定住と葛藤②
「勇者ってなんのこと?」
セスが疑問を口にする。
「僕の知ってる範囲だと魔王を倒すための特別な力ををもった人ってイメージだけど、多分マドルさんの言ってる勇者は違う意味を持つと思う。」
「勇者っていうのは概念を操れるものの総称だよ。」
「概念?」
「そう、もっと簡単に言えばこの世界のルールをねじ曲げる力だね。過去に出現した勇者は重力というルールを捻じ曲げることができた。見られた瞬間にペシャンコさ。でも無敵な訳じゃないよ。重力の勇者も結局殺されてしまったからね。」
「じゃあ今回の勇者もそれだけの力を持っているかもしれないってことですかね。」
「それ以上かもしれない。重力の勇者はそれでも始祖から遠いと言われてたんだ。」
「始祖とはだれですか?」
「この世界の神様だよ。現人神として東の果ての神国にいるらしいよ。僕もその目で見たわけじゃないから確証はないけどね。ちょっと一旦お茶でも飲もうか。」
そう言ってマドルは外に出て行った。
「セス、今の話わかったか?」
「ぜーんぜん。でもマドルは悪い人には見えないね。それでミスラはこれからどうするの?」
「道なき道を歩き続けるのもちょっと疲れたから、しばらくここにいれたらいたいかな。僕の知らないことも一杯知ってそうだしね。セスはどうしたい?」
「私はミスラについていくよ。面白可笑しく生きていくって約束したしね。」
セスは屈託のない笑顔でそう言う。なんだかその無条件の信頼がとても嬉しかった。
「ありがとうセス。」