魔教国の思惑と母と死亡フラグハイエルフ
「……この魔力の気配……まさか」
異空間で何かに気付いた青年は目を見開く。
生前の最期の闘いで、共闘して致命傷を負ったエリスと、青年の目の前で……
崩れた聖域の中で優雅に佇む神獣を思い出す。
魔教国のテントでは、一人の女性が魔騎士と聖騎士に取り囲まれていた。
「貴様等、魔教国の企てが何だか知らないが、私はアグノース帝国の女帝シルビアとして決して諦めたり、屈したりはせん!!」
赤い髪を一つに結わえ、黒いマーメイドドレスを着た美女は強気に言い放つ。
「流石、マテリシアの弟の血を引く子孫だ。隙をついて夫を逃がすとはしてやられたよ」
仮面を付け、白い軍服に軍帽をかぶった女性はシルビアに言うと苦笑した。
「だが、勘違いはしないで欲しい。我々魔教国が帝国を攻めたのは事実だが、誰一人として殺していない」
「そんなこと信じるか!?口からのでまかせだろう!?」
女性の言葉をシルビアは即座に否定する。
「信じないのは構わんが、我々が本当に帝国を攻めていたら、地上から一時間も経たずに消えていただろうな。
今も帝国が国として残っているのが最たる証拠だ」
「っ……!?」
冷たく女性が言うと、シルビアは目を見開いて絶句する。
「最近、調子に乗って勢力を拡大している大国オリヴァ女王国は知ってるな?」
「……確か前女王である実の母を暗殺して娘が新女王となった国だ」
女性に聞かれ、シルビアは不安そうに答えた。
「その大国が、かつてアグノース帝国から独立した小国を属国にして、力を増しているのも我々は知っていた。
……勿論、アグノース帝国にその大国が一週間後に宣戦布告していたのもな」
楽しそうに女性はシルビアに言うと、背を向け歩き出す。
「……その日が明日だと言う事も?」
「あぁ、知っていた」
冷や汗を掻いてシルビアが言うと、女性が立ち止まって答えた。
「我が魔教国は素性もほとんど知られていない。我々が動いたのは帝国を守ると同時に、そなたの子……産まれたばかりの姫を守る為だ」
「……どういう事だ?
我が娘シェレスティアナを守るためだと?」
女性の言葉にシルビアは困惑する。
「産まれ落ちたあの子が転生した以上、運命は嫌でも動き出すから厄介だ。
そなたと夫君には伝えなくては行けない事がある。
先にそなたを魔教国に案内するとしよう」
笑って女性がシルビアに振り返ると、魔法陣が出現してシルビアと女性はテントから姿を消した。
「僕の妻は先に帰ってしまったか……。
大国との一悶着は将軍に任せるとして、荒れ狂うドラゴンを僕が押さえるとしよう。
可愛い姫の馬車は僕についてこい」
魔騎士の一人が呟くと、一瞬で魔力が膨れ上がり、人間の姿から翼を持つ巨大な漆黒の狼の魔獣へと変わった。
ゆっくり狼が飛び立つと、馬車が少し遅れて走り出す。
同じ頃。
「……死亡フラグと闘うハイエルフ」
「五月蝿いわ!!」
ハードボイルドな顔をしてシェレスティアナが言うと、ラーティスが結界でブレスを防ぎながら叫ぶ。
「コントエンジェ」
「ダテン」
チビエマ士族は呆れていた。
『この程度かい?情けないね。僕の身に傷一つつけられないなんてさ』
白銀の狼は、翼を降り立たんで嗤っていた。
「っ……!!」
青年は脳裏に過った光景に、無言になり黙り込む。




