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10.

 

 

 お父様は照れ隠しにか咳払いをひとつするとこう切り出した。

 

 

「オリヴィア、君は領地に帰ろう。学園も王宮にもいかなくていい。領地でのんびりお昼寝だ。夜会も茶会も招待に応じる必要はないし、挨拶も受ける必要もない。君は療養中だからね」

「えっ?」

「せっかくなら領城じゃなく、景色の良い場所でゆっくり療養しようか。仕方がないから、クロード、お前も行きなさい」

 

「わかりました。では、今の季節でしたらラグルにしましょう。俺の商会名義にしてある屋敷があります…期間は?」

「最低半年かな。王宮も隠しきれなくなる頃だろうし。オリヴィアの婚約白紙の手続きをしたら直ぐに僕も領地に戻るから」

「素敵な手土産を待ってますよ」

 


 ふふっ、と笑みを交わしながら次々と決めていく。

 


 先ほどまでじゃれ合っていた2人は詳細を語らずともぽんぽんと決めていく。確認だけしているような。

 正直ちょっと二人の家族の気安い感じとか信頼し合える感じがうらやましい。

 


 いいなぁ。

 


 そしてラグルは公爵領の南側、大きな港街から半日ほど離れた地域で、特に目立った景勝地ではなかったはず。

 あそこに別邸はなかったはずだけれど、お兄様が個人的に持ってらっしゃるということ…?

 

 

 公爵令嬢ではあるけれど、大きな買い物や金額を動かしたことがない上に、穂乃佳の感覚が別邸が何個もある上に個人の屋敷まで所有している事がおかしいと言う。  

 規模の大きさに唖然としてしまう。

 


 知ってはいたけれど、我が家って本当にお金持ちだったのね…。

 生まれた頃から当たり前すぎて、その辺の感覚もあまり自覚がなかった。

 


 しみじみとしている間に2人の間で次々と決まっていってしまう。 

 

 

「オリヴィアの体調次第だけど、可能な限り早く出発しよう」

「わかりました。手配します。身の回りの世話ができる人員は心当たりがあるので」

「護衛は第一を。第二も半数連れて行っていいよ」

「いいですね。大々的に出ましょうか」

 


 2人の間で決定事項のように話が進む中、少し気が引けたけれど、ずっと気になっていることを聞いてみる。

 


「あの、お兄様は仕事がお忙しいのでは…」

「大丈夫。俺の仕事は基本的に領地にいたほうが進めやすいしね。…それともお兄様と一緒は嫌?」

「いえ、あの、そういうわけでは!」

 

 

 しょんぼりとした顔を見せたお兄様は慌てて否定した私に「では決定だね」とウインクをした。



 先ほどから思っていたけれども、お二人ともとても表情がころころと変わる。 

 なるべく感情を顔に出さないように教育されてきたオリヴィアとは真逆だ。

 

 

 「お兄様が、ご一緒してくださるのは嬉しいです。それにお父様がきてくださるのも。でも、お父様も王宮でのお仕事は…?」

 

 

 お兄様もお父様も本当に忙しい人達だ。

 

 特にお父様は外交の仕事を任されて、国外に行くことが多い。

 当主であるお父様が不在がちのため、お兄様も比例して忙しくなっていたはずなのに。

 

 

 「うん? 大丈夫だよ、オリヴィアが心配しなくても」

 「もしかして、お辞めになるおつもりですか?」

 「もともと王宮で奉職すると約束していた期間がもうすぐだからね。少し早めさせてもらうけれど」

「ですが、公爵家が外交大臣の地位を欲したと…」

 

 

 貿易に力を入れているクレアモント家の事業において国外の情勢を素早く入手できる、外交の仕事は重要で、オリヴィアが王子の婚約者になったからこそ得ることができたポストだと思っていた。


 

 あれ…?

 

 もしかしてこれも違う?

 

 

 そもそも、貿易都市を治めていれば自然と情報は集まるはずで…。

 外交官や他国の王族が港に停泊した際は公爵家にお泊りになって歓迎会や晩餐会が催される。

 顔繋ぎだってできるはずだ。

 


 何というか。

 

 

「お父様が自ら要求した役職ではない…?」

 

 思った以上に、私は偏った情報や思想のなかに浸っていたのかもしれないと気がついて、ゾッとする。

 


 何が正しくて、何が正しくないないのか。

 それが全く分からない。

 


 私が自ら出した答えが正解だったのだろう、お父様ははちらりとお兄様と視線を交わすと少し言葉を濁した。

 


「んー。そこら辺の情報を君に与えた者達の炙り出しをしっかりしていこうね。見当はつくけど、一人や二人じゃないはずだ。僕のそばやクロードのそばにもいて、きっと黒幕もいる」

「だからこその領地行きだよ、ヴィア」 

「そう。まずは環境を整えよう。そして確実に味方だと思う者たちで身の回りを整える」

「わかりました。…ひとり、確実にわたくしにお父様との確執を促したものがいます」

「侍女長、だね?」

「はい。お父様が国母を輩出した家門となる事が悲願だと、それこそが名誉ある貴族令嬢の役目であると説いてきましたから」

 


 母が亡くなり、まだ幼かった私のかわりに邸内を仕切ったのは侍女長だ。

 侍女長は、もともとは母の侍女として輿入れの際についてきた子爵家の4女だったと聞く。

 彼女から母も本当は父ではなく王族に嫁ぐこそが夢だったと、母の夢を代わりに叶えるのだとも囁かれていたっけ。

 

 

 「彼女だけがきっと犯人ではないよ。あまりにも分かりやすい。君がここを離れることで思惑があるものたちは焦って行動するだろうしね。僕にどう進言してくるのか、それも一つのふるいだから。君はたくさんクロードと話をしておいで。もちろん、その後には僕とも。それが君を、私たち家族を守る鍵になるから…クロードは、わかるね?」

 

「はい、オリヴィアを全力で守りつつ、認識のズレを報告しますよ」

 


 頷く私たちを見て、お父様も頷く。



 

「よろしい。では、取り掛かろうか」




 読んでくださってありがとうございます。


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