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第二章:月白の告白と、竹取の真実

博多城の堅牢な石壁に囲まれた一室。結界の崩壊と道摩の襲撃、そして禁忌の術による肉体への負荷は、かぐやと真澄から気力を根こそぎ奪い去っていた。雪野の懸命な治療により、かぐやはどうにか意識を繋ぎ止めていたが、その瞳には自分という存在への根源的な揺らぎが影を落としていた。


行灯の淡い光の下で、月白つきしろは静かに、しかし決然とした面持ちでかぐやの前に座した。


先帝の孫、そして北条の縁

「……かぐや様。貴女がなぜ、見ず知らずの道摩や皇太后に命を狙われるのか。それは貴女が、この国のことわりを根底から覆しうる『正統なる血』を宿しているからです」


月白の言葉に、かぐやは息を呑んだ。 「私が、正統……? 私は、竹取の里で竹を売って暮らしていただけの娘です。それがどうして……」


「貴女は、私が北条家へ送り出した、私の実の妹の娘……。すなわち、亡き先帝の孫にあたるお方なのです」


部屋に沈黙が降りた。真澄や雪野、華も言葉を失い、月白の言葉の重みを噛み締めていた。 「私の妹……貴女の母上は、今、関東の覇者・北条家の一族に連なる御方のもとに嫁いでいます。貴女は、その御方と妹との間に授かった、月詠の血筋の最高到達点なのです」


竹取の一族:鎮魂の系譜

月白は、古の伝承について語り始めた。出雲の地に根を張る「月詠の一族」の中でも、数百年に一度、尋常ならざる清浄な霊力を備えて生まれる者がいる。彼らは**「竹取の一族」**と呼ばれ、皇室の守護を司る影の柱となってきたのだという。


「竹取の力とは、単なる破壊や治癒の術ではありません。それは、この世に蔓延る負の想念、積もり積もった怨嗟や悪行を霧散させる**『鎮魂の力』**。汚れを祓い、混沌を秩序へと戻す、究極の浄化なのです」


月白の瞳に、深い畏怖の色が宿った。 「悪意に染まった者たちが最も恐れるのは、自らの悪行が暴かれることではなく、その悪意そのものが無に帰し、支配の道具が失われることです。阿倍御主人が貴女を殺そうとするのも、貴女が持つ力が、彼が大陸の術で築き上げた『負の秩序』を根底から浄化してしまうからです」


母を超越する潜在能力

月白は自嘲気味に微笑み、かぐやの手を握った。 「かぐや様。私は半年の間、貴女に巫術を教えてきましたが……確信いたしました。貴女の中に眠る潜在能力は、私などは到底及ばず、あるいは私の妹をも凌駕している」


「母上よりも……?」


「ええ。私の妹は、出雲に伝わる相伝の巫術を最も強く受け継ぎ、気の操作においては天賦の才を持っていました。私はそれを受け継ぐことができず、理論と符術でそれを補ってきた。……ですが、貴女は違う。貴女は修行を始めて間もないというのに、泰山流の剛き呼吸と、月詠の柔らかな気を、まるで初めから一つのものであったかのように融合させてしまった」


月白によれば、かぐやの母――「北条の姫」に会うことこそが、この泥沼化した都の乱れを正す唯一の希望であるという。


政体を正す「第三の道」

「平清秀将軍は、都を打倒しようとしています。それは、阿倍の謀略によって腐敗した今の朝廷を見限り、武力によって強引に新しい秩序を作ろうとしているからです。将軍の怒りは正当ですが、その道は果てしない内乱と流血を招くでしょう」


月白の推測は、非常に鋭いものであった。 「もし、貴女が母上と再会し、竹取の真なる力を覚醒させれば……。平将軍が都を打倒せねばならぬ『理由』そのものを消し去ることができる。すなわち、阿倍や道摩が利用している皇太后様の狂気を鎮め、汚染された政体を内側から浄化するのです」


それが成されれば、源頼真将軍が守ろうとしている「帝」と、平清秀が守ろうとしている「国」は、再び一つの理のもとに共存できるようになる。


「……源将軍も、平将軍も、本質的にはこの国を想っている。ただ、阿倍が撒いた毒によって、互いの正義が食い違っているだけなのです。貴女という存在がその毒を祓えば、荒れた都の政体も、本来の清らかな形に戻るはずです」


かぐやは、窓の外に広がる博多の夜の街を見つめた。 自分が先帝の孫であり、北条の縁者であるという事実。そして、自分にしかできない「浄化」の役目。あまりにも巨大な責任に足が震えるが、逃げ場はない。


「……母上に、会わなければいけないのですね」


「はい。そして、その道は険しいものとなるでしょう。平将軍が貴女を容易く手放すとは思えませんし、都の暗殺者もさらに牙を剥く。ですが、かぐや様……」


月白はかぐやの額に、静かに口づけをした。 「貴女はもう、独りではありません。私たちは、命を懸けて貴女を関東へ、そして都へと送り届けます」


かぐやの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは悲しみの涙ではなく、自身の宿命を、そして愛すべき母へと続く道を受け入れた、覚悟の雫であった。


しかしその直後、城内に激しい銅鑼どらの音が響き渡った。 平将軍の親衛隊が、急を告げる叫び声を上げている。道摩の攻撃は、北の離れを落としただけでは終わっていなかったのである。

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