜めも捨てとかねえとな
俺が丹精込めて作った、ハイテクハタラキ号にゃ紐引っ張りゃクソを落とすロマン機構がついているぜ
材料買い込んだお陰で遺産の4割くらいがぱぁになったがな!ガハハ
風があって海もあって、魚は獲れねえがたまに鳥は獲れる、上も下も変わんねえもんだなぁ
16日目には霧が立ち込めてきた。
生存圏の端は噂どおりだな、さみーし
ダチに計算してもらって大体こんなもんで着くとは思ってたが
短いようで長いようで、みじかかった
鳥も食い飽きた
それにしても、霧で奥が見えねーな
ふえひゅり、ふぇひゅり
飛んでやがる
風下の端っこに着いたってのにどっから飛んできやがった
……まぁ、希望が見えたか
死ぬ気で出てきたこの旅にそんなもん要るのかなんてかんけーねぇな
こんまま果ての果てまで行って俺が新大陸はっけんしてやらぁ
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その日、風上から妙なものが飛んできた。
ソイツは音を立てることなく、そして、軌道を変えることなく、風に乗って飛んでいた。
風に乗って飛んでくるものと言えば魔物だ。しかし、ソイツには落ちてくる気配はなかった。
何より風上から風下に飛んでいることが奴らとの相違点だ。
なんなのか、なんなのだ、
そう考えながらも、共に哨戒任務にあたっている相方には砦に走ってもらった。
手に持った銃の照準はすでにソイツに向けている。
魔物なのか、撃つべきか、一人で対処できるものか、近隣の応援を待つべきではないか、
ついにソイツは私の真上まで来た。
みたところ、ソイツは射程範囲内に入っていないように見える。かなりの上空だ。高度が下がる様子もない。
少なくとも私が持っている銃では当たらない。
カーン、カンカーン
カーン、カンカーン
鐘の音だ。
まさか風上でこの音を聞くことになるとは。
私は少し追いかけて諦めた。
ここを空けるわけにはいかない。後続が来ないとも限らない。
砦の仲間たちに後を任せて、私は風上を警戒する。
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観測記録:No.8
探査機名:ディアノームス
発信日時:光歴 12巡 3689年 6月 30日 トレト時間 08:23:55
座標:G5605671269742585599……
【映像】
【画像】【画像】【画像】…
人工知能による判定: 宇宙鯨から観測センターに向け観測中、上空に飛行物体を確認。 袋状の上部に複数のロープで接続された籠から、人工的気球と判定。
データベースと照合し、以下では飛行物体を『気球』と呼称する。
気球上に既存の生体反応なし。
気球上に熱反応なし。
複数の材質確認、詳細判定不可
本機は不時着時の損傷により、接近不可。
気球は……
『気球』観測データ:
高度:本機より3892m
速度:19km/h
全高:15m
気球膜高さ:10m
気球膜直径:8m
ロープ:4m
籠高さ:2m
籠直径:4m
各材質:不明
動力:不明
搭乗者:不明
過去観測データ及び気球の高度、速度、形状より
現環境の類似地域
ナラント星光輪地区 75%
ゴウラン星タイ・フーミ地区 70%
……etc.
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みた? みた。
しってる? しらない。
なに? しらない。
なかま? しらない。
どこから? かざかみから。
しんでる? しらない。
たべる? たべない。
とどく? とり?
とばない。 とばない。
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ここはどこじゃ
いやわかっとる。わかってはおる。
たぶん、たぶんだが俺が目指した新大陸なんだろうなぁ。
見なれねえ形の木もあるし、鳥の囀りだって聞いたことねえ音だ。
何より土の色が茶色だ、まあ、ジュッチューハック、新大陸なんだろーな
だがなぁ、なんともなぁ
ふぇひゅり、ふぇひゅり
こいつらが飛んでんだよなぁ。
霧の中に突っ込んだのは覚えとる。
その後息が苦しくなったのも覚えとる。
しっかし、その後どうあってこんな砂浜に落ちとるんだ?
てっきり死んだと思ったが、生き残ったらしいな。
あたりを見ても海と広い砂浜だけ、背中に風と海、前に森とひしゃげた気球。
ハイテクハタラキ号はここまでか、よう頑張ってくれたわな
とーりあえず解体して釣りでもしてみっか!
3日がたった。
釣果は上々、いくつかの魚は食えねえ。あとたまに虫がかかりやがる。
空の色は青色だ
7日がたった。
こっちに来てから体の調子がいい。痛かったなんやかんやが嘘のように痛くねえ。
空の色は青色だ
12日がたった。
ぼちぼち保存食を作ってる。新しい大陸の人と握手しねえとな。
空の色は変らねえ
17日がたった。
飛んできた!なんかピカピカ光りながらとんできやがった!
しかも、乗ってるやつが話しかけてきやがる!人だ!肌が橙色だがこりゃ人だ!
おう!俺は雨の国から来た王子様よ!握手だ握手!
お?握手すんのか?お、おー!これで俺たちゃダチよ!王子様ってのは嘘だ!すまんな!
20日がたった。
やたらと豪勢な家でやたらと豪勢なな飯を食わせてくれたぜ!
肉なんざ久々に食ったぜ、家でも魚ばっか食ってたからなぁ
俺を連れてきた兄さんはほんとに王子様だったのかもなぁ!
