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Girls have Worry

「私、ハンターになりたいんだけど。」

「はァ?」

 空音の「何言ってんだコイツ」という目がツライ。そんな目で見なくてもいいじゃん。まあ、気持ちはわかるけどね。

 自分でもこんな狩猟経験ゼロの女がなにを言っているんだと思うし。しかも、これから受験っていう大事な時期に新しい夢なんて持ってどうする気なんだ。

「突然どーした?」

 空音が玉子焼きを箸で挟みながら口を開いた。とゆーか、その玉子焼き、ひょっとしなくても私のじゃないか?

 まあ、私が食べているの空音から奪った唐揚げだから、人のこと言えないんだけど。

「で、突然どーしたの?前はハンターのツの字も言ってなかったじゃん」

「ハンターの「ハ」の字ね。ハンターのどこに「ツ」が入ってるの」

「ェ、どこにも入ってなくない?で、話戻るんだけど」

「コイツぅー、自分でボケといて、話もどすなや。」

「めんごめんめんご~。」

「それで謝っているつもりか」

 言いながら空音のこめかみをげんこつでグリグリする。少しは反省してくれ。頼むから。

「ごめんって。で、結局、なんで急に」

「いや、こないだヒマリと山行ったじゃん?」

「あー、言ってたね。あのギャルが銃撃つとか予想外過ぎたから覚えてるわ。まー、でも、あの子ならそんなに意外でもないか?」

「まあ、ヒマリの話はひとまず置いておいて」

 私は空音の唐揚げを食べつつ、ハンターになりたいと思った経緯を話した。ヒマリのライフルが創り出した「しずかな世界」、つまり、弾丸が音を追い越した時のあの静寂の音についても一緒に。

 昼食を食べながら黙って聞いていた空音は私の話が終わるとお茶を一口飲んだ。水筒を机に置くと、空音が話始めた。

「つまり、その音を置いてけぼりにした世界っての?それをもう一度聴きたいってこと?」

「そうそう。そうゆうこと」

「わざわざ危険な山行かなくても射撃場みたいなところいけばいいーんでないの?」

「確かに。いやでも、なんかあの緊張感も含めてな気がするんだよ」

「とりまさー、射撃場行ってみるのがいいんじゃないの?」

「まー、そうかも。どっちにしろ受験期だから、あんまし山行かないしね」

「やめろ。思い出さすな!」

 空音が机から身を乗り出して、私の言葉に含まれた現実をなかったことにしようとした。

 私はその必死さがおかしくて、笑いながらコンビニのおにぎりを食べた。

 前歯がプチっと米粒をつぶした瞬間、私の脳に衝撃が走った。

 しまった。射撃場では絶対にあの静寂の音は聞こえないじゃないか!

 なぜなら…

「射撃場ってさー、貸切できないよね。ほかの人も撃ってるよね」

 空音が「ン」と相槌を打った。

「じゃあ、静寂も何もなくない。私が撃ち終えても、他の人が撃ってるんだもん」

 私のひらめきに空音もうなずいた。

「確かに」


「いや、入りづら!」

 横にいた空音が思わず叫んだ。私もこれに関しては同感だ。

 ヒマリだけが、「そかなー、洋服屋さんみたいでINしやすいっしょ」とか言っているが。その洋服屋さんが入りにくいんだよ!隣町の駅んとこの量販店がやっとなのに。

 こんなショーウィンドウがある個人商店みたいなところ入ったことないよ。

 と思っていたが、ヒマリは全く気にせずその店の外開きのドアを開けた。

 さっきの昼食の時、結局、どうしようもなくなった私たちはヒマリに相談した。そしたら、射撃場は使用料が掛かるし、いろいろあって簡単には行けない。だから、とりあえず、銃砲店というのに行って見てみるのがいいんじゃないかと教えてくれた。銃砲店というところは銃に何が必要か店の人が教えてくれるし、銃を持つ資格の本とかも買えるし、いろいろと便利らしい。しかも、入るだけならタダ。まあ、フツーにお店だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。でも、そんな話、貧乏学生なら悩むまでもないよね。お試しで3000円以上かかる射撃場使用料はさすがに出せないよ。

 とゆーわけで、さっそく放課後に行こうということになった。それで今のこの状況。私の後ろにはなぜか付いてきてくれた空音もいる。

 結果からいうと

「メッチャ良かった」

 いや、なんといってもあの子の出会えたのが最高だった!「ミヤムラ」。本来なら銃を所持する資格を持ってから、仮抑え(よーするに予約)するのをご厚意で取り置きしてもらえた。まあ、店長に言わせると中古品だかららしいけど。まあ、そんなことはイイ。とにかく、早く家に帰って勉強セネガル。こんなわけわからない語尾が出てくるくらいにはハイテンション。受験勉強なんていつもイヤイヤなのに、今日だけは楽しみだ。なんせ、銃の予約に加えて、資格の本まで買っちゃったのだ。

