表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安女子のイケない食卓 ー 摂津源氏物語集 (3) ―  作者: クワノフ・クワノビッチ
3/12

(3) 人生いろいろ、女だって、いろいろ !

うぁ、なんとか昼に間に合った!

今回もぎりぎりセーフです。

よろしくお願いします。

(いい)でございます。お召し上がりくださいませ」

 暫くすると、一人の()()()()が、温かい強飯(こわいい)を持ってきた。


 強飯とは、米を甑器(こしき)で蒸したもので、現代のように、まだ米を水から炊く習慣がなかった為に、今の御飯より硬いものだったらしい。

 しかも、飯の盛り方も独特で、椀の中で飯が山状に()()()()()になっており、贅沢にも玉子が添えられている。

「大丈夫ですか? ……そなたが、わざわざ持って来なくとも、他の者にやらせれば良いのに! 」

 小萩が女の体を気遣って声を掛けた。

「いえ、いえ、何をおっしゃられますか、むしろ今は、体を動かした方が楽なのですよ」

 そう言うと、女は()()()と笑う。なかなか逞しい女である。

「御苦労様。……では、これでも食べて滋養(じよう)をつけて下さいな! 」

 小萩は自分の膳にあった玉子を女に渡してやった。

 すると女は、本当に嬉しそうに感謝しながら戻っていったのである。


 後で聞いた話だが、この女は能登(のとの)(かみ)(よし)(しげの)(やす)(あきら)の娘だということだった。

 夫が別の女性の所に行ったままになり、寄り付かなくなったからと、自ら離縁することを選んだが、その後、良い縁には恵まれず、生きて行く為に(うた)(うら)を行って生計を立てていたらしい。

 因みに、歌占とは和歌を使った占いのことである。

 だが、もともとは貴族の娘のことだ、世間の荒波には勝てず、終には()()めて行き倒れそうになっていた。

 そして、そんなところを拾われたらしい。

 しかも、多田の地に来た時には、既に身重になっていて、腹の子は、誰の子かもわからないそうである。

 というか、小萩としては 「聞くのも野暮(やぼ)なので聞けてない」 との話だった。

 だが、生来が真面目な人柄なのだろう。

 世話になるだけでは申し訳ないと、今では侍女のように、率先して(うち)の仕事をやってくれるらしい。


 これは余談だが、源頼光の()()に"相模(さがみ)"という名の女流歌人がいるが、この人の母は、実は能登守・慶滋保章の娘だといわれている。

 本来、どういう縁で頼光が相模を養女にしたかは分からないが、後に相模は、和泉式部(いずみしきぶ)にも負けないような情熱的な恋の歌を詠う歌人となった。

 そして、一条天皇と皇后・定子との間に生まれた脩子(しゅうし)内親王(ないしんのう)や、()朱雀(すざく)天皇の皇女である祐子(ゆうし)内親王に仕え、数々の歌合戦で活躍することになるのだ。


「凄いですぞ! ……あの方の歌詠みの(さい)は」

 小萩は、そう言いながらニコニコ笑っている。

「確かに、ご縁には恵まれなかったかもしれませんが、とにかく歌がすらすらと詠めるのですよ。……例えば、()()()()()()やら"お題"を言えば、あっという間に、その場で作ってしまうのです 」

 少し興奮気味に語った。

「ほう、……凄いですね。こんな(いなか)には()()()()()()才女ですね! 」

 桔梗の口から、思わず本音が漏れる。

「私も都に住んでいるので、和歌はそれなりに学んでいますが、本当に早くて上手い人は、やはり才覚があるのでしょうね 」

 つまり、その才能が認められたからこそ、この人は()()に居るのだろう。

 そう思うと、桔梗は(うらや)ましくなった。

「私にも、あのような才覚があれば、宮仕えができたのかしら? 」

「……さぁ、どうでしょうか」

 少し考えてから、小萩が口を開く。

「宮中にお仕えしている女官は、それなりに訳ありの方が多いようですし、……」

 何だか、含みのあることを言ったのである。


 確かに、この時代に宮仕えをしている女性らは、特殊な事情を抱えていたかもしれない。

 まず、結婚の時期が今と比べて早すぎる。

 例えば、最悪のパターンではあるが、二十歳前後で結婚し子育てもしたが、子供の手が離れた頃には夫婦仲が冷めきってしまい、肝心の夫が家に通って来なくなったので、実質的には"離婚"してしまう。……そんな話がよくあったようだ。

 そうなると、身内に権力や経済力がある者がいない場合、離婚後の生活を支える為に働きに出ることになる。

 この場合、貴族の女性なら侍女や乳母、身分が高ければ宮中の女官など、安全な職場を考えただろう。たが、宮中だけは特別である。

 その人物に宮中に出入りできる程度の身分があり、しかも誰かの紹介が無ければ勤められない。

 清少納言や紫式部のような歌詠みの才能のある者達も、離婚後の仕事として宮仕えをしたわけだし、もちろん、信用のある一族として認められていたからこそ出仕が叶ったのだ。

「まぁ、……宮仕えといっても、それほど楽なものではないでしょう。いろんな方がいらっしゃって気を遣うだろうし、御身内の方々の位がとても高いとか、文や歌の才がある方は別としても、……我が家は、どちらかというと"(つわもの)の家"ですからね 」

 そう言うと、小萩がニコリと笑った。

「そうですね。()()()()は女官向きではないですものね! 」

 その一言に、二人は声を出して笑ったのである。







まだまだ続くので、今後も宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