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Girls have New world

 1月26日(木)7時30分

 私は今、車の窓から山を眺めている。トンネルを抜けたあたりから、急に景色が変わって、私たちの住む田舎よりももっと山が多くなった。ちょっとキレイかもしれない。

 でも、今はそんなことはどうでもいい。とにかく、眠い。

 本日は例のギャル(あだ名はヒマリらしいのでヒマリと呼ぶ)によって4時にたたき起こされて、冬の県道を走っている。いくら高校受験で学校が使えなくなるから休みになっているとは言え、昨日まで学校だったのだ。朝4時集合はさすがに予想外。とゆーか、寒くて起きれん。まあ、ヒマリいわく、これがフツーらしいけど。

 とゆーか、さっきからどうしよう。この空気。2か月前に比べて、私の対人スキルは200%くらい上昇しているはずなのに。

 全く話題が思いつかん。

「さっきから、二人とも何もしゃべんないのチョーウケるんだけど。アキもなんかしゃべろーよー」

 いや、ウケないよ?何も面白くないよ!こっちはなんとか会話しようと必死なんだよ?!

 私の前、運転席にいる女性も固まっている。会った時から私と同じ雰囲気を感じた女性だ。同時に感じた嫌な予感の方まで見事に的中するとは思いたくなかったが。

(ヒマリ、どーにかしてよ。この空気)

 私は内心で祈った。実際、ヒマリは定期的に話しかけてくれている。話せないのは、ヒマリと話過ぎたらこの人に悪いのでは?とかいろいろ考えちゃう私が悪い。

 とゆーか、運転席の女性、よくヒマリと知り合ったな。ヒマリは正直言ってギャルだ。この陰キャっぽい女性(失礼!)と気が合うとはとても思えない。

「じゃ、じゃあ、人狼ゲームやろませんか?」

「3人でですか?」

 また、凍ってしまう空気。しまった、せっかく女性が久しぶりに話したのだから乗れば良かった。でも、この人数で人狼は無茶だろう。ハーちゃんもいるけど、ハーピーはしゃべれない。残念なことに。

 どーしよーか?トランプとか…は持ってきてないしな。ヒマリが急に来たせいで慌ててたから余計な荷物は持ってこなかった。お菓子の1つでも持ってくれば、パーティームーブができたんだろうけど。

 あ、そうだ!

「じゃ、じゃあ、じゃんけん大会でもします!?」

「す、すみません、私、運転中なので、て、手を使うのはちょっと。」

 しまったー!女性は「口頭でいいなら」と言ってくれたが。ごめんなさい。一度、くじけた企画を「じゃあ、それでやりましょう!」といえるほど、私のメンタルは鋼じゃないんです。

 マジで、ヒマリ、なんかない?ゲームでも、話題でも会話のきっけけになりそうなヤツ。

「じゃあ、日本語禁止ゲームとかどよ?以外にアガるんじゃね?」

 日本禁止ゲーム?何を言っているのか、ちょっと分からないな。日本語ですら会話がままならないのにどうしろと。とゆーか、ヒマリの英語の成績、私より下だった気が…

「だからこそじゃんか。どうせ、しゃべれないんだったらゲームにしちゃえば話せるっしょ。どうよ、ウチの逆転の発想は?素晴らしいっしょ」

 なるほど…確かに。ゲームという大義名分がつけば、お互いに気を使いすぎず、話せるかもしれない。

 でも、そうなると重要なのは話題かな。いくら、日本語禁止にして気を使わなくなっても、共通の話題がないという問題は解決していないのだ。

「2人に任せると、マジで話すこと決まらなそうだから、何話すかはウチが決めるね。2人ともいいっしょ?」

 イイよ。別にイイけど、失礼なじゃない?まあ、たぶん、今の感じだと二人とも話題ないけどさ。

「じゃあ、ウチがゲームマスター兼プレイヤーね。最初に話す内容はー」

 なんだ?どんな話題だ?なるべく話やすいヤツで頼む。

「じゃあ、初めて獲った獲物で」

 っておい。私はこれから初めての狩猟に行くんじゃ。まだ、獲ったことないよ。何なら今回も私は別にモンスター狩りはしないよ。ただの見学だよ。

 今回のメインは私じゃなくてハーちゃん、おっと、ヒマリが呼んでた名前はサッチーか。サッチーの怪我が治ったから、そのリハビリで軽く狩りをするって話だったし。

 そのことに抗議するとヒマリは「めんご、めんご」とテキトーに謝った。なんで、私の友人は軽く謝るやつが多いんだ?

