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19 お前はお前の 俺は俺の

 


 そうして本番まであと三日と迫る。本番が近づくと徐々に他科も動きが活発になり、今年の最初の代表対抗戦ということで学園内も多少の盛り上がりを見せ始めてくる。競技が競技、初の一年のみの対抗戦とはいえ、対抗戦は対抗戦。各科にも科の矜持というものがある。今回は「万年最下位」の普通科の大胆な勝利宣言があるだけに、「間違っても普通科なんかに負けんじゃねえぞ」という先輩からのプレッシャーもあった。学園アプリでの情報配信などもより活発になり、祭りが近づく予感に満ち始めていた。


 そんな中でも初期から細部まで活動を配信してきた普通科。徐々にであったが確実に上達していること、バトンパスも上手くなり全体のタイムが縮んでいることは誰の目にも明らかだった。動画で、数字ではっきり目に見えるというのは大きい。それにつれ口コミは広がり、関心を持つ視聴者も増える。本番が近づくとそれはさらに加速する。そうすると徐々にであったが応援のコメントも増えていく。「もしかして勝てるのでは……?」という声も増える。コメントはあくまで匿名。匿名であれば「普通科で対抗戦優勝」などという「世迷い言」を言っている面々を応援する個もいたわけであった。結局人の目がある。自分も同類と思われたくはない。共感し、応援しているとバカにされる。けれども、本心では。内心では……



「あの、対抗戦応援してます! がんばってください!」


 などと通りがけに、人の少ないところで言われることもまれにあった。そういうのは不思議と女子の方が多い。男子のほうが人目を気にするのか、素直じゃないのか、それとも知ったかぶり斜に構えマウント合戦に必死だからか、そういうことはしてこなかった。


 ともかく、そういうことがあると八総は「どうも、ありがとうございます」などと返すのであったが、「応援する、がんばってくださいじゃ足りねえんだよなあ」と内心では思っていた。


 応援してくれてるのは嬉しい。ありがたい。少なくとも自分たちに共感してくれる人間がいて、間違っていないという証拠でもある。けれども、別に応援してもらうことが目的ではない。「がんばってください」じゃ違うのだ。そうではなく、自分も。自分が。自分もやろう。自分もがんばろう。そう思うことが何より重要であり、目的であった。


(といっても別にあれだけじゃ相手の本心なんてわからないからな。自分ではちゃんと思ってて、ただ俺に伝える時はあれだけの言葉になってるだけかもしれないし。第一内心、意志より重要なのは行動なわけで。そりゃ意志がないと行動はできないだろうけど、行動のない意志にも意味はないだろうし、そこが目的じゃねえからな)


 八総はそう思い、改めて難しさを感じる。プロのスポーツ選手やそれこそアイドルはすごい。あれだけ大勢の人間の心を、行動によって動かしている。もちろんそれは見てくれている人間の絶対的な多さもあったが、それだけではないはずだ。


 とはいえ、特にスポーツ選手に憧れそれを目指そうという人間には圧倒的に子供が多い。憧れ、真似し、自信を持ちそれを目指すというのにも、ある種の素直さがいる。プロスポーツ選手を見て自分もそれを目指そうなという大人は少ない。それは大人になるほど素直さを失い、信じることを失い、「現実」を知り現実を生きていく他ないということもあったが、それ以上に単純に年齢的に不可能ということもある。もちろん直接的なそういう憧れと違った形での勇気、自信というものを与えることもあったのだ。


 とはいえ自分たちの相手は、あくまで高校生。同世代。大人に近づいているとはいえ、まだまだ若くまだまだ子供。まだまだできる。まだまだ間に合う。まだまだ自分を信じ、夢を理想を目指し、戦ってもいい。


 それを、示さねば。見せねば。いや、それも少し違う。究極的にはそれも関係ない。


 自分がそうだから。自分がそれを信じているから。自分がそれを、取り戻したいから。


 見るやつは見ろ。勝手に見ろ。見てどう思い何をするかは、てめえの人生だ。それは俺の人生じゃねえし、俺は他人の人生をどうこうしようなんて思わない。それを見て何をするかは、お前の勝手で、お前の自由だ。


 だからてめえらは責任持っててめえらの人生を生きろ。俺は俺の責任で、俺の人生を生きてくだけだ。


 そのための、まずは勝利。練習。闘争の日々を取り戻す。それこそが自分の人生だと。



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