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5.

 

 オリヴィアが12歳の頃、リチャード王子との婚約は結ばれた。



 現王が国外から妃を娶ったこともあり、政治バランスが考慮され国内の中立派貴族から最も爵位が高く、王子と同年だったオリヴィアに白羽の矢が立った。



 広大な領地と貿易の盛んな港をもつ公爵家は資産も事業も安定しており、本人の教養やマナーもその歳の令嬢の中では抜きん出ていた。

 王家としても権力欲がなく、付かず離れずといった態度を崩さない公爵家との縁を結ぶきっかけを必要としていた事も大きい。

 


  議会で満場一致で推挙され、王家から打診があった婚約は王命ではないがそれに近い強制力がある。




 ただ、難しいだけで、断ることはできたのだと思う。



 父も兄もきちんとオリヴィアの意思を確認してくれたからだ。

 それでも公爵令嬢として、婚姻は政略的に結ばれるべきだと思い込んでいた。

 



「わたくしは大丈夫です。どうぞ家門のためとなる選択を」


 と了承したのはオリヴィアだった。

 


 淡いほのかな恋心に蓋をして、恋というものを知れただけ幸せだったと、そう自分の中で折り合いをつけた。



 あの素敵な人の髪の色を表すにふさわしい言葉なんだろうと、夢中になって宝石や花を探したことも。


 探しても探してもどれも物足りなくて、もっと美しくもっと素晴らしい表現がある気がして、兄に聞いたとき「時代を経た赤い装丁の本」と言われたときには大いに喧嘩した。



 それなのに、赤い装丁の本に触れるたびに流れる髪を耳にかける優美な仕草を思い出した。


 理想の貴公子だと言われ、少し冷たく見えるその怜悧な容貌は、気を許した兄妹の前でだけ弾けるような笑い声をあげる。

 そして常に柔らかく綻ぶような笑顔でオリヴィアを呼ぶ彼が、たまに憂いを含んだ横顔で遠くじっと見つめる姿に、オリヴィアは恋に落ちた。

 


 彼は5つ離れた兄と同級生だった。

 きっと今は婚約者もいるだろうし、もしかしたら結婚しているかもしれない。


 兄の友人としてよく公爵家に来ていたが、オリヴィアの婚約が整ってからは訪れることがなくなった。

 もしかしたらオリヴィアの婚約者候補だったのかもしれない。

 

 時折そんな夢想をしつつ恋を諦めたオリヴィアの前で、恋だの愛だのと口にしては恋人といちゃつく婚約者。



 高位貴族ではないが、下位貴族というには実家の権勢が強い伯爵家令嬢のラティーナ。


 新興貴族でありながら製紙業で莫大な利益を上げているらしい。紙の需要はそこかしこにあり、影響力も強い。あの実家の権勢があれば正妃の座を射止めるにも可能なはずなのに、彼女は最初から側室を望んでいた。


 彼女の学院での成績はしらないが、試験ごとに張り出されるトップ10の中に名前はなかったはずだ。

 …つまりはそういうことなのだろう。



 これが穂乃佳が好んでいた小説であれば、ヒロインは男爵家の養女だとか平民との身分違いの恋を乗り越えていく物語となり、オリヴィアが悪役令嬢というポジションとなるはずなのに。


 現実は充分な身分があっても王妃の座を望まずラティーナは側室を望み、「癒し」となることを望んでいるらしい。リチャード王子は「俺自身を見てくれている」と舞い上がっているが。


 このまま結婚に至れば、執務や外交は押し付けられたあげく、寵愛深い側室が世継ぎを産むことになる。

 後宮での権勢はラティーナが握り、王妃よりも側室が上の状態が固定されるのだろう。

 

 つまり、このままの状態がずっと、一生続くと言うことだ。

 

 オリヴィアはそれを理解っていたし、理解っていたからこそ心を壊すほどに疲弊した。

 終わりのない地獄だ。

 

 どうして穂乃佳の意識が混ざり合ったのか、原因はよくわからないが第三者の視点を得ることで視野が広がったし考え方も大きく変わったと思う。

 

「婚約破棄、したい」

 

 

さて、どうしようか。



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