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20 祝福にして呪いの生誕



 そんな日の放課後の練習。グラウンドには対抗戦代表の練習を見に来る者もちらほらと現れていた。その多くは暇な冷やかしの見物人。噂のバカどもはどんなもんかと。しかしその実力と真剣な取り組みを見ると茶化す気にはなれず、黙って離れていく。


 一方で単純な応援もいた。八総に関しては「ファン」と言えるような存在も増えていた。元々が野球のエース。世代別日本代表でも投げていたことはすでに広まっている。加えてその高身長とスタイル。目立つ金髪に加え、顔もいい。そんな「普通」からかけ離れた普通科の彼が、普通科のために戦う。周囲の声など関係なく、勝つためにやると、やらないとわからないと。その迷いなく自信に溢れた戦う姿には、普遍的な「かっこよさ」がある。


 八総は元々「モテる」人種である。身長や顔やエースという要素は大きく、それは小中学生であれば強力なポイントであった。しかしそれも基本的には最初のうち。周囲が彼を知るにつれ、次第に落ち着く。それは八総が野球以外、ピッチャー以外何一つ興味のない人間であるからであった。彼の頭の中に恋愛などという文字は一切ない。野球、投球がすべて。休み時間もひたすらに野球。教室でも何か野球の本を読んだり、動画を見たり、野球の話をしているだけ。その没頭ぶりは他を寄せ付けず、どこまでも自分ひとりの世界。一人であることも一切恐れない。連絡先の交換など不可能。話すことすらままならない。「悪いけど今忙しい」。それ以外の答えなどとてもじゃないが期待できない。


 そんな人間だから、早々に「諦め」られる。憧れは残ったところで「完全に自分とは別の世界の人」という認識に落ち着く。こういう人間だけがプロになるのだろうと。


 しかし当然日新学園の人間たちはそんなことは知らない。彼が動画内で話す姿やその金髪が八総のイメージを作り上げる。しかし根底は変わらない。野球を、投球を失っただけ。そしてその代わりを探し、見つけ、没頭するだけ。野球ほどではないにせよ、自分の人生、新たな目的以外には基本興味はない。


 ただひたすらに、野球を失った空白を。自分の人生を、取り戻すため。



 そんな八総に向かっては時たま黄色い声が飛ぶこともある。ある意味普通科らしいそういう声。普通科だからこその「ミーハー」さであり、ミーハーであるからこそ普通科でもある。


「お前なんであんな人気あんだよ……」


 と宮古は苦虫を噛み潰したような顔で言う。当の八総はスマートフォンで撮影した動画を見返しているところであった。


「金髪だからじゃね?」


「意味わかんねえ」


「人間明るいもんのほうが好きだろ」


「虫扱いかよ」


「違うけど、というかあれ人気なの?」


「そうだろ普通に考えて」


「そう。まあ他人の人生にどうこう言ってる暇あったら自分の人生生きろって感じだけどな」


「……お前って結構薄情っていうか、厳しいよな。人間性に問題あるっつうか」


「そんな? けど実際他人の人生とか自分の人生に関係ねえじゃん。勝負だって他人の応援してるより自分でやったほうが楽しいだろうし」


「やっぱお前全然普通じゃねえっていうか、普通科じゃねえよな……共感って意味じゃ人選ミスりすぎだろ」


「全国出てるお前が言うなよ」


「そういうことじゃねえけど、まあいいわ。何より勝たねえと始まらねえんだし。実際俺も意識改革とかは正直どうでもいいからな。普通科が上に勝つとかいうのが面白いってのはわかるけど」


 そう言って「観客」らの方に目をやる宮古の表情が、突然険しいものに変わった。


「どうした?」


「……あいつ……」


 八総はその視線の先を見る。そこにいたのは男子生徒たちのグループ。宮古はそちらの方を睨みつけながら、つかつかと歩み寄る。


「おいおい、犯罪者がマジで代表とかやってるよ!」


 と一人の男子生徒が周囲に聞こえるようにわざとらしく大きな声で言う。


「どっちが犯罪者だカスが」


「ああ? 誰に向かって口効いてんだよ前科持ちが。お前誰の温情で日新入れたかわかってんの? なに調子こいて対抗戦の代表なんてやってんだよ。ていうかよく出れるよな犯罪者のくせに。どんだけ面の皮厚いんだよ」


