明らかになる前世
魔法陣を囲むのは小さな小人達。
海美の周りをぐるぐる回る。
ぐるぐる回る小人は音速になる。
残像しか見えない。
海美の脳裏に一人の一本の角を持つ鬼人の女性が現れる。
その女性は楽しそうに戦場を駆けながら、あらゆる種族を味方にして行く。
多くの人が諦めた最強最悪のダンジョン『永遠の城』に挑み、ダンジョンに囚われた数多の英雄達を倒して攻略した。
人が成し得なかった力を手にした時、女性は己の孤独を理解してしまった。
人と違う剣杖と呼ばれし英雄の力を手にした女性は広い世界で一人ぼっちになってしまう。
人は自分と違う者、強い力を持つ者を恐れて離れていく。
彼女は一人ぼっちの孤独が寂しくて嫌だった。
やがて彼女を支えてくれる者や、頼りになる仲間が出来る。
『君を愛している。この闘いが終わって国を建国したら生涯を俺と共に生きて欲しい』
支えてくれる彼からの愛の言葉は嬉しくて、彼女は天にも上るような幸せな気持ちに満たされた。
多種族を配下に置いて帝国を建国すると、彼女は女帝として即位し彼女の傍らには常に彼の姿があった。
挙式の日。大聖堂の控え室でその日は彼女もいつになく緊張していた。
人生に一度の愛を誓う晴れ舞台。挙式を迎えるのは共通の女の夢だ。
夫婦になったらどう話そう?
今日の夜は初夜?と言うのか?
初夜……意味は分かるが……今更だけど顔が赤くなってしまう。
一人で彼女は百面相をしながら考えていた。
乱暴にドアが開けられたかと思うと、彼女は後ろから剣で心臓を一突きに貫かれてしまう。
「……え……?なっ……お前は……」
血が赤く彼女のウェンディングドレスを染め上げる中、彼女の瞳に映ったのは人間国の王太子だった。
「君を手に入れられないのなら……殺して永遠に僕の物にしてしまえばいい」
王太子は笑みを浮かんて彼女に言い放つ。
……何だ?それは……私は……その為に……死ななくては行けないのか?
出血と痛みで彼女は立っている事さえ出来ずに倒れてしまう。
「マテリシア!?貴様ぁっ!!」
「何て事を!?」
「しっかりして下さい!!」
大切な人と、仲間達が異変に気付いて駆け付けてくれた。
けれど、仲間が聖魔法と白魔法で何度も治療しようとしても、彼女の傷が塞がらず体温を奪っていく。
「無駄だ!!この剣は魔封じの剣!!どんな魔法も受け付けない!!マテリシアは死ぬ!!これで彼女は僕の物だ!!」
仲間に取り抑えられた王太子は狂ったように叫ぶ。
「外道がぁっ!!」
大切な人が王太子の首を剣で跳ね飛ばす。
……あぁ……私は……このまま死ぬのか……。
大切な人に抱かれたまま、私は自分の事を理解した。
「マテリシア……嫌だ……俺は……君を……失いたくない」
「……泣かないで……貴方には……私の代わりに……どうか……幸せになって欲しい。私には出来なかったが……別な人と結ばれて幸せに……」
大切な人の顔を見て、私は声にならない小さな声で言うと、視界が暗くなると同時に大切な人と仲間達の魔力が怒りと悲しみで暴走するのを感じた。
……そう、だから私は望んだ。魔法の世界で悲しみを生み出す事しか出来なかったのなら、次は魔法のない世界で転生したいと……。
小人は走る。
残像残して走る。
シュバババババッ