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後退った日①-1-1

あれから何日も何日も砂漠は消えなかった。


そうして何日も何日も過ごしているうちに夢を見た。


私は夢を見た。


夢ではテキストが語り掛けてくる。


“願いを――三つまで”


私は一つ目の願いを迷いなく述べた。


一つ目の願いは健康な体だ。


不健康で苦しんだ人生だった。


どんな富よりも名声よりも快楽よりもそれだけが欲しかった。


二つ目の願いはどんな怪我でも病でも癒せる奇跡だ。


私を助けてくれた伯父さんは元気ではいるが、健康とは言い難い人で左足も義足だ。


もし私が技術者ではなく医者を目指していたならば、真っ先に治療してあげたいと思う人だ。


願わくば伯父さんの病が治りますように。可能なら足が再生医療かなんかで元に戻りますように。


三つ目の願いに望んだのは危険を振り払う力だ。


銃社会アメリカ。やんちゃで腕白な輩はごまんといる。


命を奪われそうになるなどといった酷い目に会った事はないが、襲われたら抵抗できないまま害されるだろう。


おかしな話だ。半ば諦めていた人生なのに。安全を欲するなど。


しかし未練も悔いも残っている人生だ。心から死にたいわけじゃない。痛かったり辛かったり苦しい思いをしたいわけじゃない。自死を望むほど世界に絶望をしているわけでもない。


過去に自殺未遂はしてしまったけれど、あれは確たる意をもってやったわけじゃない。まさに気の迷い、自分の意志の範疇から逸脱した衝動のような何かで事故のようなものだ。


とはいえ、私は生きている価値のない世の中の屑ゴミである。それは理解している。


わきまえているつもりだ。だから今更何を願っているのだと思わなくはなかった。


でも。


それでも。


そう思う反面――何なら世界最強な存在にでもなれたらいいのに――と願ってしまった。


私はもう、人から虐げられたくない。


人と関わりあいたくない。私を取り巻くあらゆる悪意から私は解放されたい。


だからどうか、私に絶対無敵の、宝くじの賞金というまがい物などではなく、本当の自由を――。



“あなたの望みを承認します”



その言葉に、私は安堵した。


叶えたかった夢を叶えたかのような、何といえばよいのか、とにかく筆舌に尽くしがたい喜び――宇宙のように広がる全能感を得た。



“貸付額は百億オラクルです。返済期限は五年です。ご利用ありがとうございました”



そして最後のテキストを見て、私の喜びは反転した。


一生かかってもとても払いきれない借金を背負ってしまった気分。


とんでもない失敗をしてしまったような絶望。


取り返しのつかない罪を犯してしまったかのような罪悪感。


それらを一言でいうなら、あえて一番近い言葉を選ぶなら――恐怖。


背中から奈落へと落ちていく感覚。あるいは血も凍るような寒気。


そこで――目が覚めた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



目を覚ました私が最初に見たものは木々だ。


窓の外に見える景色が変わっていた。


砂漠ではない。


林が遠くに広がる、例えるならキャンプ場のような場所だ。


まだ夢の中なのか。


そう思って私は二度寝した。


少し眠り、どれほどかが経ち、意識が覚醒する。


眼を開けて窓のほうに目をやれば、やはり外の景色は先ほどと同じだった。


変わったのは太陽の位置だけだ。


窓に差し込む光の感じから時間が進んだのだと思えた。


時計を見れば針が示すのは午前十一時。


パソコンの電源は入ったままだ。


空気清浄機もエアコンも動いている。


それらを見てふと、私は(バッテリーが持っているのはどういうことなのだろう?)と疑問を持つ。


ソーラー発電だけでは賄えない使用量だと思う。周りの環境が著しく変わっているというのにライフラインが維持されているのはどういう理屈によるものなのか。

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