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16 戦友

 


 その放課後。日課となった代表対抗戦の練習において。市萱は昼の七島洋ライブのおかげか、今まで見たことがないほど元気よくやる気に満ち溢れていた。


「やる気すげえなー市萱。そんな昼間の効いたか」


「そりゃそうですよ! あんなの見せてもらっちゃったら自分もがんばるしかないじゃないですか!」


「ファンなら当然か。そういや市萱って今まで特に部活とかクラブの経験ないんだよな。こういう練習やるとか」



「そうですね。その、何もしてこなかったので……」


「こういうのやってみてどう? 練習楽しいか?」


「そうですね……楽しいのは、楽しいです。走るのは嫌いじゃないですし、でもそれより皆さんがいるので、それが一番……それにこう、やっぱりできないのは辛いですし、バトンパスなんかは特に失敗がわかりやすくて、そのたび皆さんに迷惑かけてしまうって落ち込みますけど、でも成功した時は嬉しいですし、何回もやると、バトンパスもスタートもタイムもどんどん良くなってって……そういう経験は、私全然なかったんで、その、なんていうんでしょう、すごく楽しいっていうか……充実っていうんでしょうか。とにかくこう、満ち溢れるものがあります」


「そっか、そりゃいいな。自信なんてそうやって繰り返し練習して成功体験積んでってつけるしかないと思うしな。まあそんなの関係ない無根拠な自信の方がいいのかもしれないけど、それは別に実力とか結果には繋がらねえし」


「かもしれないですけど、でも無根拠な自信っていうのには憧れますね……そういうのずっとなかったんで。八総さんはありますか? そういう無根拠な自信みたいなの」


「んー、今は正直16にもなってるからどんな自信にもなんかしらの根拠があるんだろうけど、ガキの頃はどうだったろうな……別に自信とか考えたこともなかっただろうし。基本興味しかなかった気がするからさ」


「興味ですか?」


「ああ。ピッチャーだったから、投げたらどうなるか、通用するか、ってそういう興味だな。まあ打たれる気はしなかったからそういう意味では自信あったんだろうけど」


「やっぱり参考にならないですね……」


「なんだよやっぱりって。とにかく練習が自信の根拠になるならそれでいいし練習するだけだって話だろ。まーでもあんま張り切りすぎてケガだけはしないようにな。普段と違う時ほどケガするだろうし」


「そうですね。でも私は、喜庵さんが変わってくれるので」


「とはいえ市萱がベストだからな。しかし男の方は結局補欠誰も確保できなかったなあ……」


 八総はそう思いつつ、休憩中の喜庵の方を見る。休憩といっても「仕事」中であり、真剣に埓木崎の走りを動画に収めていた。八総はどんな調子かと歩み寄って声をかける。


「喜庵さんお疲れっす」


「どうも。お疲れ」


「それ世界のこと撮ってるんですよね」


「それとフォームの確認」


「そこまでやってるんですか。なんかさすが秘書って感じっすね」


 八総はそう言いつつ、「この人同じクラスだし一緒にいることも結構多いけど、ほとんど話したことねえんだよなあ。未だに謎っていうか」などと思っていた。


「ずっと気になってたんすけど、喜庵さんって世界の秘書って割にはあいつと普通に話してるけど大丈夫っていうか、そういうもんなんすか?」


「何が?」


「いや、なんか秘書って社長というか上司? に対しては基本敬語で絶対服従みたいなイメージがあるんで」


「ああ。普通の企業とか政治家のイメージね。まあ秘書って言っても世界の個人秘書みたいなもんだし」


「へー。まあでも高校生とはいえすごい偉い人の孫みたいですからね。俺が言うのもなんですけどあんな普通にしゃべっていいんだって感じで。俺なんかはなんかもう全然一般の他人なんで逆にセーフな気もするんですけど」


「まあ実際そういうことはあるし、そういう人がほとんどだけど、誰の子供だろうと別に今はただの高校生だから」


 喜庵は平然と言い放つ。


「だから別に私たちは対等だし、そうじゃなくても対等だしね。というかあなただって対等だなんだから別に普通にタメ口で話してもらっていいんだけど。逆になんで世界に対してあれで私にこんなへりくだってんのって感じ」


「それはまあ、あいつはなんか距離感? が違うんで。タメ口で話せって言われれば普通にそうするけど。それ秘書ってちゃんとお金貰ってやってることなん?」


「そりゃね」


「すご……いや、詳しく知らねえからめっちゃ不思議なんだけどさ、そもそも高校生が高校生の秘書やってるってどういうことなん? 見た感じ多分中学の頃からなんだろうけど、そもそも二人ってどういう関係っていうかどういう知り合いなの?」


「うちの家というか親たちが代々埓木崎家の秘書やってるから」


「……秘書にも世襲っていうか、家系なんてあんの?」


「というより単に家族ぐるみの付き合いだから任せてるってだけだと思うけどね。元々うちの曽祖父くらいが埓木崎創始者の仕事仲間で、ずっと秘書やってて。家族ぐるみの付き合いだったからその子供同士も幼少期から仲良くて、跡を継いだら秘書もその昔からの友人に任せて、って感じ」


「じゃあ喜庵さんと世界も幼馴染みたいな感じなわけか」


「そういうこと」


「なるほどねー。それで色々分かったわ。そりゃ対等だな。というか普通にただの友人だし。けどだからって補欠までやって練習までするのはすごいよな」


「戦友だからね。目的は一緒だから。というより世界の目的の実現が私の目的で、仕事だから」


 一切の冗談なくどこまでも真面目にそう言いきる喜庵。それを聞いて八総は「なんというか、ほんと別格だよなこいつら……育ちが違うっていうのはこういうのを言うんだろうな。能力とか金じゃなくて、そういうのじゃない環境というか」などと思うのであった。



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