「じゃー、三人のなれそめ」

 なんだ、それ。お見合いじゃないんだぞ。まあ、でも共通の話題なんてそれくらいしかないか。

「なら、まず、五味ちゃんとアキ」

 運転席の女性については一応、最初に紹介されたけど確かにそんな名前だった気がする。

 私は五味さんを見た。

 運転中の五味さんはこっちを見られないが、多分同じことを思っているだろう。

「わざわざ話さなくても、ヒマリは知っているだろう」と

 なにせ、この五味さん、連れてきたのはヒマリだ。で、私と五味さんは初対面だ。とゆーわけで、五味さんと私のなれそめはヒマリの紹介。はい、終わりだ。

 ヒマリは「はい、五味さん」と話題を振った。

 五味さんの口から飛び出したのはメチャクチャ悠長な英語だった。

 ェ、五味さん、英語うっま。ネイティブじゃん。ネイティブ。ネイティブスピーカー。

 何なら、リスニングテストに出てくるボブやマイケルよりもスラスラ喋っているかもしれない。

 ヒマリによると、五味さん、大学時代はバックパッカーだったらしい。ェ、こんなに陰キャっぽいのにそんな陽キャの代表みたいなことしてたの?

 で、さっきの自己紹介では仕事に休みに行く狩猟やキャンプが唯一の楽しみって言ってた。待って。めっちゃ、アウトドアだな。五味さん。見直したよ。

 ちなみに私は英語全然できないよ。第一、高校の小テストの点が悪くて、山に逃げたときにサッチーに出会ったくらいだよ。学力の方はお察しということで。

「じゃあ、次、私とアキ」

 いや、待って。先に私?ヒマリと五味さんのなれそめのほうが気になるんだけど。バックパッカーしてたOLとギャルJKの出会いとかラノベが、一作れそうだよ。ホントに。

 まあ、いいや。とりあえず話すとするか。私とヒマリのなれそめを。

 あれ、「自転車で轢いた」って英語でなんて言うんだ?「アタック ザ バイセコー」とか?

 まあ、とりあえず、私はなんとか拙い英語で話した。五味さんの後だと恥ずかしいが、まあ、何とか。あれ、よく考えたら五味さんって日本語禁止ならチートじゃね?ってことは、ヒマリは単純に話すきっかけを作ってくれただけか。まんまと引っかかってしまった。

 ヒマリ様、ありがとうございます。貴方様はあの地獄の空気をなくしてくれた救世主です。

 で、結局、五味さんの翻訳やら質問とかが入ったおかげで後半はただのなれそめ紹介だった。ヒマリに声をかけた後、ヒマリに住所を伝え忘れた挙句に恥ずかしくてさきに空音とヒマリに連絡先交換してもらって、空音経由でなんとか住所を伝えられたくだりで五味さんが苦笑いしていた。穴があったら入りたい。

 で、やっぱりというか、予想通りというか、ヒマリと五味さんの出会いは凄まじかった。いや、だって「巻き狩り」っていうチームプレーで大物をしとめる狩りがあるんだけど。そのグループで射撃担当だった五味さんがワイバーンを一撃で仕留めたのに感動したヒマリが声をかけたって、ラノベか?

 あ、ワイバーンってのはよくドラゴンと間違われるから、一応説明しとこう。コイツはドラゴンに似ているんだけど、どちらかというとトカゲっぽい。ドラゴンより、もう少しゴツゴツしている。あと、完全に四足歩行するドラゴンと違って、腕が羽になっていて、二足歩行する。

 あと、ヒマリと五味さんのなれそめには続きがあるらしい。実は前にヒマリが旅行先の海外の射撃場でたまたま五味さんと隣のレーンで撃ってた事も後で発覚したっていう。やっぱりラノベか?

 ちなみにこの話は五味さんがしてくれたのだが。正直言って発音が良すぎて9割近く聞き取れなかった。後で五味さんが翻訳版も聞かせてくれたから内容は分かったけど。それで聞いて思ったのは、「やっぱり、コレ、タダのなれそめ発表会だよなぁ」ってことだった。まあ、楽しかったから別にいいんだけど。

 あと、私たちが話している間、サッチーは私の隣で寝ていた。こんなに姦しいとこでよく寝れるね。まあ、主にうるさいのはヒマリだけど。五味さんは割とボソッと喋るタイプみたいだし。私は寝ているサッチーの隣だから声控えめにしているし。

 そうこうしているうちに窓にはさらに多くの山が映り始めた。いよいよ、狩場に来たみたいだ。雪はまだ、降っていないみたいだけど、もう空気が凍てつき始める季節。そのせいだろうか。あたりには人も車もほとんどいない。車の中に響く喧騒も外までは届いていないみたいで、私たちの乗る車はそんな静寂の上をゆっくりと走っていた。いざ、自然の中へ。


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