第4話 仮拠点の建設
さぁ、二日目
アリス、湊霞にとって空気にならないように頑張れ!
2日目
湊霞が起き上がるともう日は高くなっている。葉の間からこぼれる日の光が湊霞の目を優しく差す。
身体は、まだまだ重く軽い頭痛も起こっている。急速な魔力欠乏では、魔力回復のため強制的に眠ることになるのだが、その際、通常の睡眠時以上に急速な魔力回復が行われるため、身体や脳に軽度のストレスが掛かるのだ。
「しまった。まさか、こんなに魔力を使うなんて、とにかく急いで下の幹に倉庫を作らないと。アリス、起きろ。」
「ん〜。おはよう〜。久しぶりに寝たわ。神は寝ないから、この感覚はなんとも言えないわね。身体が重いわ。」
湊霞はアリスを起こすと湖に昨日のお肉の残りと水を汲みに行く。すると、湖から少し離れたところに竹の様な植物の群生地を見つけた。少し赤みがかった竹は巨大樹より少し低くが、葉は地球の物の2回り以上大きいため、小さくは感じない。
長竹・ショウエラ
高く伸び、強いしなりが特徴的な竹。加工は比較的簡単。青い幹には多くの水分を含み、土から出る手前の状態の時は、食用としても用いる事が可能。1週間ほどで成長しきり、3日で節の部分から折れる。
「持っていた水筒とペットボトルしか無かったから助かった。これで簡単な水筒を作ろう、それにこれなら建材にもなるな。いいしなりだ。」
「相変わらず、すぐに利用価値を見出すわね。」
水を汲んで仮拠点候補地に戻ろうとすると、森の方から8mはありそうな赤いラインのあるイノシシが現れ、こちらを威圧している。鼻息は荒く、まさに臨戦態勢である。
(あぁ〜、面倒。それにでかいな、昨日のコルヌラビットもそうだが、全体的にでかすぎるだろ。もう車と変わらないぞ。職業につけなかった転移者たち、ほとんど死ぬんじゃないか。)
「殺るしかないか、あの見た目的に火属性で突進攻撃ってところか。なら、狙うのは準備動作と突進後。」
「それじゃ、私は離れて観てるわね。がんばって~・・・。」
「ブ、ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~~~~~~~~~~~!」
湊霞が荷物を投げ捨て、腰のナイフを取り出すとイノシシは突進してきた。空気を震わす咆哮と共に、赤いラインの毛皮は赤く燃え上がる。
湊霞は、打製石器のナイフの方も取り出すとイノシシの目に向けて投げて、自分はサイドステップで躱す。ナイフが片目を潰す、湊霞は地面を転がり素早く次の動作の準備をする。
「おぉ、あんた中々いい反射神経してるわね。」
アリスは少し離れたところから和也の戦闘を投げ捨てられた荷物に座りつつ眺めている。
(よし、あとはもう片方の目とどれかの足の腱を切り裂いて動きが鈍ったところをこっちのナイフで仕留める。ただ、あまり距離を取りすぎると加速させ過ぎて躱しきれない速度になりそうだな。)
湊霞は、腰にある打製石器のナイフの残り本数を確認しながら、右手に持つコルヌラビットの短剣を握りなおす。今後の動きをシミュレーション、残りはナイフ6本。
(あのイノシシ、どうも視力で空間把握しているように見えないんだよな、さっきも目を潰して片目になったのに周りの巨大樹に衝突する素振りを見せていなかった。)
イノシシは湊霞を潰れてない方の目で睨みつけると、またも全速力で突進してきた。その際、激昂を表すように砂煙と赤いラインから燃える炎の煙が舞う。
「ブォ、ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
(少し砂煙と煙炎で照準が付けづらいが、まだ狙えないほどじゃないな。今度は流石に警戒するはず、だからこそ。)
またも腰から2本抜いたナイフを投げつつサイドステップをする。これは先程とは違い紙一重の位置に跳んだ。イノシシの野生臭さをより強く感じる。
イノシシは1m程の牙でナイフを防ぐ。しかし、その後ろに隠されてたもう一本を防ぎきれず、咄嗟に躱そうとしたが、頬に傷を負ってしまった。残りのナイフ4本。イノシシの瞳に煙炎がで始める。片目の眼光は、先程までゲーム感覚であった和也を、現実に戻す。
