10 知らしめる
して、翌日の放課後。総合支援委員会部室にて。
「さて、みんな集まってくれたわね! いよいよ今日から本格的な練習を開始するわよ! すでに本番まで二週間を切ってるから毎日の練習を本番だと思って大事にやっていかなければね。皆が可能であれば朝練等含めて限られた時間を有効に使っていきたいから、あとで都合についても聞かせてもらうわ。ということで、早速だけどみんな頑張っていきましょう!」
「その前にいっすかね」
と八総が手を挙げる。
「何かしら八総君」
「なんか知らない人がいる上にカメラ回ってるんすけど……」
八総は部室内にいる見知らぬ女子生徒、ついでに彼女がこちらに向けているカメラを指差す。
「ああ、紹介がまだだったわね。普通科報道部の見通さんよ!」
「どうもはじめましてー! 普通科二年の見通真瑠季っすー! よろしくどーぞ!」
と見通は朗らかに挨拶する。
「ミズウリさん?」
「そっすよ! ヅはつに点々っすね! ミズーリ川じゃないんでよろしくどーぞ!」
「ミズーリ川? ってなんすか?」
「あ、知らないっすか? アメリカにある川ですよ。でなんとなんとですね、ミズーリっていうのは現地ネイティブアメリカンの言葉で『丸木船を持つ人々』って意味らしいんっすよ。それでマルキって名前っすね! いやーなんか親は見通って名字から絶対男女どちらでもマルキって名前つけるつもりでいたらしいんすよねー」
アハハと笑って答える見通。
「はあ、そっすか……めっちゃ元気っすね先輩」
「そっすか? まー報道、メディア関係なんてのはある意味愛嬌が命っすからね! 特に年上とかと話してると自然にこんな感じになってましたね! だから後輩の君たちにもこんな感じっすけど、そのうち慣れてきたらまた変わるかもしれないんでその時はよろしくどーぞ!」
「なるほどっすね。で、その報道部とやらの人がなんでここにいてカメラ回してんだよ世界」
と八総は埓木崎の方に向き直る。
「それは私たちの活動を報道してもらうためよ。学園アプリでね。まあ報道とは言ってるけど広報ね。ユーチューブやSNSでの活動報告みたいなものよ。前に少し話したと思うけど、私たちの活動はきちんと周知させないとダメって言ったわよね?」
「ああ。確かこの代表対抗戦の周知どうなってんだよって話したときだな」
「ええ。私たちの目的は確かに勝利だけど、普通科の意識改革のため、みなに見てもらって普通科でも勝てると思ってもらうためにやるわけだからね。共感、共有。そのために広報活動はとても需要よ。もちろん勝つところを見て知ってもらわなければ意味がないというのもあるけれど、その過程も含めて物語の共有だからね」
「つまり俺たちの練習風景とか、言ってみりゃ努力してる姿とかも撮って見てもらうってことか。ドキュメンタリーみたいな話だ」
「まさしくね。あなたも野球をしてたのだから野球選手やチームのドキュメンタリーは見たりしてたんじゃない?」
「あー、俺はあんまそう言うのは興味なかったけどな。たいてい投球術とかフォームの動画ばっかで。でもまあそういうの探してるときにたまに思いがけず遭遇して思わず見入っちまったこととかはあるな。やっぱ面白いからよ、ああいうのは」
「そういうこと。質のいいドキュメンタリーは強い物語を持ち、それは視聴者を惹きつけるからね。そしてその物語を共有させ、共感を生み出し、好感を与える。ファンにさせるし、応援させるし、当然視聴者自身のことも応援する。この人がこんなにがんばってるんだから私も頑張ろうって」
「まさしくお前、というか俺たちがやろうとしてることだな。そりゃ重要だ」
「そういうこと。で、それを報道部の見通さんにお願いしたわけ。その点では普通科でも最も適任だったからね」
「なるほどね。でも報道っていうとニュースとかなイメージあるんすけど見通さん」
と八総は見通に尋ねる。
「確かにそっすね。でも報道もドキュメンタリーであってフィクションであって広報であって広告なんで。それに報道部って名前ですけど広義にはマスメディア部って感じですから。記者として記事を作りニュースを作るのは当然っすけど、ドキュメンタリーから広告含めて色んな記事や動画を作ってくって部活って感じっすね」
「そういうのっすか。あーでも、日新ってこんだけでかけりゃそういう専門の科もあったりしたんじゃないっすか? あんまよく知らないんすけど」
「あるっすよ。情報科っすね。そこにはメディアとか広告の専攻があるんで」
「……会ったばっかで失礼ですけどそっちは行かなかったんすか?」
「あー、当然の質問っすね。確かに行きたかったけど行けなかったんすよ。情報科、メディアや広告ってのは日新の中でも飛び抜けてコネ優先なんで」
「コネっすか」
「そっすね。なんとかくイメージでわかると思うんすけど、メディア業界、広告業界とかはめちゃくちゃコネで動いてる世界なんすよねー」
