【幕間】
【宮廷楽長マール】
さて。
みなさん。
こうして、とある海辺の街の平凡な田舎者といって差し支えないひとりの少年が、このレムシア帝国の皇帝となったわけです。
先帝カルスと現皇帝ディオスを暗殺したのも彼でした。
ん? なんかややこしいね。
まあ、いいか。
それにしても彼の人生はなんだったのでしょう。
自分の人生を生きられないという不自由に苦しんだようですが、〈転生の短剣〉が彼に与えたのはまったく別のものでした。
本当に彼を苦しめたのは〈自由〉だったと思いますよ。
身分や生まれに関係なく、自分で選択し、命をまっとうすること。
でもそれが彼を苦しめました。自由は苦悩とセットです。
自由であることは、哲学者であり続けなければなりません。
難しいですよね。
いっそ奴隷のほうが自由の苦悩がなくていいかもしれませんね。
主人に逆らわずにいれば、生活はそれなり、不満はあっても、逃げ出さず、戦わず、結局それが日常。
まるで、あなたのように……冗談ですよ。
しかし、皇帝になってからの彼は迷いませんでした。
失敗を恐れず、いくつかの改革に成功しました。
失敗への恐怖、過去への執着、彼にはありませんでした。
実際のところ、人生には成功も失敗もありません。
〈死〉を前にして多くのことは無意味です。
だから彼は重大な決断ができた。
死を意識し続けたからこそ見つけられた。
そのうえ、彼は自分の人生を生きてきたのに、すべては別人の足跡です。
笑っちゃうよね。
でも、僕は、だから、呼ばれたのかな。
たったひとり、彼の数奇な運命の記録者として。
そして、彼は最後の試練を迎えます。
皇帝ディオス、いえ、転生の旅を続けてきた少年レリクスにとって最大の難関。
――〈皇帝暗殺〉です。