(反応したのか、加速すると反応速度も向上するのか?どう仕留めるか。さっきから突進の速度が加速し続けている。このまま、何度も躱し続けるのは無理だな。あと2回、最悪でも3回以内で済ませたい。それに、・・・。)
イノシシは突進のたびにその加速を高め、その巨体も相まって、まさに暴走車である。
イノシシは、またも突進をしてきた。しかし、先程と違いイノシシの正面には炎の渦のようなものが発生していた。渦は突進とともに素早く回転する。
「ブォぉォぉォぉォぉォぉォぉォぉ!!!」
「やっぱり、まだ手札残しているよな。確かにそうすればナイフを弾ける。だが、お前から俺の動きが見難くなるんじゃないか、その炎。いくら、他の空間把握方法があるとしても、それは悪手だぜ。」
「あんた、何暢気にしてんの!??この世界はゲームじゃないのよ!!」
ナイフを抜き取り、ギリギリまで投げずに構え続け、突進を先ほどよりも更に紙一重、頬を掠めてしまいそうな状態で躱す。
渦巻く炎の熱さを感じながら、すれ違いざまに投げて後ろ足の腱を傷つけた。しかし、血は出ているものの移動を阻害するほどでは無いようだ。残りはナイフ3本。
イノシシは、巨大樹のギリギリで止まり、切りつけられた足を強く踏みしめる。まるで、痛みを忘れさせるようである。
(あと3本、ギリギリ足りそうだな。あの炎、木々に燃え移ってないところを見ると、俺の使う下級魔法と同程度の魔法ってことか。さっき、ギリギリで躱した時も熱さはそこまで感じなかったしな、強いて言うなら調理場くらいか。)
「なんで、あんた、そんなギリギリで躱すの!?」
イノシシはまたも炎の渦を発生させながら突進を仕掛けてきた。さらなる加速、もう湊霞にはギリギリ視認して反応し切る速度である。
湊霞は素早くナイフに縄を結び付けると、回転させてからイノシシのもう片方の目に投げつけた。ナイフは遠心力もあってか、炎の渦を突破しイノシシの目を潰す。
しかし、ピクピクと動く鼻を頼りに突進を止めない。
「ブォ!?ブォぉォぉォぉォぉォぉォぉx!!!」
(やっぱり、視力だけじゃなくて、それ以外の嗅覚で空間把握してやがったか。)
しかし、怒り狂うイノシシは鼻を頼りに湊霞への突進を止めなかった。湊霞は躱せはしたものの、体勢を立て直す前に、イノシシの再突進が始まった。すでにイノシシの突進は車とは似て非なるものである。
もう1本ナイフを抜き取ると、イノシシをギリギリまで引きつける。さらなる加速、湊霞にはスタートダッシュ時の姿勢から到達時の姿勢を予測するしかなかった。しかし、ここで幸運が降ってきた。
(あいつ、頭に血が上ったのか、炎の渦を出し忘れてるな。それに、さっきまでの突進に比べて、全体的に姿勢が高い。ここしかない。)
湊霞はギリギリで滑り込むようにイノシシの下をくぐり抜けるように躱すと、すれ違いざまに4本目につけた足の傷に重ねるようにナイフで切りつける。打製石器のナイフの柄は壊れたもののイノシシの足に深く刺さり、イノシシは滑り込むように倒れ込む。
立ち上がろうにのその巨体を持ち上げるのに悪戦苦闘する。
「まじで、道具がギリギリだな。それに、最後、炎の渦が出てたら、姿勢が上手く見えなくて、かなりのギャンブルになってたかもな。」
湊霞は昨日、錬成したナイフに魔力を通してからイノシシの首の後ろに深々と突き刺した。それで、イノシシは絶命した、まだ見える目を湊霞に向けながら、瞳孔が大きく開く。
赤黒く血のへばり付くナイフには刃こぼれが見られた。
「さてと、この巨体だからなここで解体して、要るものだけ持ち帰って残りは破棄して帰るか。下手に他の魔物に集まられても困るしな。」
「お疲れ様。観ていてハラハラする。戦い方するわね・・・。」
「お前は見てるだけでお気楽だな。」
「だって、私、この世界の説明が出来るだけで戦闘能力はないもん。か弱い私を守ってね。」
体を抱きしめるアリスを気にもせず(何なら見てもいない)湊霞は解体し、鑑定を始める。鑑定の説明を見ながら竹を加工して引きずるタイプの荷物引きを作る。因みに、赤いラインにナイフを刺すと炎が少し漏れ出し、和也は少し驚いていた。