「おう宮古、こいつもしかして例のいじめっ子?」


 と宮古の後方から八総が声をかける。その「いじめっ子」という言葉のチョイスに、相手は「ああ?」と気分を害する。


「お前それわざとやってんだろ」


 と苦笑する宮古。


「何が? とにかくあれか。例の政治家の親に産んでもらえた、って実際は産んでもらったわけですらねえけど、とにかくそれだけで好き放題やってたバカ息子」


「……ハッ。やっぱ類は友を呼ぶだな。普通科みたいなゴミ溜めはこういうろくでもねえ金髪の不良とつるむしかねえかそりゃ。お似合いじゃねえか前科持ちの犯罪者と金髪の不良」


「俺は金髪なだけで不良じゃねえよ。お前のほうがよっぽど不良っぽいけどな言葉とか。どっちかっつったら三下の悪役だけど」


「……マジでなんなんだよお前。俺が誰かわかってんのか?」


「知らね。名前なんだっけこいつ?」


 と指差し宮古に尋ねる。


「……菅生」


「そう。まあ名前は知らねえけどとにかく人のこといじめといてそれ全部親にケツ拭いてもらってたしょうもねえガキだろ?」


「……なんもわかってねえバカだなマジで。バカでもわかりやすいように聞き方変えてやるよ。そいつから話は聞いてんだろ? じゃあ俺の親が誰なのかはわかってるよな?」


「知らねえよ。子供が中学生になってまでわざわざケツ拭いてやってる親だろ?」


「てめえ……わかったわ。てめえも潰してやるよ」


「言葉は正しく使えよ。『潰してやる』じゃなくて『潰してもらう』だろうが。お前一人じゃなんもできねえだろ。ただのガキだし。どうせ親に泣きついてあいつやっつけてーって頼むだけじゃん」


「……お前マジでなんなんだ?」


 流石の菅生も困惑の色を隠せない。曲がりなりにも自分のことを、自分の親のことを知りながらこんなことを言ってきた人間など、これまでいなかった。


「お前こそなんなんだよマジで。いじめまではまあそんなやつゴロゴロいるからギリギリわかるけどよ、それ全部中学生にもなって親にケツ拭いてもらうとか自分で情けなくなんねえの? いい歳こいた高校生なんだし自分のケツくらい自分で拭けよ。てめえの人生だろうが。一から十まで親の人生にやってもらってて自分で嫌にならねえの?」


「――お前に何がわかんだよ。誰だか知らねえけど、全部俺がやってることで俺の力なんだよ。生まれが違うってのはそういうことなんだよ。全部俺の力で俺がやってることだ。俺が最初から力を持って産まれてきたんだ。初めから生まれが、階級が違うってのはそういうことなんだよ。お前にもそれをこれから痛いほどわからせてやるよ」


「それって脅迫罪とかじゃねえの?」


「ハッ! バカのくせに法律語るとわなあ。証拠がどこにあんだ? 大体法律なんてのは俺たち権力者の道具なんだよ。上の人間が下のバカどもを支配して罰するためのな。法なんてもんが適用されんのはお前ら下流のやつらだけだ。それなのに法なんてもんを信じて生きてんだからお笑い草だよな」


 菅生がそう言って笑っていると、


「あら、何がそんなに面白いのかしら菅生君」


 と八総の後方から埓木崎がやってきていた。


「……埓木崎世界か」


「どうも、お久しぶりね。といっても最後にあったのはお互い覚えてないくらい昔だろうけど」


「お前こいつと知り合いだったの?」


 と尋ねる八総。


「一応ね。小学生くらいの頃に一度会った程度だけど」


「ほんとに普通科で対抗戦とかやってたんだなお前……それでお前らこんな調子こいてたわけか。埓木崎がバックにいるわけだからなあ。埓木崎が守ってくれるからやりたい放題ってか? 女に守られて情けねえのはどっちだよ」


 菅生はそう言って勝ち誇ったように笑う。


「あら、ということは私が守らなければならなくなるような何かを彼らにするつもりなのかしら」


「……例えだよ例え。俺は別に何もしねえよ。なあ?」


「ということは他の誰かにでもさせるつもりかしら」


「……お前もよお、埓木崎だからって、RACHIS会長の孫だからってあんま調子こいてんじゃねえぞ。いくら大企業だろうとこの国じゃ一番偉いのは政治家だ。てめえら企業なんて簡単に潰せんだよ。誰のおかげでこの国で商売できてんのか思い出したほうがいいんじゃねえのか?」


