表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮の嚮後 〜桜の鎮魂歌〜  作者: 佐倉井 鱓
遠きあの日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/151

第72話 家族

「ふふ……

皆様、お揃いでございますか」


控えめなノックが扉を叩いた直後

静かに開いたレイチェルの部屋の入口に

時也が柔らかな微笑みを湛えて立っていた。


黒褐色の髪は品よく束ねられ

一筋の乱れもないまま肩へと流れ落ちる。


整った面差しには

家族がひとところに集う喜びが

淡い光となって宿り

以前よりも深く人を包む穏やかさに満ちていた。


鳶色の瞳は深く澄み

幾多の試練を越えた者だけが宿す

揺るぎない強さを秘めている。


その眼差しは、見る者の胸を温かく満たした。


「青龍。

そろそろ、よければ降りてきませんか?」


声音はいつもの穏やかさを保ちながら

どこか、懐かしさを含む響きを帯びる。


「彼女たちも……

お前と話したいでしょうからね」


その一言に、青龍は小さく息を吞んだ。

顔を上げた銀白の睫毛がふるりと揺れる。


再び、主の声を聞けた──

その歓びと安堵とが、胸を包んでいた。


「……時也様」


幼子の姿に宿る式神本来の厳かさが

その声の奥底から滲む。


青龍は椅子から静かに立ち上がり

深く、丁寧に一礼を捧げた。


「かしこまりました」


背筋は真っ直ぐに伸び

そこには式神としての矜恃と

長き年月を支え続けてきた者の誇りと覚悟が

その細やかな動作の全てに滲んでいた。


時也と青龍は並んで部屋を後にする。


進むその歩調は静かで

廊下に差す柔らかな灯りが

二つの影をゆるやかに重ねて揺らす。


言葉こそ交わさずとも

二人の間には揺るがぬ信頼が流れていた。


それは、主従にして家族──

数百年を越えてなお

繋がり続けた絆そのものであった。


──その瞬間であった。


「青龍!

おかげで、お母様とお父様と

ゆっくりお話できましたわ!」


リビングの方から

澄みわたる鈴の音のような声が響いた。


その声音には、晴れやかな喜びが溢れ

聞く者の胸まで明るく照らす力があった。


「次は青龍にも

私達のお話を聞いていただきたいです」


先程の声より、今度は落ち着いた

涼やかな声音が続く。


その声の主はもちろん

エリスとルナリア──櫻塚家の双子であった。


「「──ね、とと!」」


揃って響く、幼くも凛としたその呼びかけに

青龍は思わず足を止めた。


小さな肩がかすかに震え──

胸の奥に広がった温度が

薄く幼子の姿に滲んでいた。


隣で時也がふっと目を細め

柔らかい声で背を押す。


「行ってきなさい、青龍」


「……はい!」


その返事はわずかに俯きながらも

喜びを隠し切れぬ

どこか誇らしい響きをまとっていた。



リビングの中に青龍が一歩踏み込むと

双子がソファに並び座り

こちらへ向けて、満面の笑みを浮かべていた。


ルナリアは背筋を正し

エリスは小さく手を振って迎える。


深紅と鳶色──


左右異色の鏡写しの瞳には

幼さの奥に眠る確かな意志が宿り

その輝きだけで、部屋の空気が澄むようだった。


「もう!

待ちくたびれましたわ、とと!」


「私達、お父様とお母様と

前よりずっと長くお話できて──

少し⋯⋯手も、繋げました!」


「だから次は──

ととに聞いていただきたいのです!」


「ふふ……」


青龍は目元をそっと緩め、静かに歩み寄った。


「……左様でございますか。

それは──本当に、嬉しゅうございます」


柔らかな声音でそう答えると

双子の前に膝をつき

幼い視線に合わせるように顔を上げた。



その光景を──

二階の廊下からレイチェルとソーレンが

寄り添うように見守っていた。


欄干に身を預けながら

どちらも静かに息を潜める。


「ふふ……青龍、きっと嬉しいだろうね!」


レイチェルは袖で涙の名残を拭い

胸の底が温かく満たされるように微笑んだ。


「あぁ、だな」


腕を組んだソーレンが短く返す。

不器用だが、その声音には確かな優しさが宿る。


「なんたって──

〝櫻塚家〟が揃ったんだからな」


時也とアリア。

エリスとルナリア。

そして、彼らを支え続けた──青龍。


長い時を越え、幾度も絶望に呑まれながら

それでも諦めなかった者たちが

ようやく、同じひとつの場所に集っている。


静かで──

それでいて確かな光を放つ光景だった。


まるで、誰かが捧げ続けた〝祈り〟が

時を巡り、形となって紡ぎ直した奇跡のように。


それは──


永い旅路の果てに訪れた

あたたかな〝家族〟の始まりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