第33話 ある少女のエピローグ 前編
前後編です
前回のあらすじ:グラビティ
「た、ただいま…」
頂上に戻ってくると、四人は功労者であるはずの私を待たずに天体観測を楽しんでいた。
「おー、ナナオくんおかえり。無酸素単独宇宙遊泳どうだった?」
「そんな登山家じゃねえんだから」
結局、宇宙に出て数秒後にはゲームオーバーとなった。さすがの魔法少女でも宇宙空間には耐えられなかったらしい。リスポーン地点が近くて助かった…。
とりあえず、カルナに話をしないとな。欲望の魔女の謎解きが分ったと教えてやらないと。いや、でも今は部外者がいるからタイミングが悪いか。リヴァイアちゃんはともかく、DDRには知らせないほうがいいだろう…。
てかその前にDDRだ!DDRのバカに文句を言う方が先だよなあ!あのバカ、加減というものを知らないのか!
「おい!DD…」
私の声を遮るように、DDRは空を指さした。
「なんだよ…………………すっげぇ」
私の目に飛び込んできたのは、空一面に広がる宝石のような星のきらめきだ。よく満天の星空なんて表現を耳にするが、この光景はそんなもんじゃない。比喩表現などではなく、一部の隙も無く本当に天が星の輝きで満ちている。その敷き詰められた星たちの一つ一つが一等星以上の輝きを放ち、辺りを太陽の様に照らしている。おお、ミルキーウェイが本当に垂れ流された濃母乳みたいに見えてるぞ。こんなヤクルト1000みたいなもの飲んでたらそらヘラクレスもあそこまで強くなるな。
空を飛んでいたときも星空は見たが、この丘からの眺めはそのときよりもより壮観だ。
「凄いですよ、ナナオさん!まさかこんな光景が見れるとは思いませんでした」
カルナも小躍りしそうなほど上機嫌だ。
「さすが星見台の丘という名前なだけあるな。こんな景色初めてだよ」
「この丘には、街の人の願いや魔法が掛かってるんでしょうね」
「ほんと、心が奪われちゃうよ」
リヴァイアちゃんも、この光景に思わず顔が綻んでいる。てっきりこの男は人を衒うだけのイカレ野郎ではないかと疑っていたが、ちゃんと自然の圧巻な景色に感動するだけの情は持ち合わせていたんだな…。
そんな感動しているであろう顔のまま、リヴァイアちゃんは言葉を続ける。
「恐らくだけど、この丘から見る星がこんなに綺麗に見えるのは………さっきふわンガが破裂したときの突風によってここ一帯の黄砂が吹き飛んだからじゃないかな?」
「あの、現実の環境問題を絡めるのやめてもらえませんか?」
うん、カルナの言う通り。やっぱこいつ感情無しサイコパスだわ。因縁があるはずのDDRのほうがまともに見えてきたぞ。
この丘が特別なのは、星の魔力がうんぬんかんぬんとかそういう理由にしておこう。
「やっぱりゲームって良いな。現実ではそうそうお目にかかれないような景色が見れるんだから」
おお!DDRがすごい良いことを言ってくれた!そうだよなあ、ゲームって良いよなあ。今私の中でDDRの評価がうなぎ登り中だ。………いやちげえわ、こいつさっき私を殺したじゃん。
うーん、私の周りの奴らって常に評価が乱高下するんだよなあ。一回評価点の平均値を割り出さないとな。
まあ、こんなロリコンやガチ勢の反応は正直どうでもいいんだ。今回の主役に話を聞きに行こうじゃないか。
ずっとカルナと手を繋いでもらったまま、みんなの会話を聞いてにこにこしているアイの元へ。
「アイ、遅くなってごめんな。ほら、星が見えたぞ」
声を掛けると、アイはもじもじしながら大きな声で
「あの、ありがとうございます」
おお、ちゃんとお礼が言えて偉いぞ。ご両親の教育の賜物だな。
「お星さま、きれいかな?」
「うん、ピカピカ光っててすっげーきれいだぞ」