「誰のおかげで、ということであれば従業員、お客様、あらゆる人々のおかげでしょうね。人がいなければ企業などありえないのだから。それは当然国も政治家も同じでしょ。それにたとえあなたの言う『誰か』のおかげだったとしても、それは絶対にあなたではないし、あなたの父親でもないし、その他数多の政治家の誰でもないわよ」


「言うじゃねえか女のくせに。偉そうにしてっけどお前も人のことなんか言えんのかよ。しょせん全部親の、家の力でしかねえじゃねえか。親の力で好き勝手してるくせに偉そうに自分だけ正義気取りか?」


「そうね。私も個人としては大した力はもってないのは事実だわ。親の、家の、グループの力を好きなことに使っているから。一部は自分が積み上げてきたとはいえ、元となる投資をしてくれたのはグループだからね。それは使えるお金も同じ。すでに返しているとはいえ借りたものだし、それを原資に自分の手で増やしただけだから。でもそういう投資の利益だって決して自分の力ではなく、各企業や従業員、人々の購買や生活によって得られるものだからね。みんなのお陰で今の私があるし使える力がある、という事実は変わらないわ」


「……その金でこんなそれこそ金持ちの道楽の無駄なことやってんだから意味ねえよな」


「別に金持ちの道楽ではないからね。あくまで投資よ。様々な形で帰ってくると信じている投資。ある意味では帰ってくることすら望んでいない投資。お金である必要は当然、形を伴って明確に現れてくる必要すらない投資だからね」


「そりゃバカだな。結局ただの金持ちが金も時間も余ってるからって自分良く見せるためだけに弱者に対して慈善事業やってるってだけの話だろ」


「そう思う人もいるでしょうね。でもこれは慈善事業とは異なるし、そもそも彼らのことを弱者とは思っていないからね。もちろん本当の『弱者』への支援も厭わないけど、これはそれとは別ね。


 とにかくあなたには私達の練習を邪魔することはできないし、彼を誹謗中傷することはできない。あなたにはそんな権利一つもないからね。これ以上続けるとうのならこちらで警備員を呼ばせてもらうわね」


「チッ……なんでそんなバカになったんだかな、天下の埓木崎の人間が。やっぱ女はダメだよなあ、なんもわかってねえ。お前さ、本気で普通科なんかが勝てっと思ってんのか?」


 菅生はそう言い、八総たちの方も見る。


「マジでお前らみたいな普通科の落ちこぼれが、前科者に金髪みたいなクズどもの寄せ集めが、対抗戦で一番なんかにられると思ってるのか?


 勝てるわけねえだろうが! 無理無理絶対無理。しょせんお前らは『普通』なんだよ。何も持たず何もできない落ちこぼれ。無理に決まってんだろ。だいいちそんなもん勝ってどうすんだよ。勝ったところでそれになんか意味があるとでも思ってんのか? それでなんかが変わるって、本気で思ってんのか?」


「思ってるからやんだろうが」


 と八総が答える。


「思ってるし、勝てるし、意味もあるわ。だいいちそれはお前が決めることじゃねえだろ。それは俺たちの人生でてめえの人生じゃねえんだよ。てめえは関係ねえんだよ何一つ。ほんと思うんだけどさ、そんないちいち人のやること気にしたりいじめとかで他人にちょっかいだしてねえでよ、自分の人生生きろよまじで。もう高校生だぞ? 赤ちゃんじゃねえんだからよ。全部お締め交換してもらっててミルクもらってる歳じゃねえだろ。いい加減てめえの人生と向き合えよ」


「……ハッ。せいぜい夢見てろやバカが。そんで埓木崎に守ってもらえるよう必死こいて彼女にくっついてることだな。俺にそのご自慢そうな自分の人生壊されたくなかったらよ」


「ほんと明らかにただの脅迫なんだけどよ」


「だから意味ねえっつうの。てめえら下流が上流の俺訴えたところで勝てっと思ってんの? 証拠もねえくせによ。逆にでっちあげだってこっちが起訴しててめえの負けだっつうの。てめえらの言うことなんて誰も聞いちゃくれねえんだよ。それこそ埓木崎にでも泣きついてケツ拭いてもらうなら別だけどな」


