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後退った日①-2-1

「問おう。あなたがわたしのマスターか」


「…………」


箱を開けます。


中から筐体を取り出します。


起動させるために使います。


使い終わったら清掃をします。


それは私が「ふぅ……」ってなって掃除をしようと思った時の出来事です。


ドールの目が開いて、開口一番言ったセリフがそれでした。


「…………」


「…………」


百五十センチくらいの真っ裸な少女が、恥ずかしがることもなくこちらの目を睨みつけての質疑です。


どうみても抗議ですね。本当にありがとうございました。


「……あ、ああ」


いやいやマテマテ相手はドールだ。人じゃない。物だ。落ち着け私。まだ慌てる時間じゃない。


しかしドールの出来があまりに人間に近かったがゆえに私の動悸は止まらない。混乱は収まらない。思わずくぐもった変な声が出た。股間は畢竟しょんぼりへにょんだ。


「了解した。マスター。私はあなたに忠誠を誓おう。もう一度するか?」


「……え……えっと」


マスター。


確かにそうかもしれない。私がエンドユーザーであることに間違いはないのだから。


しかしだ。ラブドールの性能が斜め上に高すぎてエロ的好奇心より恐怖が先に立ってしまっている私に再戦という選択肢はない。暗に応じろという要求だとするならばそれはいささか以上に酷が過ぎる。


だいたい忠誠とか言われてもそれに対するお返しなんかできないのですが大丈夫でしょうか的な、お金はあるんですがキャッシュは今手元になくて電子決済オーケーですか的な、とにかく私は性風俗のオプションにいかなる対価を支払わされるのかという戦々恐々な心理状態に陥っており深すぎる(さいな)みにパニック、イントゥジアンノウンだ。これもう絶対中に人が入ってますよねと訝しむこと幾数回。人工知能の発達速度やばくないですか。高性能すぎて目の前の人型がドールであると信じ切れない自分が切ない。私は完全に技術者として後塵を拝している。消えたい。


「もう一度はいいので、その、服を……」


とりあえず全裸少女人形に服を着させてこの場を何とか収めねばと思ったのも束の間、言いかけて私は言葉に窮する。


彼女の服をどうしよう。私の服ではサイズが大きすぎて着せるのは無理だぞ、と。


「了解した。武装を展開する」


なんて思っていたら少女人形がその場に起き上がる。


『〈―― 戦術礼装展開(バトルフォームエクイップメント) ――〉』


フリーズしている私をよそに少女が呟いたその途端、ドールの筐体が淡く光りだした。


例えるならそれは魔法少女が変身する時に体の重要パーツを視聴者に見せないよう光で処理するアレを現実でやってみたという感じ。


激眩しい謎の光の再現に不意を突かれた私は視力を奪われる。いきなりすぎてとても「目がー目がー」ごっこをする余裕はなかったよ。


「完了した。私はいつでも戦える」


「……え」


視力を取り戻した私がそこに認識したのは西洋騎士の甲冑だ。


やたらお金のかかってそうな本格派板金鎧。


腰に差している長物も安い間に合わせではない。


ぱっと見でもお高そうとわかるいでたちだけれど、それはいったいどこから出したのでしょう。確かに色んなオプションをめちゃくちゃポチった記憶はあるけど、それって宝くじが当たった後だったような。


「どうしたマスター。私の正装に不満でも? しかし私はこれ以外の礼装を保持していない」


「え、あ、そうなんですか。なるほどですね」


思わず口をついた敬語。


そして何がなるほどなのか。


何故に敬語。相手、愛玩人形(ラブドール)なのに。


「しかし、その格好では動きづらいのではないかと思いますよ、少なくともこの家の中では」


あんな(いか)つい鎧なんて買った覚えはないけれどまぁその辺はどうでもいい。とにかく家の中でその格好を推奨するわけにはいかない。それを認めてしまったら家具が傷む。板金鎧でベッドに寝られた日にはベッドの足が折れるかもしれない。少なくともマットレストッパーは無傷で済むまい。それは椅子とかソファーでも同様である。

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