脱出と旅路③
ミスラ達は崩壊するダンジョンからなんとか抜けて外に出ることができた。ただそこは入口とは違う場所だった。ダンジョンの入口は基本的に一つとされる。出来立てのダンジョンは特にだ。学園ではそう学んだ。何故という疑問がミスラの脳内に浮かぶが、様々な突拍子もないことが身に起きたミスラにはそんなことはすぐ忘れてしまった。
「なんとか出られたようだねセス。」
「そうだねミスラ。ここどかだかわかる?」
「全く。でも目的地は決めているんだ。ここから西に行くとマンティブ大森林と呼ばれるところがあるんだけど、そこは王国やその他の国の干渉を受けていない森の民のコミュニティがあるらしいんだ。僕らみたいなはぐれものを拾ってるみたいだから、そこに向かおうと思う。」
「じゃあ、西に出発だぁ。」
「その前に色々と確認しなきゃね。」
そう言ってミスラ達は自分たちの装備や物資、戦力を確認することにした。ミスラは落下したときにほとんどの荷物を失っており、身に着けていたナイフだけが唯一の武器だった。あとは王国に支給された防具もセスが看病してくれた時に外されていたためダンジョンに置いてきてしまっていたが、防具には「探知」の魔法がかけられていたのでケーゴが死んだことにするには都合がよかった。セスは何も持っていなかった。
状況を把握したところでミスラ達は西へと向かうことにした。この世界でも太陽は東から上がるので大体の方角はわかる。王都から西に行くとまず大都市ナフウにたどり着けるはずであった。ただ直近の問題として食料を得るために野生動物や木の実を集めながらのゆっくりとした旅路となった。幸いにして「着火」と「ウォーター」の魔法は覚えていたので、最低限の生活は送れた。
そこでわかったことはセスはミスラよりずっと強かった。まず、ダンジョンを脱出するときにもわかっていたが夜目が効く。というより昼夜関係なくよく見えるらしい。そして野生の勘とでもいうのか、索敵が途轍もなく上手かった。「生命感知」という魔法もあるにはあるがセスには魔法をつかっている素振りがなかったのでほんとに勘なのだろう。特にイノシシを食べて以来気に入ったようでイノシシばかりを狩ってくるようになった。
一か月ほど人を避けながら狩猟生活を続けながら進んだところで、ミスラ達は早朝にナフウにたどり着いた。城壁に囲まれたその大都市は王都の周辺ということもあり門番もいないほど治安のいい都市であるみたいだった。ミスラ達が都市の中に入るとまず冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドはダンジョン攻略を目的とした組織である。ダンジョンは突然現れ、ある一定期間時が経つと災害として降りかかってくる。魔物があふれ出てくるのだ。魔物は食物連鎖の枠から外れた存在であり、自然に死ぬこともないので放置することができない存在である。そしてダンジョンから溢れ出てくる魔物は強い。これを未然に防ぐためにもちろん国や都市も各々兵を使ってダンジョンの発見に勤しんでいるが、限界がある。そこで結成されたのが冒険者ギルドである。この組織はこの世界における唯一といっていい世界的な組織である。それほどダンジョン攻略は世界的な問題なのである。だから常に冒険者は必要とされ、世界的組織であるがゆえに他国への移動も優遇される。要は日本のパスポートを手に入れるみたいだ。これは西へと向かうミスラ達には都合がよかった。そしてダンジョンは強くなれるのだ。ミスラにはむしろそちらの理由のほうが大きかったのかもしれない。
冒険者ギルドは石造りの四階建ての建物だった。一階には冒険者の登録カウンターと依頼カウンター、そして受注カウンターがあった。まるで縦割りの役所みたいだった。ミスラ達は登録カウンターに赴き登録をする。名前を書き、パーティーを組む場合はパーティー名も追加で書き、提出するとその情報が書かれた木製のカードが渡されて終わりだ。パーティー名は「西遊記」とした。安直な名前だったが特に気にはしなかった。
冒険者はある程度の成果を為すと中級冒険者になれる。中級冒険者になるとダンジョン攻略以外の依頼や指名依頼が受けられるようになる。その上に上級、特級もあるが実力の差以外は特に差異はない。ただの冒険者と中級冒険者の一番の違いは、中級冒険者になると魔力登録があることだ。これによって中級冒険者以上は冒険者ギルドから「個」として認識されその情報はあらゆる組織に回ることになる。ミスラは逃げている立場である上に、王立学園にいたころに魔力登録をしているため、中級冒険者になることはリスクであった。
「とりあえず、探索依頼を受けよっか。」
探索依頼は冒険者組合で最もポピュラーな依頼だ。ダンジョンを見つけるために探索をする。ダンジョンが見つからなくても、報告書を出せば安宿に泊まれてご飯も食べれる程度のお金をもらえる。ダンジョンを見つければ装備を買える程度のお金をもらえる。冒険者たちの大半はこの依頼をこなしてその日暮らしをしている。
「僕たちが行くのは南の山岳地帯みたいだね。久しぶりにベットで寝るためだ。頑張ろう。」
「イノシシいるかな?」
「町の調理された肉はもっとおいしいはずだから頑張ってダンジョンを見つけよう。装備も欲しいしね。」
「確かにこのあたりからはたくさん美味しそうな匂いがするね。やる気が溢れ出てきたよ。」
「そのいきだ。」
ミスラ達は街の外に歩き出した。