目覚める赤子
「ごめんあそばせ。クロード様とエリス様には申し訳ありませんが、私は呼ばれたので先に参りますわ」
黒髪の美しい女性聖騎士は、伴侶である赤髪の美女と名残惜しそうに抱き締め合ってから魔法陣で姿を消した。
「……くっ!!なんて言う事だ!?マリワナに先を越された!?」
魔術士は膝を着いてショックを受け、頭を抱えて叫ぶ。
「……師よ、それも重要なのですが……それよりも……」
魔導士は魔術士に言うと、赤子の目の前で結界に守られた少年達を指差す。
「……特殊な契約による転生をされている。姫にもきづいているだろう。あの子達の正体は……」
魔術士は苦虫を噛み潰したような顔をして言うと、最後までは言えず黙り込んだ。
「ひゃははははっ!!馬鹿な皇子達だぜ!!大人しく赤子を渡せば良かったのによぉ!!」
血の海に沈んだ皇子達を見て、トマフは笑うと赤子に近付いていく。
倒れても皇子は赤子を離さず、しっかりと抱き締めていた。
「……大丈……夫だ。……お兄ちゃんが……守ってやるからな」
目を丸くしたまま固まる赤子に皇子は苦痛に顔を歪めながら言うと、その瞳は見る見る内に光を失い動かなくなった。
その瞬間、赤子が一筋の涙を溢すと同時に、赤子は膨大な魔力を一気に放出して辺一面一帯は魔力の渦が激しく吹き荒れる。
「なっ!?こっこれは!?くっ!!うわぁぁぁっ!!」
赤子の様子を見てトマフは目を見開いて動揺するが、魔力の渦の中で立っている事が出来ずそのまま吹っ飛ばされてしまう。
やがて渦が収まると、赤子は宙に浮いており、皇子達は円型の結界の中に守られていた。
「あらあら……私一人がどうやら限界の様ですわね」
長い黒髪を一つに結わえ、白銀の露出が激しい鎧を着た美しい女性は赤子を見て苦笑する。
「ふん、私はまだ産まれたばかりの赤子だぞ?この姿と少ない魔力でお前を召喚出来ただけマシだ」
赤子は目を細めると、女性に呆れた顔をして小さな手を何度も握ったり、開いたりを繰り返す。
「それもそうですわね。で?私は何をすれば宜しいのかしら?」
「今の帝国はどうやら教会勢力に攻められているようだ。取り敢えず、教会の者達を一掃して欲しい。殺した方が早いなら始末して構わん」
納得した女性が頷くと、赤子は命令を下した。
「分かりましたわ」
楽しそうに女性は笑みを浮かべると、優雅に赤子へ一礼してから転移する。
……さて……再びこの世界に戻って来たが、私は血と戦乱の時に縁が深いな。私がこの世界で死んでからどのくらいの時が経ったのかは知らないが……。
赤子は結界の中に居る少年達を見た後、重なる金髪の美青年や友達との面影を感じて悲し気に目を伏せた後、今にでも降り出しそうな空を見上げた。
黒髪の美女騎士が去ってから、彼女の家族や部下は期待に胸を踊らせつつ魔力を放出して居た。
「魔力不足にならないのか?」
気になって赤髪の美女に尋ねる魔導士。
「神聖王国の連中はタフだからな。問題なかろう。あぁ、我が愛しのマリワナが行ってしまった」
答えた後、残念そうに肩を落とす赤髪の美女は涙を潤ませる。
「まさか……自力で空間を抜けて実体化しようとしているのか!?」
話を聞いていた魔術士は青ざめる。
「脳筋だな。俺もやらなくてはならぬか?……不安だ」
魔導士も青ざめるのだった。