「あー。やっぱそういう感じなんすか」
「そっすねー。なんで業界にコネがない限りそのへんに入るのはマジで難しいんすよ。難しいというよりほぼ不可能で。そんなわけで普通科でやってますけど、といってもまだまだ道はありますからね! 大学入ってどっかしら入るなり自分でやるなりやり方は色々っすから! 普通科だろうとその気があれば十分できるんで! まあコネ作りだけは情報科には敵わないっすけど!」
見通はそう言ってアハハと笑う。
「はは、いっすねそういうの。普通科でもバリバリやる気で。やっぱいるところにはいるんだって感じだし、世界が見つけてくるだけあるわな」
「いやーほんとお声がけいただいて何よりで。部費の支援までしていただけるんだからやらない手はないっすよ! じゃなくてもこんな面白いこと自分から進んで撮らせてもらいますけどね!」
「部費までカンパしてんのか。ほんとすげえなお前……学園アプリで配信できるってのもやっぱお前が裏で色々やってんの?」
「ええそうよ。別に裏じゃなくて表から堂々だけどね。そもそも学園アプリは学園内の情報を伝えて共有するツールなんだからどこまでも正しい使い方よ」
と埓木崎は胸を張って答える。
「そりゃそうだな。てか市萱、お前大丈夫?」
「い、いえ……」
と市萱はガクガク震えながら縮こまって答える。
「そそそんな、撮られてアプリに載るなんて、そんなめっちゃくちゃ目立つこと、聞いてなかったんで……そ、それみんなに見られるってことですよね!? みんなに知られるって!」
「だろうけどそもそも対抗戦出りゃ知られるわけだしな。だいたいお前なんかその身長であんだけ構内中全力疾走してるんだからすでにめちゃくちゃ目立って知られてんだろ」
「そそそ、そうなんですか!?」
「多分な。宮古、お前市萱のこと知ってた?」
「いや、知ってるってほどじゃないけど廊下で見てめっちゃでけえって印象にはな」
と宮古は答える。
「ほら。というかお前ら今日初対面じゃん。市萱、こいつもう一人の男子走者の宮古。宮古、こっち市萱な」
「ああ……どうも」
「ひっ! どど、どうもはじめまして市萱星乃と申します! よよよよろしくお願いします!」
ともはや八総にとっては見慣れた赤べこヘドバン頭ペコペコ。
「……こいつ大丈夫なの?」
と宮古は顔を歪ませ市萱を指差す。
「大丈夫どころかめっちゃはええから。市萱もさ、こいつ見た目こんなんだけど別に不良でもなんでもないから大丈夫だぞ。態度も口も悪いけど」
「なんて紹介の仕方してんだよてめえ」
「事実じゃねえか」
「見た目で言やてめえのほうがよっぽどだろ」
「俺別に金髪なだけだし。それに俺のほうがでかいから」
「は? それなんか関係あんのか?」
「市萱も自分よりでかい男子には気使わなくて済むだろ。なあ?」
「え? っと、その、べ、別に自分より背が低い男の方に気を使うとか、全然そんなことはないですよ!? 身長なんて全然、人それぞれですし! 私より低い人のほうが大半ですし! そりゃ八総さんくらい大きい人だとこっちも縮こまらなくて楽ではありますけど!」
「ほら」
「なにがほらだよおい。こっちだってんな気ぃ使われたほうがむかつくわ。こっちは身長なんて全然気にしてねえから堂々しろよ」
「ひいっ! すすすすみませんでした! どどど堂々します!」
「……やりづら……だいたい人のこと低身長扱いしてるけど俺だって76はあっからな? お前らがやたらでかいだけで」
と宮古は八総に言う。
「へー。まあ170台なんてこっちからすりゃ誤差の範囲内だからな」
「てめえ……てかんなのどうでもいいんだよ。今日から練習すんだろ? ならさっさとやろうぜ。それこそお前なんかバトンパスの経験なんてほとんどないんだろうし、身長差あんだから練習は重要だからよ」
「あーバトンパスには身長差もあんのか。そりゃ練習もだけど色々考えねえとな。その前に一つだけ確認しとくけど世界、四人は揃ったけど補欠はどうすんだ?」
「女子はとりあえず喜庵がやるわ」
「ま、怪我人でも出ない限り出番はないけどね」
と喜庵が軽く手を挙げる。
「男子の方は決まってないわね。一応前もってピックアップしていた候補には声をかけてるけど、なかなか難しそうね。こういうのは実力ももちろん大事だけど、自分の意志で出るということが大切だし力にもなるから。とはいえ常にケガのことは考えておかないとだから、あなた達の方でもめぼしい人に声をかけといてもらっていいかしら? 宮古君は陸上の知り合いとかはいたりする?」
「いたとしてもスポーツ科だな。知り合いって言っても大会で見たことあるくらいだし、そもそも俺が誘っても来るわけねえだろ。陸上関係には特に全部広まってんだしよ」
「そうね……ま、補欠はいることが大事だからね。保険だから。とにかく練習を始めましょうか。じゃあみんな着替えてグラウンドに集合よ!」




