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第四章:博多の謁見、あるいは深淵の端

門司の激闘を経て、れんに導かれたかぐや一行は、ついに平家の本拠地・博多へと足を踏み入れた。大陸貿易の富が集まるこの街の中枢にそびえ立つ博多城は、堅牢な石垣と大陸様式の優美な意匠が融合した、異様な威容を誇っていた。


謁見:西国の覇者と月詠の娘

城の最奥、「月見の間」へと通されたかぐやたちの前に、西国の王たる威厳を纏った武将、**平清秀たいらのきよひで**が鎮座していた。その眼光は、部屋に入った瞬間からかぐやの全身を射抜き、特にその腰に下げられた「月詠の紋」の巾着に釘付けになっていた。


「源頼真が飼い慣らしたはずの鼠が、こうも清らかな気を放っているとはな。……面を上げよ」


清秀の声は、深く、地鳴りのように響いた。真澄が思わず刀の柄に手をかけるが、清秀の傍らに控えるしずかと蓮の放つ殺気、そして清秀自身の圧倒的な「気」に、場は氷ついたような緊張感に支配される。


(この清涼な気配……間違いない。関東へ嫁がせた妹の忘れ形見か、あるいは、失われたと思われていた竹取の直系か。だが、阿倍御主人が放った『偽り』という可能性も捨てきれん)


清秀の胸中には、確信に近い推察と、統治者としての慎念が渦巻いていた。彼は、かぐやが本当に保護すべき「血」の当事者なのか、それとも自分を釣るための精巧な罠なのかを見極めるべく、あえて情報の断片を「探り」として投げかけた。


秘匿された二人:血塗られた後宮の影

「貴殿らが何を探りに来たかは承知している。私が城内に『ある女性』を秘匿し、さらに関東の北条家へも養女を送り込んだ理由……。それを探るのが源頼真から与えられた任務であったな?」


清秀は皮肉げに口角を上げた。 「事実はもっと泥臭い。先帝より託された、護るべき女性が二人おられるのだ。一人はこの博多で私が、もう一人は私の養女として関東の北条為時ほうじょう ためときのもとへ嫁がせた。……なぜこれほどまでに秘匿せねばならぬか。それは、先帝の正室――今の皇太后が、血塗られた粛清を続けているからだ」


清秀は、かつての後宮の闇を静かに語り始めた。世継ぎを残すという帝の使命ゆえに、必要悪として存在した側室制度。しかし、その慣わしは一人の女性の心を壊すには十分すぎる毒であった。


「先帝が崩御された直後、皇太后の仮面は剥がれ落ちた。彼女は権力を掌握すると同時に、先帝が愛した側室たち、そして彼女たちが産んだ『異能の血』を引く皇子や皇女たちを、次々と闇に葬ったのだ。私が二人を分け、遠き地に隠したのは、彼女たちの血を根絶やしにさせぬための、先帝との最期の約束であった」


かぐやはその話を聞き、自身の出生に纏わる暗い霧が、一層濃くなるのを感じていた。


影の宰相:阿倍と大陸の魔手

かぐやが道摩どうまという刺客に襲われたことを告げると、清秀の瞳に鋭い憎悪の火が灯った。


「道摩を操る右大臣・阿倍御主人……。奴は現在、皇太后の派閥の筆頭として立ち回り、彼女の『私怨』を巧妙に利用している。皇太后は個人的な嫉妬と恐怖から異能者を消そうとしているが、阿倍の狙いはその先にある」


清秀は、九州の地で大陸の大国と対峙し続けてきたからこそ見えている「真実」を口にした。 「阿倍の真の姿は、大陸の工作員だ。奴らの目的は、この国を内側から崩壊させ、大陸の属国へと作り替えること。そのために、この国の守護的な力を持つ『神血の末裔』を排除しようとしている。皇太后は、阿倍にとって都合の良い『盾』に過ぎんのだ」


阿倍は皇太后に従うふりをしながら、国の防波堤となるべき血筋を、彼女の手を汚させる形で一掃しようとしていた。清秀はその外交的な「毒」を九州で食い止め続けてきたが、都の腐敗はもはや限界に達しつつあった。


疑念の檻と、守護者の誓い

清秀は、そこまで語ると、突き放すような冷たい視線をかぐやに向けた。


「……だが、かぐや殿。貴女が本当に『あの血』の系譜であるという確証は、私にはまだない。都のスパイが偶然同じ紋様を持っていただけかもしれんし、阿倍が私を釣るために用意した偽物かもしれん」


清秀は、かぐやを自らが匿う「姉君」に引き合わせることもしなかった。真実を暴き出し、その血が本物であると確信するまでは、彼女を「客」として扱うわけにはいかなかったのだ。


「蓮、この者たちを北の離れへ。一歩でも不審な動きがあれば、構わず切り捨てよ」


清秀の冷徹な命令が下る。しかし、離れへと連れて行かれるかぐやの背中を見つめる清秀の瞳には、言葉とは裏腹な、痛切なまでの決意が宿っていた。


(もし、貴殿が本当に妹の娘であるならば……阿倍や皇太后に渡すわけにはいかぬ。たとえ私の疑念が晴れずとも、その命だけは、この平清秀が全土を敵に回してでも護り抜いてみせよう)


清秀は半信半疑ながらも、彼女が放つ「月詠の気」に、亡き先帝との誓いを重ねていた。かぐやたちは、博多城という名の「檻」に閉じ込められた。しかしそれは同時に、世界で最も強固な「盾」の内側に入ったことをも意味していた。


物語は、個人の出生の秘密から、国家を揺るがす国際的な謀略劇へと、その規模を大きく広げようとしていた。

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