「まあ埓木崎の力は借りるかもれないけど、証拠は一応あるからな」


「……は?」


「今の全部録画してあっから」


 八総はそう言い、「動画を確認するため」に片手に持っていたスマホを上に上げる。


「ずっと回しっぱなしだったから。映像はどうだか知らないけど音は全部バッチリはいってるわな」


「お前、そんな悪知恵働いたのかよ」


 感心と驚きが混じった笑みを浮かべる宮古。


「たまたまスマホ持ってたしお前の雰囲気があれでもしかしてこいつがあれなのかなって思ってよ」


「……ハッ、さすがクズは卑怯なだなあ」


「今までのことからすりゃお前のほうがよっぽど卑怯だと思うけど」


「……だからなんだよ。そんなもんあったって関係ねえんだよ。証拠なんかいくらでも握りつぶせるし、逆にこっちに有利な証拠だっていくらでも作れんだからな」


「それも別にお前がやるわけじゃねえだろ。全部人にやらせといてよくそこまで偉そうに言えるよなあ。お前もさ。少しは自分でやってみたらどうなの? なんかあるわけ? 人のこと見下してごちゃごちゃ言ってんならよ、お前も自分で走って俺らのこと負かせてみりゃいいじゃねえか。せっかく対抗戦って直接戦える場所があんだし」


「バカかお前? 俺が出るわけねえだろそんなお遊び。やるまでもねえんだよ。生まれた時点で全部決まってんだ。俺たちが上、お前らが下。俺たちは最初から永遠に勝者でお前らは永遠に敗者なんだよ」


「あーそう。そういうこと言うやつマジでいんだな。フィクションの中だけだと思ってたわ」


「チッ、ほんといちいち癇に障るやつだな……まあいいさ。お前らが負けるのは決定事項だからな。なにやったって無駄なんだから恥かかねえように引っ込んでるのが一番だぜ。せいぜい今のうち青春ごっこ楽しんどくんだな」


 菅生はそれだけ言うと、取り巻きとともに立ち去るのであった。



「……いやー、マジでああいうのっているんだな。逆にびっくりだわ」


 と八総。


「よくあんなこと言えるよな。いくら政治家の子供っつってもよ。人の目とか気にならないわけ?」

「それが許される環境にずっといたからね。地元という大きなゆりかごの中ではあんな態度でも全部許されてきたのよ。親の威光だけで」


 と埓木崎が答える。


「とはいえここは地元ではなく日新だからね。同じようにやっていても通用しないという場面に少しでも巡り会えればいいんだけど。それにしてもあなたたち、ばっちりケンカを売ってたわね」


「俺たちは買っただけだよ。売ってきたのはあっちで」


「そうかもね。とはいえ迂闊に買うべきではなかったわよ。相手が誰であろうと、ああいうくだらないケンカはね。私達は別のところで戦い、別の方法で勝利すればいいのだから。まあでも安心して。何があってもあなたたちのことは私が守るから。グループの力を借りて徹底的にね。大丈夫よ、八総君が機転を利かしてくれたおかげでばっちりこちらに有利な証拠もあるわけだし。これがあればあちらの親も迂闊には動けないだろうし、彼はまだよくわかってないのかもしれないけど、彼の父親がうちと真っ向対立するなんてこともありえないから」


「やっぱすげえんだな埓木崎グループってのは。けどよ、そういうのなんか嫌な感じってのはやっぱわかるわ。宮古が俺んちで言ってたじゃん? 二回目の勧誘の時さ。結局力と力のぶつかり合いっていうか、それに守ってもらってるだけみてえのはよ。虎の威を借る狐だっけ? 他人の褌っていうか、別に俺はそういう事考えてあいつと喋ってたわけじゃないにせよ、自分が誰と知り合いかとかどこに所属しているかでなんかが変わるみたいなのはさ。気持ちわりいよな、自分のことなのに結局自分でコントロールできないってことで」


「そうね……わかる、とは言えないけれども、私もそれは同じだから」


「お前が?」


「ええ。私は生まれたときから埓木崎という巨大な力に半ば人生をコントロールされているようなものだから。そこに悪意はなく、呪いではなく祝福ではあるのだけれど。


 だからね、私が自分の短い人生で学んだことは力から逃れられぬ以上は、それとどう対峙するかしかないということなのよ。使うにせよ、使わないにせよ。もちろん自分が自分の人生で身につけた力というのが最も理想よ。けれども個人ができることには限りがあるし、より強大で集団的な力の前ではあまりに無力でちっぽけだから。


