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皇帝暗殺  作者: 無銘、影虎
【第二幕】 The Wizard
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2_8 葬儀

【スプリア/ソロン】


 一年後、領主様マルクス・パトロス様が亡くなった。

 もともと高齢だったが、足を骨折してからは出歩くことが少なくなり、一気に老け込んでしまっていた。

 ある日、高熱を出してから、長くはないかもしれないと医者は見立てていた。


 僕の父は知らせをうけてからずっと泣き通していた。

 葬儀がが終わってからも、しばらく家のなかは沈黙が多くなった。

 ルキウスさまが当然跡をついだが、健康不安があって領内からほとんど出たことがない。早めの世継ぎが必要だろうというのは村の噂話だ。

 ルキウス様はまだ成人ではないから、帝国の政治に参加することができない。相続者の未成年にかぎって特権で中央の役職を成人まで免除されるが、24歳になったならば帝都に赴くこともしなければならない。

「できないとなれば、相続が取り消される」

 両親が夜中そんな話をしているのを聞いてしまった。

 さらに悪いことに、ルキウス様には兄がいるという。

 はじめて聞く話だった。

 大人の隠し事を聞いてしまったようなバツの悪さで、息を潜ませる。

「プブリウス様が戻ってきたらどうなるのでしょう?」

 母が不安げに言う。

「遺言がある。ルキウス様が正当な後継だ。だが……」

 プブリウスという人は長子なのになぜ後継ではないのだろう。なぜ、村を出ていったのだろう。

 これまでの平和がいっきに不穏な空気に包まれるのを感じた。


 そのプブリウスが村にやってきたのは数日後のことだった。


 ルキウスさまと容貌は似つかない。

 ひどく人相の悪い〈連れ〉が一緒だった。右目に眼帯をしている。

 一緒に村の門をくぐると、村人は会釈をするも、明らかに歓迎していない様子だったので、プブリウスは機嫌が悪くなる。

 子どもであろうが睨みつけ、道ばたの石を蹴って家の壁にぶつける。

 僕は遠目にその姿を見つめながら、およそのことは察した。

 ルキウス様とは正反対だ。

 物語にででくるような典型的な暴君のような振る舞い。


 〈武力、権力、力のがあるものほど謙虚でなければならない〉


 領主様の言葉だ。


 領主館に向かうのだろう。家内ではたらくフィアナのことが心配でならなかった。それに、ルキウス様も大丈夫だろうか。

 領内の空気は一変してしまった。

 フィアナがそれ以来、外出してこない。学校も領主様が亡くなってから休止されていたが、再開するという話も聞こえてこない。

 不安で胸が押しつぶされてしまいそうだった。

 思い切って両親に尋ねてみるが、はっきりとしたことは教えてもらえない。

「私たちも毎朝のご挨拶を兼ねて様子は見にいっている。いまのところ大丈夫のようだが、ルキウス様とゆっくりお話ができていない」

「い、フィアナは?」

「見かけていない。家の奴隷給仕は外出を禁止されているようだ」

「なぜ?」

「おそらくプブリウス様だろう」

 なぜ、家長は、領主はルキウス様なのでは。兄とはいえそんな勝手ができるのだろうか。


 プブリウスはやはり領主様から追放されたようだ。人柄を重視し、禁欲や理想からとても受け入れられなかったようだ。とりわけ、奴隷に対する暴力がひどく、父と母は恐怖と共にそのつらい思い出を話してくれた。


 ※  ※  ※


 ある日、僕は使いでパンを受け取るためにカゴをもって街を歩いていた。

 そのとき、遠巻きにプブリウスと悪党が正面の視界に入った。

 思わず脇の茂みに姿を隠した。多くの村人が彼らを避けるのと同じ様に。

 でも、僕は屋敷内の状況を知りたかったから、離れるわけではなく、ふたりの様子をうかがった。


「なあ、プブリウス。弟はいつになったらお前に家督を譲るんだ?」

 右目に眼帯をした悪党が、プブリウスに尋ねる。

「まあ、待てよ。どっちにしろ、時間の問題だろ。あのひ弱、俺には逆らえないみたいだしな。いまでも俺が領主みたいなもんだ」

 プブリウスは答える。

「領民に嫌われているみてーだが、ぎゃひゃひゃ」

 悪党ががからかうように言う。

「知ったこっちゃねーよ。あいつらには興味はない」

「よっぽど悪さしたんだろうな。勘当されちまうくらいだしな」

「黙ってろ」

「でもよ、それはそうと退屈してんだぜ。ただで飲み食いできるのはいいが、もうちっとなんかないかよ」

「女なら奴隷にしろよ。主人の権利だ」

「まじか。ルキウス様がお怒りになるのでは? このあいだもちょっかい出そうとしたら叱られたぜ」

「親父がな、奴隷好きなんだ。奴隷を立派にするとかなんとかで、読み書きを教えるのが趣味でな」

「なんだそれ、一文の徳もないな」

「ガキのころは一緒に勉強させられたぜ。実の子よりも奴隷ばかり褒めやがる」

「そりゃオメーがバカだからだろ」

 それを聞いたプブリウスが胸ぐらを掴み睨みつける。

「悪ふざけをするなら、ここで殺すぞ」

「冗談だよ。お前が領主になるのを手伝いに来たんだ。さっさと弟をやっちまえばいいんだよ」

「それがバレたら継ぐどころじゃねえ。うまくやるんだよ。時間はある」

「それと、ここでは奴隷がふつうに自由市民さま扱いだ。なんかあったら騒ぎになる。それもいけねぇ。やるなら、連れ出してやりな。森とかによ」

「あのフィアナって娘がいいな、弟くんのお気に入りだし、態度が生意気だ」

「あーそれは俺も思った。お勉強ができるからって奴隷が主人をバカにするのは帝都でも御法度だよなあ?」

「よしよし、じゃあ、こんど適当に連れ出すわ。ふたりでやっちまおう」


 思わず声が出そうになった。

 手が汗ばむ。脈が早くなる。


 どうしたら、この危機をフィアナに伝えられるのだろう。

 両親に頼めるだろうか。いや、両親どころか、この村のみんなが、何か事を起こせるはずがないと思った。みな嵐が過ぎるのを待っているかのようだった。だが、これは風と共に去る災害ではない。


 ※  ※  ※


 自分でやるしかない。

 それから僕は時間がある限り昼も夜も、館を見張れる位置で見張ろうと考えた。


 武器がいる。


 兵士が使うようなものは領主様の館にしかない。

 包丁は持ち出せば親にバレるだろう。


 僕は思い出してアンブロシウスの庵に向かう。

 彼が薬草をとりに出かける日時は決まっている。

 その時間であれば留守だ。

 少しの時間も惜しんで僕は蝶の谷まで走った。

 辿り着くと、呼吸を整え、人の気配がないか集中し、問題がないことを確認してから庵に忍び込んだ。


 あらためて見ると物が散乱している。

 どれが大事な物で、そうでないかがまるでわからない。

 僕は以前に来た時の記憶をたどる。

 箱の中に、ひとつ短剣があったはずだ。

 アンプロシウスに見せてもらったことがある。

 金属には見えない透明な刃をつけた不思議な短剣。

 刀身に文字のようなものが刻まれていて、青白く光っている。

 やはりこの世のものとは思えない。

 きっと魔法の短剣だ。僕が使っても、なにかの力を発揮するかもしれない。


 持ち出すことに成功した。

 アンプロシウスにはあとで打ち明けよう。

 いまは、説明をしたり説得をしたりする時間はないのだ。


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