何言ってんのかわかんねえけどこいつの名前が「ナンタ」だってのはわかった!
そういや鶏肉食ったな!ガハハ!
27日目
『ダイ、どこ、きた』
どーやら、変な機械使って俺と話そうとしてるらしい
鳥の大大陸の雨の国から来たぜ!あと俺の名前はダイじゃねえ!
『アメノクニ、ダイ、アメノクニ、きた』
ナンタ!だからダイじゃねえってよ!
30日目
ナンタともだいぶ打ち解けた。言葉が通じりゃ、なんのそのよ!
こないだ海で魚を釣って捌いて食って食わせて、もう地元にいた時より人気者になっちまったぜ、ガハハ!
あとナンタは王子様じゃなかったわ、警備会社の人だとか言ってたな。
俺が最初にいたのも牢屋だったらしいぜ!
まさか遠く離れた土地でお縄につくとはな!
とんだ土産話ができたぜ!
32日目
『改めて聞くぜ、あんたどこから来たんだ。』
おう、俺は、たぶんだが遠い大陸からだな!
『嘘じゃねえだろうな、---に大陸はここ一つだけだぜ』
嘘じゃあねぇ、風上の霧の向こうから来たのよ俺はよ
『霧の向こうっつったら、生きてけねえだろ』
おう、そりゃ俺も知らねえけど、来れたんだからしゃあねえ
『ここから、少なくとも距離】【】【は大陸なんてねえぞ、ましてや、あのオンボロ気球できたんだろ?ちと無理があるぜ』
そうさなあ、お前らの方が技術が上ってえのは今日まででよ〜くわかってらあ
そんなお前らが言うならそうなのかもな
でも俺は来たぜ
『どーだかな、俺はまだお前がキチガイじゃねえかって疑ってるぜ!』
おいひでぇな、そんな大層な翻訳機?まで使ってまだ信じてねえのかよ!肌の色だってちげーだろ!
『あー確かに、そこはそうかもな』
そうだろう、そうだろー
50日目
はいよー!メダイの刺いっちょー!
虫の網焼きこっちに置いとくぞ!
おん!?なんだって!?何言ってんのかわかんねえなぁ!
おーい!ナンタぁ!翻訳してくれ!
ぴ、ぴろぴ!?なんだそりゃ俺は知らねえ!
揚げもんはナンタに頼みな!俺にゃ無理だ!
まいどまいどー!ナンター!お会計してやれー!
55日目
ナンタおめえの嫁さん元気か?
『元気だ。もうすぐ子供が産まれる』
20日後だっけか?まあ、そろそろ俺も帰らなきゃなんねえしなぁ、今度帰る前にはもっぺん会わせろよ!
『どうやって帰んだ、俺はお前が風上から流れてきたの見てたが、あれじゃ行けねえだろ』
んなもん、今から船作って帆をはりゃ風上にビュンよ!
『船!?』
なーんか病気も治ってるし、大丈夫だろ!ガハハ!
60日目
いやーまさか船丸ごと買えるほど稼いでるとは思わなかったぜ
いっそみんなでこっちに移住するか?
『ホントに行くのか?こっちに住んで、店続けてもいいんじゃないか?』
いーや、俺は帰るね、リオ坊と約束してんだよ。
俺が家を出てどんぐらい経ってるのかわかんねーけど、あー、約束してんだよ!
『リオボウか、そうか、あはは、そりゃ仕方ねえ』
おう、ナンタにもよくしてもらったからな、お前らのこと家族だと思ってるぜ!
でも、俺がいちゃ、嫁さんとこにも帰れねえだろ?
安心しろや海の男ナメんな!
65日目
こっちの大陸の動力は馬力がちげえ!ずっとこれってわけにはいかねえだろうけど十分だな!
あとは、これをこう……
66日目
『ホントに行くのか?今からでも遅くねーぞ?霧の向こうは寒すぎるし、空気も薄い、お前の船の速度じゃ数百年かかっても海しかねえんだぞ!?』
お、おう、ありがとうよ、うちのせがれより引き留めてきやがんな大丈夫だ、てめえは嫁さんと子供の心配だけしてろ
何度も言ったが、俺は来たぜ、この船よりトロい気球で、ここまで。
あの種も俺の故郷に届いてんだ。
知らねえだけで、見えてねえだけであるかもしんねえだろ?
67日目
『ホントに行くんだな』
おう、見送りありがとよ!嫁さんもな!
『無理だと思ったら帰ってこいよ!』
わかってらぁ、海の男ナメんなよぉ、こちとらプロだぜ!
『ちゃんと飯食えよ!』
お前らもな!
そんじゃ、そろそろ行くとするかね
いつまでも長引きそうだしな
飯よし!
釣竿よし!
服よし!
ゴーグルよし!
船よ
おっと、
そういや、この船の名前決めてねえな、
いや、決まってたわ
風上に行くなら、そりゃあ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
以上で作品「宇宙鯨」は終わりです。
ですが、皆様や観測センターから見た宇宙鯨と宇宙はほんの一部です。
我々の知らない、観測できていない宇宙には無限の可能性が広がっています。
なのでこれは一本目
誰が足してもいい足の一本目