 だから、あなた達の気持ち悪いという気持ちも全部承知の上で、私は私の信念と大事なもののために、力を使わせてもらうわ。どのような結果になったとしても」


「……わかったよ。そりゃま、こっちもあんなのに好き勝手やられてらんねえからな。俺自身今すぐ自分で力をなんて無理だしよ。まあでも、ほんと埓木崎が世界みたいなやつでよかったよな。あんなバカ息子みたいなのじゃなくてよ」


「そう言ってもらえると嬉しいわ。とはいえ、それこそが埓木崎なのだけれどもね」


「というと?」


「環境、教育。私は自分でこう育ったけど、その大半は埓木崎の環境と教育によるものだということよ。それは彼も同じなのでしょうね。環境が、教育が彼をあのようなモンスターに育ててしまった。私だって埓木崎でなければこうはならなかったでしょうからね。自分の人生というけれど、子供が自分の力で自分の人生を生きるなんてことはほとんど不可能だから。だからこそこの学園は、これからの人生は、その『奪われていた』人生を取り戻す機会でもあるのよ。生まれという運命、決まっていた人生から逃れ、自分の人生を歩み始める、最初の一歩で。願わくば、彼のような人間であってもまだ間に合うのだから、自分の人生をここで学び見つけ別の人間になり新しい人生を歩んでほしいのだけれどもね」


「……お前はあんなやつでも『助け』てえのか」


「そりゃね。誰であろうと。彼はいくつも悪を行ってきたけれど、そこには親の呪いのせいもあるでしょう。子供は親の行動を真似するもの。叱り反省すべき時にそうせず甘やかし、逆に相手を潰してきたのが彼の親。子供であるがゆえに他に答えはなく、間違ったものを覚える他なかったのかもしれない。それはある意味親の『被害者』であって、救われるべき人間なのかもしれないから。ただ、優先順位としてはどうしても後回しになってしまうけれどね。その間にますます悪化しなければいいけど」


「……お前の言うことは難しいけどよ、まあそりゃあんなクズだろうとちゃんと反省して自分のしたこと全部償えればな。そこまでちゃんとやったんならまあ、救いもありっちゃあるなのかもな」


「だとしてもそれをあらゆる手段で止めるのがあの親だし、政治家というものだからね。自分一人の力では反省すら許されない環境というものもあるのよ」


「たとえそうだったとしてもほんとにあんなやつ許す気かよ。俺には無理だぞ」


 と宮古が言う。


「それはもちろんわかっているは。許すつもりなどないし、したことの償いも当然。でもね、大前提として彼自身にはなんの力もないのよ。まったく無力な高校生。力があるのはあくまで父親の方であって、それを使うのも親の方。彼が自分一人の力でできることなんて限られてるわ。だから本当の敵は父親の方。まあ、ある意味で本当の敵は彼にその力を与え続けている有権者になるのかもしれないけれど」


「まあ、わかるっちゃわかるけど、わかんねえよなあ。そいつ個人のせいにしたほうが楽っつうかさ」


「そうかもね。余裕がなければなおさらそうだと思うわよ。だからこそ大多数の人は特定の誰かや何かのせいにする。本当はもっと複雑だけど、そこまで見る余裕も考える余裕もないからね。こういう事を言っているのもある意味子供の特権なのかもしれないわ」


「確かに大抵の高校生なんて余裕だらけだもんな。こうやって対抗戦だのやってるあたり俺らなんかさ」


「そうね。とはいえ誰一人お遊びでやってるつもりはないでしょう?」


「そりゃな」


「ならやるだけね。勝ちましょう。そして意味を見せつけてやりましょう。菅生君のようなすべての人々に」


「ああ。やってやろうぜ宮古。俺も実際あいつ見てぶっ飛ばしたくなったからよ」


「当たり前だ。けどあいつぶっ飛ばすのは俺のもんだぞ」


「ぶっ飛ばすなら彼の信念にしといてちょうだいね。彼の世界を構築する歪んだ認知を」


「そりゃ実際にはぶっ飛ばさねえよ。てかお嬢様でもぶっ飛ばすなんて言うんだな」


「多分初めてじゃないかしら?」


「やっぱ普通は俺らみたいなのしか使わねえか」


「俺だって使わねえよ。漫画でしか見かけねえよそんなもん」


 宮古はそう言って呆れた様子で八総を見るのであった。




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