そして姫は戦場に舞い戻る
小人達も異世界へ向かうと、たちまち姿が美男美女に変わる。
様々な時代で歴史に名を残した英雄達は、海美の空間の中で人間の姿を取り戻したのだ。
「……わたしはマテリシアだった。全て思い出したよ」
海美が目を開けると、魔法陣が消えて同時に二人の男も膝をついて頭を下げる。
「記憶の無かった君に手荒な真似をしてしまってごめん。
……でも時間が無かったんだ。君は死んで直ぐだけど、直ぐに時を置かずして元の世界で君の血族に転生する」
金髪の男は頭を下げたまま海美に事実を告げた。
「皮肉な物だな?結局私は現実世界でも元の世界でも何も変わらなかった。
……つくづく呪われた身だと思うと泣けてくる」
自嘲気味に笑みを浮かべて海美は肩を竦める。
「悔いても仕方無い。今の帝国がどうなっているかは分からないが、転生して直ぐに俺達剣杖は全員呼び出せないと思え」
呆れた顔をして黒髪の男は海美に忠告した。
「言われなくてもわかっているさ。
例え生を受けて直ぐに戦乱の中に放り込まれても私は出来る限りの事をするまでさ」
軽く手を振り、海美は苦笑して答えると二人を見据える。
「我が至高の主よ、再び御身の前に顕現するまで暫しの辛抱を」
「状況が悪くても、剣杖の誰かを呼び出せば何とかなる筈だ。
……それまで勝手にくたばるなよ」
金髪の男が恭しく海美の心配をするが、黒髪の男は目を細めて口悪く忠告したが心配はしているようだった。
「あぁ、何が出来るかは分からんがやってみるだけだ」
苦笑して海美は二人に言うと、海美の視界が真っ白になり再び意識を失う。
「この子を頼むぞ、シオン」
「はっ!!妹は俺が必ずや守り抜いて見せます!!」
……ん?……守る?……誰を?
次に意識が戻ると、まだ良く見えない視界の中、女性と少年の声が聞こえた。
「皇子!!此方です!!」
「裏門へ急いで下さい!!」
「私達も御二人をお守り致します!!」
……ん?……何やら情況は良くないのか?
複数の子供達の声も聞いて、全く目が見えない海美は目を細める。
そうこうしている内に、少年達は聖騎士トマフに見付かって斬檄を受けてしまう。
『身体強化!!視力、魔力を今の限界まで強化する!!』
慌て海美は強化魔法で強化すると、真っ先に映ったのは真っ赤な血と倒れる少年達の姿だった。
「……大丈……夫だ。お兄ちゃんが……守ってやるからな」
「っ!?」
少年は海美を倒れても庇って離さず、今にでも消え入りそうな声で言った。
そう言って瞳の力を失った少年を見た海美は怒りで魔力を放出し……剣杖の一人を召喚したのだ。
……そして全ては今に戻る。
「……まさか、転生して直ぐに帝国が滅ぼされる寸前だとはな」
言語も強化して話せるようになった海美は目を細める。
あちこちで火の手が城下町や城で発生しており、海美が居なかったら滅んでいてもおかしくなかった。
「うーきゅ……あっ、うきゅきゅって言葉が抜けないな」
「ずっと小人LIFEだったからね。あーぁあ、発声も問題ないよ」
二人の青年は笑みを浮かべる。
魔術士と魔導士は、そんな二人を遠目で見て溜め息をついてから再び考えを巡らせ始めるのだった。