突然の死
半透明の小さな小人は、見えないけど海美の側を一緒に歩いていた。
歩きなれた道。
コンビニやショッピングモール。
カラオケや学校。
大好きなテレビ番組。
小人のせいかは分からないが、不可解な写真が撮れていた。
誰もいない筈の部屋。
半透明の小さい何かが筋トレしていたり。
誰もいないお風呂。
半透明の小さい何かが泳いでいた。
誰も分からないミステリー
じめじめと蒸し暑い東京ならではの夏のある日。
長い黒髪を靡かせ、赤い革ジャンに下には黒と白のチェック柄のスカートを着た少女。
黒島海美(16)。霧島女子高等学校に通う生徒で、親や教師でさえも手を焼くヤンキー。
不良ヤンキーの中では『女王』と呼ばれており、別に何も求めて居ないのに勝手に男女関係無くヤンキーが集まってくるから不思議だ。
ヤンキーだからと言って別に悪いことはしていない。
SNSで罠ぬ引っ掛かって地方から電車で来た女子大学生を助け、変態会社員をタコ殴りにして警察に引き渡したり……
公園で一人で遊んでいた小学生を家まで送るついでに、危ない変態を右ストレートでノックアウトしてそれも警察に連れていっただけだし……
コンビニで現金持ってフラフラしていた老人が心配で、金を受け取りに来た怪しい奴を捕まえて警察に引き渡したことも何度か合ったけど……
何故か気付いたら、周りの大人達にも私がヤンキーやっているのに好意的だし、生暖かく見守られているのが理解できねぇ……。
そのせいか、学校でも人に好かれてるし、町の人にも良く話掛けられてるんだよな。
海美は目を丸くし、呆れた顔をして首を傾けた。
「……普通、ヤンキーって人から嫌われる者だろう?解せぬ。これじゃまだカッコいいヤンキーから程遠いぜ」
疲れた顔をして海美は呟くと肩を落とした。
海美の目指しているヤンキーは、人に嫌われていてもたった一人で町の為に安全を守るカッコいい一匹ヤンキーなのだ。
幼い頃に見たテレビドラマで、当時の人気女優が演じる『カナエ』が、たった一人で暴走族やヤクザ、悪徳刑事と闘う姿を見て海美は憧れた。
……私も『カナエ』見たいに生きたいと思ってヤンキー始めてから数年経つが、上手く行かないものだな。
目を細めた海美は、歩行者信号が赤なので立ち止まった。
海美の他に、子供連れの親子や、ジョギングの男性、町内会長の老婦人、女子中学生が二人いる。
「よっ!!『女王』!!今日も町内パトロールか?」
「うっせぇ!!ヤンキーに気安く話し掛けるな!!」
ジョギング男性に声を掛けられ海美は文句を言う。
「うふふ、海美ちゃんのおかげで町も以前より平和になったわ。いつもありがとうね」
「礼なんざいらねぇ!!私はヤンキーだ!!自分の縄張りは自分で守るのは当然だ!!」
町内会長さんに礼を言われ、海美は嬉しくて顔が思わずにやけそうになるが、ぐっと我慢して素っ気なく返す。
「私からもお礼を言わせてください。『女王』のおかげで公園で遊ぶ子供達が安全になりました。本当にありがとうございます」
「お姉ちゃんありがとう」
母親が礼を言うと、五歳くらいの男の子のこも礼を言う。
「……子供は元気に遊んで走り回るのが正しいからな。今の内に友達作って喧嘩したり仲直りして友達増やせよ?」
笑って海美は子供の頭を優しく撫でる。
「うん!!」
撫でられて子供も嬉しそうに笑った。
「女王!!うちら女王と同じ高校に受験しようと思ってます!!」
「入学出来たらうちらを舎弟にしてください!!」
女子中学生二人が海美に駆け寄り頼む。
「別に良いが、その代わりちゃんと授業に出て勉強もしろよ?」
苦笑して海美は二人に言う。
「うっす!!」
「勉強も授業も気合い入れて取り組むっす!!」
キラキラ目を輝かせて女子中学生二人が返事をする。
「待っているぜ」
嬉しそうに笑って海美は答えた。
……この時までは……
信号待ちして並んでる海美の後ろに、一人の少女がゆっくりと近付く。
目の前には、赤信号の横断歩道、
青信号で加速して来る一台のバス。
バスが横断歩道の目の前まで迫って来た。
「えっ……?」
その瞬間、海美は誰かに突き飛ばされ目を見開く。
バスの運転手は海美に気付いて急ブレーキを踏む。
それでも間に合わず、海美はバスに撥ね飛ばされ10メートル吹っ飛んだ。
……身体が……痛い……。
「きゃああああっ!?海美ちゃん!?」
「てめえ!?何て事しやがる!?」
「許さねえぞ!?クソ女がっ!!」
町内会長の悲鳴と、犯人と思われる少女に詰め寄る女子中学生二人。
「早く救急車を!!」
ジョギング男性が海美に駆け寄って叫ぶ。
「あっーはっはっはっ!!良い様ね!!私は誰よりも可愛くて誰よりも愛されるのは私なのよ!!ヤンキーごときが私より目立つからよ!!」
ピンクの髪をツインテールにし、黒いゴシックドレスを着たメイクバチバチの少女が海美を指差して叫ぶ。
……はあ?んだと?
カチンと海美は頭に血を上らせると、ゆらりと立ち上がり右足の靴を脱いで持ち上げた。
「ちょ!?海美ちゃん!?安静にしてなきゃ駄目よ!?」
町内会長の老婦人は焦る。
「天誅!!」
「ぐはっ!!」
海美は靴をフルスイングして投げ、靴は見事ゴスロリ少女の顔面に命中した。
情けなく、そのままゴスロリ少女は倒れた拍子にパンツ丸見えになる。
「海美ちゃん!?だから動いちゃ駄目!!足も折れてるのに!!」
……そういや、右足が変な方向に曲がってたな。あっ、やべえ……血が足りない……あたし、ヴァンパイアじゃないのに……物凄く血が欲しい……
老婦人に言われ海美は気付くが、そこでふらついて意識が真っ暗になった。
半透明の小さい小人二匹は、倒れた海美の側で涙を流す。
触れたくても触れれない魔法が存在しない現実世界。
小人は無力で何も出来なかった。
小人二匹が、光になって消える頃。
救急車のサイレンが近付いていた。




