Girls have Menece
「アキ!海行こうよ!海!!夏といえば海っしょ!!」
五味さんの家で突然ヒマリからそう告げられた私は、慌てて準備を始めた。それからすぐに、家の前にあった車に乗り込んだ。
外はまだ暗い。
こんな朝っぱらから呼び出されたことに対する文句はあった。
それでも、ヒマリには準備の手伝いをしてもらったために強く言えない。だが、もとはといえば彼女が私を海に行こうと誘ったせいだということを思い出した。それでちょっとだけ文句を言いながら車のドアに手をかけた。
そこでふと、小さな疑問が生まれた。
あれ、コレだれが運転するんだ?
そこまで考えて手が止まった。そこをついてヒマリが軽くギャル語で謝りながら、後部座席のドアを開けて預けていた私の荷物を誰かに託した。
「おー、これがアキの荷物か。お、イイもん持ってんねぇー。貰っちゃおっかなー」
この忌々しいオヤジみたいな話し方は…
「ダメに決まってんでしょー。空音」
ダメかーと残念そうな声が聞こえる。当たり前だろう。
「ごめんごめん。冗談だって。」
笑いながら言われても反省というのは伝わってこないのだよ。
「てか、なんでバレたん」
「声でわかるわ!声で!何年いっしょにいると思ってんのよ」
「えーと」
空音が顎に人差し指を当てて、少し考えるそぶりを見せた。
それから思い出したという叫んだ。
それから、、真顔でこう言った。
「266年?」
「私はモンスターか!?」
ドラゴンじゃあるまいし。
そんなに生きれば、将来のことで悩んで家を飛び出すなんてマネしないさ。
私が空音のボケにため息をつくと運転席からクスクスという含み笑いが漏れてきた。
あれ、この声は
「五味さん!?」
「は、はい。10年くらいの付き合いなのによくわかりましたね。」
「五味さんまでボケないでください」
この人までボケだしたら収拾つかないよ。もう。
ちょっとだけあきれているとヒマリが助士席に座りながら言ってきた。
「ウチとは300年だもんね。」
「ちょっと、ヒマリまで張り合わなくていいから」
めんどくさいことにそれに空音が反応した。
「えー、私より長いってどういうことだよー。アキー。」
「張り合わなくていいから」
「わ、私が一番短いなんて…」
「ちょ、五味さん!?こんなことでショック受けないでください!」
車内が落ち着いて、運転のほうも落ち着いてきたころを見計らって、私はある疑問をヒマリに投げかけた。
「五味さんが運転できるから頼んだのはわかるんだけど、なんでコイツまで。」
「コイツとはなんだ、コイツとは」
「コイツとはコイツだよ。空音。」
私の質問に隣に座った空音が突っかかってくる。どーでもいいけど、空音が剥いているミカンがやたらとおいしそうだ。皮はゴミ袋用のビニールに入れて丁寧に口を縛ってからエチケット袋用の網に突っ込んでいる。匂いが漏れないようにするためだろうがなんでこんな時だけ丁寧なんだろうか。普段適当なのに。
私が空音からミカンをもらっている中で、ヒマリが私の質問に答えた。
「いや、こーゆーのは大人数のがいいっしょ。」
それに五味さんが捕捉を入れてくれる。
「ぎょ、漁港の方には許可をもらっているので…ヒマリさんが…安心してください」
「おっちゃんたちも女子がいっぱいいた方がいいって。セクハラオヤジだからなー。あいつら。」
五味さんとヒマリは平然と話しているが、一つ聞き捨てならない発言があった。急いで発言者にそのことを訪ねておかなければ。
「五味さん!」
「は、はい。」
「さっき、漁港って言いました?海を見に行くとかじゃないんですか?まさか、このメンバーで海鮮丼を食べに行くわけじゃ…?」
「え、えーと。」
私の矢継ぎ早な質問に五味さんが言葉を詰まらせてしまう。
しまった、困らせてしまったか?