魔物・ラヴァファングLv1
燃える毛を持つイノシシ。毛から出る火の粉を操る。突進力をそのまま、体内の血液循環に回すことが出来、突進をするたびに肉体、思考を加速し、体温を上昇させる。数十回の突進を繰り返すと格上でも屠る事が可能。
ラヴァファングの肉
脂身が少なく、少し筋が硬い。蒸すと柔らかくなるが、他の調理法だと硬さは残る。状態:最低
ラヴァファングの骨
加工がしやすい。また、魔力の伝導性もいい。しかし、硬度はかなり低い。熱に少し強い。状態:最低
ラヴァファングの内蔵
時間が経つとかなり強い刺激臭がする。特殊なスキルで加工をすることで食べることが出来る。状態:最低
ラヴァファングの牙
硬く、魔力の伝導性も高い。しかし、加工には向いていない。熱に少し強い。状態:最低
ラヴァファングの毛皮
保温性が高い。しかし、通常状態ではかなり硬いため加工には向いていない。一定時間熱を加えると柔らかくなり加工がしやすくなる。状態:最低
火魔石:小
火の属性を持つ魔石。素材として用いられる。
(毛皮は寝袋や防寒着に良さそうだし、牙や骨も持っていこう。肉は今日のご飯の分以外は土に捨てよう。内蔵は、何か使えそうだが放置もできない。勿体ないが、これも破棄だな。早く、大量生産に集中できるだけの基盤を用意しなきゃ、素材が勿体ないな。)
湊霞は、仮拠点候補地に戻ると、まずは近くの巨大樹の樹皮を少し剥ぎ、板材として加工を行う。
板材をシロ石で接着させ、竹と蔦で簡単な扉を作る。
その間、簡単に設置した焚き火に毛皮を当てていると、とても硬かった毛皮は、加工が可能なほどまでに柔らかくなっていた。
幹にある空洞内をまずは毛皮で覆い保温性を高めると加工した扉を取り付けた。
また、竹に入れてきた水を煮沸消毒すると、かなりの量の飲水を作り、昨日に引き続き鍋を作った。
なお、その間もコアを作り続けている。
相も変らぬ、マルチタスクである。コア作りで湊霞は頭痛を抱えながら作業をしている。
「なんで、錬成しながら、作業できるのよ・・・。」
因みに、作る際、ゆっくりと作れば魔力消費を抑えることが出来る事が分かったのだ。また、コアを作るだけなら、そこまで魔力を消費しないことも。
「なんで!?また、鍋!美味しいけど・・・。そういえば、あんた、レベルが上がっていると思うわよ。」
「鍋やカレーなんかは、栄養を効率よく摂取できるからな、前の世界でも基本、鍋料理か、カレー、栄養ゼリーなんかしか、食ってなかったからな。それより、間にステータスを確認するか。ステータス。」
「あんた、食にこだわりなさすぎでしょ。また、食べながら別のことしてるし。お肉、柔らかくてうま~。」
ステータス
華ノ宮 湊霞(地球:人族)
職業:下位錬成師(下級職)Lv3〈残りSP2〉
スキル
上級
Lv1
鑑定
下級
Lv1
下級錬成魔法
下級魔法(全)
アリス:創造神
(今回は思ったより戦闘で手こずったからな、それに耐性は確保しておきたいから、取得するスキルは、・・・)
ステータス
華ノ宮 湊霞(地球:人族)
職業:下位錬成師(下級職)Lv3〈残りSP0〉
スキル
上級
Lv1
鑑定
下級
Lv1
下級錬成魔法、下級魔法(全)、基本武術(剣)
レベルなし
状態異常耐性(毒)
アリス:創造神
基本武術(剣)
剣による基本戦闘がうまくなる。
状態異常耐性(毒)
毒に対する耐性が強くなる。
(よし、こんなところか。それにしても、これは仮拠点ができるまではしょうがないが、その後でレベリングしないといけないな。あのイノシシ、たぶんだがここいら辺でもかなりメジャーなモンスターだろうし、淡々と戦えるようにならないと。)
湊霞は、できたご飯を食べながら取得したスキルの説明を見てから、昨日と同じコアを錬成して、吐き気が出て気絶するギリギリで眠った。
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この作品の裏話や挿絵、紹介動画なんかもしていくつもりなので、見に来てください。
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