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Girls have Cockatrice Meat

  草木の間を静寂が支配している。そっと肌を撫でる冷たい風。地面から伝わってくるひんやりとした感触。鼻腔を通して伝わってくる湿った土の匂い。花のかほり。

  私の目の前には金髪の女の子が伏せている。こっちも伏せているので、私の目線からだと足の裏くらいしか見えないが、普段は私と同じ可愛いJKだ。名前を夏梅 日葵 (通称 ヒマリ)という。

 とゆーか、ギャルだ。普段は。

  まあ、流石に冷え切った山の中ではご自慢のネイルもピアスも外している。それにかわいい服とパンダさん柄の靴も、今日は迷彩色のジャンパーと登山用のごっついシューズにとって代わられている。

 本人曰く、「かわいい方がいいけど、怪我したりしたらテンション下がるし~」とのこと。いや、テンション下がるどころじゃないだろう!と私は思うが。彼女の耳が金属製のピアスで凍傷になった話は今思い出しても肝が冷える。

  「それと一番の理由はやっぱあれかな。おしゃれって目立つからかな。」

  まあ、確かにあの格好は目立つと思う。ゴールデンウイークごろから11月あたりまでの彼女は遠くからでもすぐわかる。まあ、それ以外の時期が地味かとゆーとそうでもないけど。たとえ服は地味になったとしても、そーゆー時期はそーゆー時期で大きめの黒くて細長いソフトケースを背負ってるからすぐわかる。 彼女を見失ったことがあるのは、頭髪検査の日くらいだ。それも彼女がでかい声で友人たちと話すのを聞かなかったら、見つけられないところだったし。

  そーゆーわけで、ヒマリは目立つのだ。いくら人間よりも目が悪いモノが多いと言っても、すぐに気づかれてしまうだろう。まあ、ヒマリ曰く、誤射されたら怖いので人がいる時は専用の派手なジャンパーを着るらしいけど。まあ、でも、それにしたって、色がわかりやすいだけで全くオシャレじゃないやつヤツだ。普段の恰好なら間違いなく目立ってしまうだろう。金属にピアスって反射で案外、遠くからでも見えるし。

「あと、まあ、おしゃれ用の服ってやっぱ寒いし、こうゆうとこで長時間いるには向いてないんだよねー」

  まあ、確かに。腹の部分の布がそっくり消え失せてしまった服を着るヒマリ達がお腹を壊さないのかは毎回疑問ではある。それぐらい、彼女の普段の服は寒そうなのだ。

「まじ、ショック―。アッキーもそう思うっしょ―。マジで雪山用のおしゃれ装備ほしくない?」

 いや、別に。

  こういう愚痴をヒマリから聞くたびに思うんだけど、そんなにオシャレっていいものなのか?いや、聞いてほしい。私も陰キャとはいえ、女子の端くれ。おしゃれくらい嗜む。ちょっと好きかなって思う時もある。ただ、真冬の、それも人のいないこんな山奥でおしゃれしたいか?って言われると…。まぁー、こーゆーと、「おしゃれは別に誰かに」云々とうるさいのでやめておこう。ヒマリは趣味の話になるととくにうるさいのだ。こだわりが強いといえるかもしれないけど。

「ぜったい、ジュヨ~あるってー」

  いや、ないだろう。偏見かもしれないけど、ヒマリのようなギャルはそもそもこんな山の中で3時間近く伏せたりなんかしない。某夢の国でなら寒空の下、そのくらい待つかも知れない。それでも、ここでジーと伏せているよりはそっちのほうが寒くないと思う。何より、こっちは土から伝わってくる冷たさでさっきから体が冷えて仕方ないのだ。それにそういう女子はこんなところで狩…

  その時、遠くで甲高い悲鳴のような声が聞こえた。正確には悲鳴ではなく、鳴き声なんだけど。それに続いて、木の葉をまき散らす音とバサバサという音。ここからは見えないが、恐らくサッチーが、追い出しをやってくれているのだろう。

  サッチーというのは、まあ、ヒマリのペットというか相棒というか、まあ、とにかくそういう女の子(?)のことだ。そして、その正体を聞いて驚くなかれ。彼女は猟鳥ハーピーなのである。

  まあ、猟鳥ハーピーとは、よーするに狩猟用に飼われているハーピーのことなんだけど。この子はヒマリが調教した珍しい野生のハーピーなんだけど、フツーは育てている知り合いからもらってくるものらしい。ハーピーは人間の子供に似ているが、腕の部分が羽になっている動物である。まあ、このくらいは聞いたことあるかもしれないけど、見たことない人も多いだろう。結構珍しいらしいが、あんまり動物園にいるのを見たことがない。なんでだろう?

  サッチーが急降下と急上昇を繰り返す。その際の大きい羽音と草木が揺れる音。これに交じってニワトリのような鳴き声が聞こえ始めた。

  そろそろ来るか?