申し訳ないと思い、反省している私の横で空音が平然とその答えを放った。
「リヴァイアサン狩りの見学だって聞いたよ。」
その衝撃の発言に私は思わず絶叫してしまった。
「ヒマリィ-----‼‼」
自分自身の絶叫が木霊するワゴン車の中で、冷静な私がふと呟いた。
ごめんなさい、店長さん。謝るのは当分できそうにありません…。と。
リヴァイアサン。
全長2~4m。大きいもので10ⅿを超える。肉食。
蛇のような胴体にワニのように強力な顎を持つ。全身が硬い鱗に覆われており、敵の攻撃から身を守っている。成体ではライフル弾を弾いたという記録も残っており、その鱗はお守りとして古くから人気がある。
また、歯は火打石のようになっており、歯の中にある油管から油を吹き付けて火を吐くことができる。主に威嚇に使われる。また、オス同士のメスの取り合いになるとこの炎の大きさを比べるという研究もある。(*諸説あり)
群れで行動し、自分よりも大きな獲物を仕留めることもある。
肉は食用。油を多分に含んでおりとても美味。秋から冬にかけて主に日本海側で獲れる。
眼の前に広がるのは朝焼けとオレンジ色に光る海面。波のせいで時折、白むそれはとても穏やかだった。
そこを2台の漁船が裕悠と突っ切っていく。曲線の船体に沿って生じた波がしぶきを上げ、私の髪を濡らす。
ヒマリとは別行動だが、ハーちゃんも漁港に来ていたようで、今は船前方の縁に立って羽を休めている。来ていたといっても、ハーちゃんが単独飛行してきたわけではない、事前に来たヒマリがハーちゃんを漁港に預けていたのだ。ヒマリ曰く、さすがにハーちゃんを漁港の許可取りと五味さん家までの往復に突き合わせることはできなかったらしい。
ただし、こんな優雅な光景を台無しにするものが三つある。
一つ目はやたらとセクハラ発言を繰り返してくる同乗している漁師のオヤジ
二つ目はヒマリの持ち込んだライフル銃
そして、3つ目はこの小さな漁船の下に潜んでいるであろう化物達である。
もう嫌だよ。こんな船。
まあ、でも何となくずっとモヤモヤしてたし、店長には申し訳なかったし、気分転換にはなるかも。
それに狩りってことはあの音を聞けるかもしれないし。
3時間後
いい加減、オヤジのセクハラトークにも飽きて、私と空音が揃って遠くを見始めた頃だった。前を進む別の船に乗っていた狩人組のヒマリ、五味さんからメッセージが届いたのだ。
「アキ!前、前、見てみないと後悔するっしょ!!!」
何のことか全くわからん。もうちょっと説明してほしい。
まあ、でも熱意だけは伝わってくる。
そう思って前を見る。空音も同じメッセージを受け取ったのか隣で顔を上げていた。
キレイ。
それしか思えなかった。
光のショーって言えばいいいんだろうか。
目の前で、オレンジ色の炎が飛沫を上げながら踊り狂っていた。大人しい本当の波の上で炎が何かの儀式みたいに、激しくも優雅に回っている。
船はその花火のような踊り子たちの周りを、大きく避けるようにして周回しながらゆっくりと離れていた。
まるでスイングバイするみたいに。それと並行して徐々にスピードが落ちている。とゆーか、落としている。
私と空音が我に返り、慌ててスマホのカメラを動画モードに切り帰るころには船は完全に止まってしまった。
よく見るとさっきまで船の先端にいたはずのサッチーがいない。いつの間にか、運転室の上の天井に上って興奮したように羽を広げて威嚇している。
セクハラオヤジたちも何となく緊張しているみたいだ。
すると突然、セクハラオヤジが真面目な声色で声をかけてきた。
「嬢ちゃん。目的のもんだぜ」
その時、船が前後に大きく揺れた。
突然、雨が降り注ぎ、ずぶ濡れになる。
なんだよ。これ。
同時に私達の上をなんにか大きなものが通り過ぎる。そいつが私たちに後ろ側の海に飛び込む。
すると、また船が揺れて土砂降りになった。
いや、まあ、これは雨じゃない。デカいモノが海に飛び込んだせいでできた水飛沫だ。
デカいモノの正体。
それは
「これがリヴァイアサン!でっか!!!」
空音の叫び声のがでっかい!でも、気持ちはわかる!!マジでデカい!!!
とゆーか、さっきの炎もリヴァイアサンが威嚇の為に出す炎だったのか。
スケールデカすぎだな。海。
流石、生命の源。私達の想像なんて軽く超えてくるね。
言ってる場合でもないか。
何せそのスケールを超えた化け物が悠々と泳いでいるのは。
私達の真下なのだから。
「こんなデカいのをどうするんですか!?」
いつも適当気味な空音が、珍しく切羽詰まった感じでオヤジに聞く。
オヤジはちょっと笑いながら、「どうする?バカ言っちゃいけねぇ」と若干興奮した感じで叫んだ。
バカと聞こえたことに若干イラっとしたけど、次に聞こえた言葉が私達を驚かせたせいでそれどころじゃなくなった。
「仕留めるんだよ。ライフルで。」
その時だ。
前方から銃声が聞こえたのは。




