召喚と王国④
食堂には気絶して運ばれた生徒たちが木で作られた長机に座っていた。楽しげな雰囲気はなく皆神妙な顔をしていた。
運ばれた料理はビュッフェ方式で米、パン、餃子、スープなど僕たちが食べてきたものとさして違いのないものが多かった。
腹が膨れたことで安心したのか、生徒たちは先ほどまでの神妙な面持ちとは打って変わって楽し気に話していた。高校生の適応能力の高さに感心しながらも僕自身もおなかに食事が入ることで少し緊張感が緩んでいるのを感じる。
騒がしくなった食堂に二人の男が入ってきた。どちらとも見覚えの顔であったが静まり返る。
入ってきたのは前島ヒロシと上村ジョウだった。
「楽しい食事中すまんな、急だがこれから30分後に国王に謁見してもらう。悪いが制服にまた着替えてもらって食堂に集合してくれ。」
そういうと前島ヒロシは踵を返して何もしゃべらない上村ジョウをつれて食堂を出て行った。
30分後僕たちは各々が着替え食堂に集合した。
メイドに連れられて10分ほど歩くと、大きな扉にたどり着いた。メイドの一声とともに扉が開けられる。直線状には王座とそれに座る王、そして脇には恐らく国家運営の要職に就いているだろう面々、その中に前島ヒロシと上村ジョウもいた。さらにその外に侍従たちが控えていた。僕たちは事前に言われた通りに王の前に跪く。
老いた見た目の王が語りだす。
「召喚されし者たちよ、此度は遥かなる地から朕の召喚に応じてくれて感謝する。困惑しているものも多いだろう。ただ我がライサム王国では無下に扱うことをしないことを王である朕ライサムにおいて誓おう。ささやかな朕からの贈り物として我が力の一端を君たちに授けようと思う。これは強制ではない。5分程待つ。決断にはあまりにも少ない時間かもしれないが朕の力を受け取るり朕と共に戦うか、街にて暮らすか判断してほしい。街に下ることになっても当面の生活費と職業の斡旋はさせてもらう。」
王はそういうと臣下の者に目配せをした。臣下は王の言葉の補足を始める。これを含めると10分程であるだろうか。臣下の話の後の沈黙があり、王が再び口火を切る。
「では、街に下る判断したものは立ち上がってくれ。」
少しの間が開いた後、一人二人と立ち上がるものが出てくる。最終的には10人程が立ち上がった。彼らはメイドに連れられて退室していった。
「これから我が力を君たちに授ける。臣下の者に呼ばれたものから朕の前に来てくれ。」
初めに呼ばれたものはシンペイだった。シンペイが王の前に立つ。王は手を出し、握手をシンペイに求める。シンペイはその手をつかむ。その瞬間繋がれた手から強烈な光が溢れ出る。
「よろしく頼む。」
王がそういうとシンペイは礼をして下がっていく。次々と握手が行われっていったがシンペイほどの輝きをしたものはいなかった。そして最後の番、つまり僕の番になった。王の前に立つ。王は老いてはいたが底知れない力を感じた。王が手を出す。僕も手を出す。しかしその手が触れ合うことはなかった。「バチッ」という音とともに手が弾かれた。
どよめきがおこる。しかし王だけは何も言わずただ笑みを浮かべていた。
そして僕のことはなかったように話が進んでいった。残った者たちは一週間後に王立学園に入学することを告げられ、今日のところは元居た宿舎に戻るように言われた。帰り道生徒たちの僕を見る目が冷たかった。シンペイだけは変わらず接してくれたが、前途に難があるなと思いながら眠ることにした。