脱出と旅路①
「ーい、おーい。」
ケーゴの頭に声が響く。声が聞こえるということは死ななかったのだろう。体感として途轍もないほど落下したはずの体は特に異常がなかった。重たい瞼をあけ、硬い地面で寝たことによる凝り固まった体を起こし王立学園で学んだ初級魔法の「ライト」を唱える。
ぼんやりとした中に人影が見える。声色から予測できていたが、目の前には女の子がいた。セミロングの黒髪をなびかせたハーフ顔の子がいた。
「やっと起きた。ずっと寝てたから起きないと思ったよ。寝起きで悪いんだけどさここってどこかな。私気づいたらここにいて。」
異常な空間に緊張感のない彼女。ケーゴの緊張も呼応して緩んでいく。
「ここは王国郊外にある名もなきダンジョン下層だと思う。僕も蹴り落されたから正確にはわからないんだ。」
「王国ってどこ?」
「どこってアイサル大陸の東部っていえばいいのかな。」
「ふーん。」
彼女はそう言うと何かを考えるような素振りをした。そして少ししてからまた口を開く。
「君はこれからどうするの。」
ケーゴは言い淀んでしまう。死んだと思ったのに生き残った。幸運だった。だがこれから選ぶ道はどちらも過酷だ。一つはライサム王国に戻ること。元の日常に戻るということだ。力なきものとしての日常。もう一つはどこか違う国に逃げることだ。危険な非日常。どちらにしろ力なきものであることには変わりない。だが王国というせまい檻の中で生きるより、泡沫の夢であっても羽ばたきたいと思った。そして口を開く。
「外にでて旅をしようと思う。」