崖の下から真実を暴露する part2
僕は自分の婚約者に、崖の上から突き落とされた。
何故、って思った?
僕もすごく混乱している。
ふと、叔父から聞いた話を思い出した。
リズベット女王に近衛として仕えている叔父が、僕と同じように、婚約者に崖から突き落とされたと言っていた。
てっきり、叔父の冗談だと思ったのだが、本当にこんなことがあるなんて。
しかも二世代にわたってなんて、我が男爵家は呪われているのだろうか?
魔性の美貌を持つ者が生まれる家系だから、本当に呪われているのかもしれない。
叔父は、なんて言ってたか。
確か、隠している真実を心のままに暴露したら、女王に見つかって助けられた、だったはず。
……いやいや、まさか。
そんなんで、助けが来るはずはないだろう。
でも何もしないよりマシか?
悩んだ末に、やってみることにした。
きっとその時の僕は、どうかしていたんだ。
「何で僕が、崖から落とされないといけないんだ!と言うより、男を落とすって、スザンヌ嬢はどれだけムキムキなんだよ!」
僕の叫びに、鳥が一斉に羽ばたく。
「行き先も、誰と話したかも全部報告なんて、無理だから!手紙も交友関係も確認って、正直重い!気持ちが重すぎ!もっと自由をくれ!清楚な見た目に、騙された!」
『…………は』
「何で僕が食べたものも、飲んだものも全て把握してんの!?ネクタイが 1ミリズレてるとか、僕でも知りませんけど!?あと、贈り物は嬉しいけど、本物の髪のマフラーとか、血色のクッキーとか、怖いからやめて!」
『……ぶはっ』
「スザンヌ嬢が威嚇するから、友人が一人もいないボッチですが、何か!?友人が欲しい!挙げ句の果てに、『他の女を見るくらいなら、いっそ死んで』とか、いやいや、死にたくありませんけど!?ってか、色々誤解ーー!!」
「あはははーー!」
「え?」
突然崖上から聞こえた笑い声に、思わず固まる。
誰かが聞いているなんて、思わなかった。
自分の言動を振り返り、頭を抱えた。
その人は崖から飛び降りて、僕の前に着地した。
「いやーそれにしても……ブフッ……あははは!」
黒いローブを着た女性は、地面を叩きながら笑い転げている。
「そんなに、笑わなくても……」
「……グフッ……ゴホッ……ん゙ん゙。いや、実に面白い話を聞かせてくれてありがとう!久しぶりにこんなに笑ったよ。笑いのセンスあるんじゃない?」
「いりませんよ、そんなセンス。」
「大事だぞ?笑いのセンスは。」
思わずジトーっと見てしまった僕は、悪くないと思う。
「僕はトリスタン・エーデルマンです。貴方は誰ですか?」
「しがない魔女だよ。ちょっと魔法薬の材料を探しに来たのさ。そしたら面白い声が聞こえてね。」
魔女。
伝説だと思っていたけど、実在していたのか?
「よし、笑いを提供してくれたお前に、褒美をやろう!何が望みだ?」
「とりあえず、学園に戻りたいんですが……」
「何だ、つまらん。…………ん?これは……ははっ。よし、いいだろう。送ってやる。」
何だろう。
助けてくれると言っているのに、嫌な予感しかしない。
断るか?
いや、でも、このままだと学園に帰れないし。
僕が唸っているのをお構いなしに、魔女は僕の腕を掴んだ。
次の瞬間、目の前には驚いた顔のスザンヌ嬢。
どこかの会議室みたいで、何人かの教員と王子が同席していた。
「よかった。無事だったんですね!心配してたんですよ。」
「いや、崖から落としたのは貴方でしょう?」
『ははは!』
空気が凍った。
何処かで、魔女の楽しげな声が聞こえた気がした。
「どう言うことだ?」
王子が尋ねて来るので、ここまでの経緯を順序立てて話した。
「うむ。矛盾はないな。スザンヌ嬢、どう言うことか、説明してもらう。君の話しは先ほどから、矛盾ばかりだ。」
「そんな……信じてください!愛しい婚約者を殺すなんて、そんな恐ろしいこと!」
「どこまでも、それを突き通すのか。この件はこちらで調べる。スザンヌ嬢、調査が終わるまで、自室で謹慎するように。」
「……っ。はい……」
項垂れた彼女は、女性教員に連れられて、寮に戻っていった。
事故であれ、事件であれ、被害者の僕は通常通り過ごしていいみたいだ。
はあ、今日は色々あって疲れた。
相当疲れていたのか、夕食も食べずに就寝した。
2週間後。
僕を突き落とした証拠が見つかり、スザンヌ嬢は、殺人未遂として、騎士団に連れて行かれた。
その後どうなったのかはわからないが、僕のところに婚約解消の通知がきたので、婚約はなくなった。
そのことは、少しホッとした。
今回のことを例の叔父に伝えると、優しく肩を叩かれて慰められたのだった。




