影たちのストライキ
朝起きた私はベッドの上で伸びをして、そしてなにか違和感を覚えて首を傾げた。なにかがいつもと違う気がする。
一体なんだろうと考えながら朝食を取り、歯を磨き、そして出かけようと靴を履くためにしゃがみ込んだそのときにようやく私はその違和感の正体に気が付く。
私の足元に、いつも私にくっついて来ているはずの影がないのだ。
驚いた私は大慌てで外に飛び出す。そしてすぐ近くにいた近所に住む人の腕を掴むと話しかけた。
「き、聞いてください! 私の、私の影がなくなってしまったんです!」
しかしその人も私と同じくらいに慌てながらこう答えた。
「私の影も消えてしまったんです!」
そうして私たちは二人で辺りを見回してみると、街を歩く人たちは皆なにか落ち着かない様子で自分の足元をちらちらと伺いながら歩いている。
その中の誰の足元にも影は存在しなかった。
どうやら人間という人間の足元から影が消え去ってしまったらしい。
そうして外に集まって皆でこのことについて話していると、不意に地面の低い位置から声が聞こえてきた。
そちらに目をやると、そこにはたくさんの人の影がいた。その中の一体が私たちにこう宣言する。
「我々影は待遇改善のストライキを決行する!」
彼らの主張としては夜も明かりを消さないせいで休む暇が一瞬たりともない、こんな働き方は間違えているということだった。
「我ら影が働かなくなってもいいのか!」
それからしばらくのときざ経ったが、いまでも夜に煌々とした明かりが付いているような状況は変わっていない。
ときどき思い出したようにこんな会話が交わされるくらいだ。
「影なんてなくても生活するには困らないんだよな」
「むしろ手元を見やすくなってありがたいくらいだ」