 いや、さっきから話が飛びまくりで申し訳ない。

 なにせ、親の説教なんてものは思い出したくもないから。

 夜の9時28分。

 私は公園のベンチに座り、お気に入りのワイヤレスイヤホンで「加ト吉」の配信を聞いていた。ベンチといってもゆっくり寝れるようなヤツじゃなくて、最近流行りの円柱棒を横にした橋みたいなような芸術的なヤツ。トーゼン、座りづらいし、ときたま落ちそうになるからリラックスなんてできない。そろそろ暖かくなり始めたけど、まだまだ風が冷たい。それでも、あの快適なリビングには何となくいたくなかった。それこそ体じゃなくて心が倒れてしまいそうになる。

 冷たい風は何となく落ち着く気がする。「しずかな世界」の空気に近いからかもしれない。音のない部屋も音のある教室やリビングも快適な空気で緊張感なんてこれっぽちもない。暗がりでたまに吹く冷たい風の方が緊張感があってイイ。

 私が狩猟テキストを持って帰ったことはすぐにママにバレた。受験の大切さを語るママの温度感がイマイチ解らない。高いお金を出すのにとか、将来困るぞとか勉強したくてもできない人もとかそーゆー感じのヤツ。まあ、理解はできるけども、そこまでのことか?と思ってしまう。納得はするんだけど、何とかなるだろうって気がするのだ。いや、そうでもないんだろう。社会は厳しい。それはわかっている。でも、勉強以外で食っている人もいるだろう。「加ト吉」なんて中卒だけど、スーパーチャットで食べているって言ってたし。とゆーわけで、正論で返したら母親がキレた。

 子供にマジレスされたくらいでキレんなや。

 で、アナタのためを思ってとか恩着せがましいこと言ってきたから、ケータイだけ持って家を飛び出した。

 まあ、今日は空音ん家にでも泊めてもらって明日帰ろう。そのころにはママも落ち着いてきているだろうし。ママの言い分も納得はできないが、まあ、理解はできる。

 一応、パパにはメールした。さすがの申し訳ないし、警察に捜索願とか出されても面倒だし。だから、私が空音ん家にいくのは知っている。

 私は立ち上がろうとして、金属製のベンチに手をついた。冷たァ!

 そろそろ冷えてきたかな。これは本格的にどこか室内に入らないと。とゆーわけで、空音に電話。あれ、繋がらない。ヤバい。

 まあ、でもいっか。最悪、ヒマリの野宿セットでも借りよう。ヤツなら持ってるだろう。

 幸い空音は風呂に入っていただけで、直ぐに捕まった。

「イイよ」とのことだったから、安心した私はちょっと散歩してから行くと伝えて、川沿いの遊歩道を歩くことにした。少し遠い橋を渡って行くか。ちょっと遠回りだけど、春が近いこの時期にはそのくらいの遠回りがちょうどイイ。

 さっきはムキになりすぎたかな。いやいや、あれはママが私に寄り添わなかったのが。あれ、それは私もか? 

 そんなことを考えながらテキトーに歩いていると向こうからだれか歩いてきた。道路側にいる方の女性が隣の女性に声を掛けながら、こっちの手を振ってくる。誰だかよく見えない。川側の女性の見覚えが全くない。でも、手を振ってくれるってことは知り合いの誰かか。

 でも、あれ成人女性っぽいんだよね。私に手を振りそうな成人女性の知り合い?最近知り合って服装が変わるとピーンとこなさそうなのは五味さんだ。でも、あの人手なんか振るか?

 次第に二人が近寄ってくる。

 あ、川側にいる方が五味さんか。腰のあたりで小さく手を振ってくれる。ちょっと笑顔がぎこちないけど。じゃあ、道路側にいる女性は誰だ?黒髪ロングで超絶美人。ジーパンでボーイッシュに決めてはいるが、色っぽさを感じさせる。カッコよ。でも、どっかで見たような気が…。それもつい最近。

「こんにちは。さっきぶりですね。ヒマリさんのお友達のアキさんでお間違えないですか」

 あ、思い出した。店長だ。

 夜道で出会ったのは五味さんと相変わらず低音イケボと服装のギャップがえげつない銃砲店の店長だった。

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