  ドンドン足音が大きくなっていく。葉が舞い散る音。それと一緒に枝が叩きおられるような音もする。サッチーの叫び声。私たちのいる丘陵の右横の草木が揺れる。サッチーがその中にいる何かに向かってかぎ爪を立てて、突っ込んだ。

  その瞬間、雄たけびとともに立派なオスのニワトリが現れた。いや、ニワトリじゃない。それにしては大きすぎる。その体長は3メートル近くもあるようだ。

  そう、コイツはあの有名なコカトリスである。その証拠に尾っぽは蛇の形をしている。この蛇のような尾っぽの牙には猛毒があって、これが原因のハンターの死亡事故が毎年のように起きてる。よく、この時期になるとニュースになるので、聞いたことがある人も多いかもしれない。

  もう気づいている人がいるかもしれないが、ここは山は山でもあの白い大きな壁の向こう。モンスター狩猟許可区域の中なのである。

  そいつは私たちの30メートルほど前を通過していく。そこよりちょっとだけ高い位置に伏せていた私たちからはちょうどアレの首のあたりが見える。イイ位置だ。

  その瞬間、発砲音。

  ヒマリの撃った散弾銃の弾丸が、コカトリスの脊椎のあたりを貫く。散弾銃で撃ったとはいえ、今使ったのは細かい球が周囲に散らばる散弾じゃない。銃弾の中に一発の大きい球が入っているスラグ弾とゆーヤツだ。弾が一つしかないから、散弾と違って、殺傷範囲は狭い。代わりに、威力がとにかくデカい。一撃でコカトリスの首もとが貫かれる。激しい衝撃。耳をつんざき、思考がそれに支配されるほどの、爆音。

  その音と振動は静寂を揺さぶり、周囲を破壊する。コカトリスの巨体が揺らぐ。その皮膚が羽毛が飛び散っていく。羽の白と血の赤。命が噴き出る。咆哮。再び、静寂。

 しずか。

  私の大好きな世界。音が追い付けない世界。

  ズンッ。

  大地に杭が打たれたような音が私を元の世界に引き戻した。どうやら先に現実に戻ったのはあっちが先みたいだ。コカトリスが慌てて体勢を立て直し、大地をつかむように立っている。体勢を立て直すだけであの大地に杭を打つような衝撃を起こした。

  その事実に私が圧倒されていると、コカトリスが突然、大地を蹴った。そのまま、走り去ろうとしている。サッチーが急いで急降下。爪の一撃でとどめを入れようと一気に迫る。コカトリスの方は先ほどの銃撃で致命傷を負い、もはや、虫の息である。だが、さすが野生のモンスター。そんなことは一切感じさせない。強烈な走りで一気に突っ走る。サッチーは追いかけながら攻撃を加えていく。爪が羽毛を弾き飛ばし、肉をえぐる。だが、そんなことはお構いなしだ。ただ、前に向かう。むしろ、サッチーの方が猛毒を持つコカトリスの尾を警戒して、イマイチ攻めきれないでいる。

  私の前にいたヒマリは銃を持って、立ち上がる。そのまま、それを抱えて走る。私もその後を追った。コカトリスたちはさすがに早い。すぐに見えなくなりそうだ。

 ヒマリは突然、進路を反転して、森の中に消えた。枝をよけながら、ひたすら追う。息が上がりそうになるのをなんとか抑えて走りまくる。

  すぐに、ヒマリが反転。私は曲がりきれず、スライディングしそうになった。けど、何とかとどまった。と思ったら、ヒマリはすでに銃を立ったまま構えている。どうやら、コカトリスの逃走ルートを事前に予想して、先回りしたみたいだ。そのまま、銃身の下にあるスライドを弾くように強く引く。銃を撃ち終えると薬莢ってモノが排出される。それが弾けるように飛んだ。そのまま、地面に勢い良く落ちる。土が飛ぶ。同時に、次弾を発砲。今度は外れる。冷静に二発目。これも外れる。コカトリスがこっちを向き、叫ぶ。そのまま、突っ込んできた。巨体が迫る。ヒマリは冷静に発射準備。散弾銃の強烈な反動にヒマリの背中が震えた。

  コカトリスの胸に一発。

 しかし、その勢いまでは殺せない。コカトリスの巨体がヒマリに突っ込んでくる。

 だが、その巨体がヒマリの細い身体を弾き飛ばすことはなかった。それは寸でのところで、阻止されたのだ。倒れ伏すコカトリス。直前まで、前に向かって走っていた勢いで地面がえぐれてしまっている。

 そして、その上に立っていたのは、ドヤァ顔のサッチーだった。

 ナイスゥ!


 トドメの一撃を入れてくれたサッチーにお礼を言って、一通り褒めてから、私たちは薬莢を拾った。薬莢は金属製だから、さすがに落としっぱなしだと環境に悪い。薬莢は土に帰ったりはしないのだ。

 そのあと、鮮度が落ちる前にコカトリスを解体。汗だく、血だらけなので早く帰ってシャワーを浴びたい。浴びたいがこれをさぼると肉がめちゃくちゃ不味くなるので、ヒマリも私も真剣である。ちなみにサッチーは我慢できずにヒマリからもらった生肉を食べている。ちょっとおいしそう。だけど、きっと後で焼いて食べて方がおいしい。少なくても人間にとっては。そう思ってここはじっと耐える。ってヒマリに言ったら「美味しいかどうかじゃなくて、肉の生食はマジでデンジャーだからやめな」と真顔で言われてしまった。冗談の通じないギャルめ。まあ、しかし、正論なので何も言えず。肉の生食、ダメ、ゼッタイ!

 まあ、そんなこんなしているうちに解体も終わった。ふー、そろそろ黄昏時かな。さすがにモンスターがウロウロしている壁の向こうで夜なんか過ごしたくはない。ヒマリとサッチーはたまにキャンプしているみたいだけど。まあ、私にはそんなことして、無事に帰って来られる自信がない。ここはおとなしく帰るとしよう。

 そう思ってヒマリのほうを見ると、彼女が肉袋に解体し終えた肉を詰めたのを持ち上げようとしているところだった。慌てて、複数ある袋のいくつかを預かって車へ。

 今日の夕飯はコカトリスを焼いて食べよう。なにで味付けするのが良いかな?今から楽しみだ。


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