第四話
ルカは怖くなって震えるように身を縮めた。
「ルカ、逃げなさいっ!!」と母親は真剣な表情で叫ぶ。
「え、どういうこと??」 ルカは訳が分からず母親に訊く。
「いいから、早く!!」
不安になったルカは畏縮しながら母親を見つめる。母親を見つめれば窓の方をじっと見ていて様子を伺っているかのように捉えれた。
――シュッー、バーン。パリンッパリンッ。
「指名手配犯、黒魔女エリーナ、居たぞ!」
指名手配犯、黒魔女??何かの茶番って誰もが思うだろう。そりゃそうだ。黒魔女が存在するなんて漫画とかアニメじゃないんだから。ましてや指名手配犯なんて言われたら驚いて声が出なくなってしまう。
大きな叫び声みたいな声がしたと思えば同時に黒い全身を覆うマントを被った人が出てきてこちらをじっと見ている。だが頭を覆う黒いマントで顔は見えないし何を思っているのかも感じ取れない。そんな人物達を目前に母親はキッチンのほうへと行っていてこのために用意してたかのような素振りで冷蔵庫に貼ってある磁石を押す。
するとその瞬間冷蔵庫が動き始めたじゃないか。
ルカはそんな光景に逃げるということも忘れて固まっていた。そしてルカの手にはかすかに震えがあった。
その後、冷蔵庫が動き終わったと思えば壁には複数の傘が置かれていた。
ただの傘ではない。少し変わった傘だ。次の瞬間その傘を母親は何もためらいなく手に取る。こちらに来たと思えば母親は変わった傘ともう一つメモ帳みたいなものも持っていた。
「お母さん、大丈夫なの??」ルカは不安な顔をして訊いた。
「ルカにはこの帽子をかぶせて。よし。そしてルカ、このメモ帳を預かってくる??絶対誰にも渡さないのよ。このメモ帳を開いて一ページ目に地図が書かれているわ。そこに行ってこの写真を見せなさい」
ルカは微かに震える手で写真を受け取る。写真を見れば赤毛のショートヘアをした知らない女性と金髪の髪色をした青い目のハンサムな男が笑っているのが写っている。誰なの?何て訊く余裕もそんなことを思い浮かぶ働きさえルカにはなかった。
「お母さん、でもお母さんは??」ルカは涙目になりながら震える声で訊く。
「お母さんはルカを守ることが使命なの」母親はまっすぐな目でルカを見つめる。
次の瞬間だ。
「ケガ―ク・ファイ!!」
――ヒューン
黒いマントを被ったものがそう言ったとき光っている何かが素早くこちらに向かって飛んでくる。ルカの母親がとっさに傘を開く。
「ブライア・スリ!!ルカ!早く逃げて!!ビーキャ──ァイ!」
ルカは言われたとおり裏のドアから逃げて今にもあふれ出しそうな涙をぐっと我慢しながら全力で走った。
「はぁっ、はぁっ!!はぁっ」
――ピンポーン、ピンポーン。
鳴り響くインターホン。シーンとした辺り。ルカは怖かくて頭が真っ白だった。
――エナ早く出てくれ。
「もう、そんなに押してって。どうしたの?ルカ」
「お母さんがっ。お母さんが。うぅっ。戦ってる」ルカはずっと我慢していた涙を流しながらエナに説明した。
エナは目をぱちぱちとさせて今までで見たことのないぐらい泣いているルカをじっと見つめた。まさか出た瞬間発した言葉が戦っているとは。
もちろんそんなことをエナが理解できるはずもなくエナは分からないような表情をして「どういうこと??とりあえずルカ、中に入ったら??」とルカに向かって伝えた。
「駄目なんだっ!!このままだとお母さんが!!」
「どうしたの??ルカ君」
ルカの叫び声に反応した駆けつけてきたエナの母親が家の中から出てきた。
「お母さんが戦っているんです。全身が黒い服の人と」ルカは伝わるように冷静に答える。
「っ!!もしかして傘はっ!!傘は持っていたっ??」
エナの母親が急に血相を変えて訊いてきたものだからルカは怖くなって一歩後ずさった。だが大事なところで悩んでいる暇はない。
「確か冷蔵庫が動いて、それから傘を」
「……奴に見つかったのね」
「え」
「とりあえず、ルカ君とエナはここにいなさい」そうエナの母親は言って家の中に消えていった。
家の中ではコーヒーを飲みながら新聞を見ているエナの父親の姿があった。真剣な表情で新聞を読んでいて話しかけたら怒られそうな雰囲気だ。だがその反面、目は目尻が下がっている垂れ目でしわがなく穏やかで優しそうな顔をしている。
リラックスしていてエナの母親とは真反対だ。
「どうしよう」
だがすぐにエナの父親は異変に気が付いた。
「どうしたんだ??」
「私たちが恐れていたことがとうとう起きたわ」
「もしかして」
「えぇ、そうよ」
「っ」エナの父親もまた血相を変えてエナの母親を見た。そしてすぐさま立ち上がるなり「とりあえず、俺は助けに行く」と大きな声で喋った。
「私も行くわ」
「だめだ。子どもたちがいるじゃないか!マリは残れ」エナの父親は怒ったようにエナの母親を見た。
「そんなこと言っている場合なの??今の貴方とあの方だけじゃきっと持たないわ」エナの母親はまっすぐな目をしてエナの父親を見た。この目つきは昔から絶対に意見を変えない意志がまっすぐ通った目だった。
エナの父親は少し考えるように黙り込んだ後「とりあえず、俺は行く。勝手にしろ」そう言って使っていないような古びた倉庫に入った。
「恐れていたことが起きたってどういうことなの??ルカ」こっそり母親たちの会話を聞いていたエナは首を傾げてルカに訊く。エナは賢いほうで学校での成績はいつもいい。だからこれはただことじゃないということを察したのだ。
「僕だって分からないよ。分かることなら分かりたいさ」ルカは小さな声でそう呟いた。