「よかったあ」
アイはそう言って、ニヘっとまた笑みを浮かべた。
さて、今のとこアイが何をしたいのか全く分かってないぞ。クエストがまだクリア扱いになってないし、ボスを倒すだけなくここからもうひと段階ロールプレイをこなさなければならない。苦手だなあ、こういうの。
「アイちゃんはどうしてこの丘まで来ようと思ったの?」
お、カルナがストレートに聞いてくれた。
「あのね、お星さまはおかあさんなんだって。お父さんが言ってたの」
あっ………
「おかあさんはお星さまになっていつでもアイのことを見守ってくれてるんだって。アイ、おかあさんに会いたくて、いちばん星がきれいなこの丘に来たかったんだ」
「そうだったんだ…」
泣かせる話じゃないか。
「お父さんが連れて行ってくれるはずだったんだけど、急にダメだって言われて…。約束してたのに…」
「まあお父さんにも事情があったんだろ。許してやってよ」
「うん」
おそらくお父さんは下見かなんかでこの丘に来て、あのふわンガに出くわしたんだろう。そりゃあんな化け物がいるところに娘を連れて行かないな。
そういやなんでこんな丘の上空にモンスターがピンポイントでいたんだろうな。そういうクエストだからとかメタ的な意味じゃなくて。もしかして、星をみようとするアイの願いを阻止するために、人の願いを叶えさせないようにしているのか?
「カルナおねえちゃん、お星さまどのくらい出てるの」
「とってもたくさんだよ」
「100個くらい?」
「もっともっとたくさんだよ」
「すごーい!」
…ま、なんにせよアイの願いが叶ってよかったな。
「ナナオおねえちゃん。おかあさん、ちゃんと見ててくれてるかなあ?」
「うん、きっと見ててくれてるよ」
「あー--!!!」
うおっ!びっくりしたあ…。どうしたカルナ?いきなり耳元で大声出すなよ。
「あの星、アイちゃんの言葉に合わせて光ったんですよ!もしかして、あの星がアイちゃんのお母さんで、返事をしてくれたんじゃないですか!?」
「ええ、まじか!どこどこ!?」
魔法が存在する世界だ、アイの母親が本当に星になっていてもおかしくはない!
あっ、前方の方にチカチカと点滅する星を発見!
「あれか!」
「あれはさっきのあなたの残骸でしょうが!」
「まじか!」
まさか星になった自分の姿を自分で見るとは…。私の残骸よく見ると低軌道で高速移動してるな。国際宇宙ステーションかよ。
目を張り巡らせて、ようやく該当する星を発見した。まわりの星と比べてひと際大きく輝いている。たしかに、アイに返事をしているかのようだ。
「ほら、おかあさん、見守ってくれてるってさ。会えてよかったな」
「うん!おかあさん、ありがとう」
小さい声だったが、アイの言葉はきっと届いているだろう。
死んだ者と生きている者を再び引き合わせるとは、願いの力ってのは凄いもんだな。これでアイの願いを叶えることができた。
アイは母親に、家族のことや学校での出来事を話している。私達からの言葉からだけでなく、真に母親が見守っていると実感しているのだろう。本当に嬉しそうだ。
そんなアイの顔を見ていると、ふと思ってしまう。星という形ではなく生きている状態の母親に会わせてやりたいなと………
………ネクロマンスを使えば母親を生き返らせることができるんじゃないだろうか?
うん、絶対そうだ。そもそもネクロマンスを習得した経緯も今思えばおかしかった。あんないきなり覚えたのは、クエストの最後で使うという伏線だったんじゃないか?そう考えたら辻褄が合う。となると、ここで母親生き返らせるとルート分岐、このクエストのトゥルーエンドに到達したりして。普段は骨しか生えないこの魔法も、特定の条件下なら死者を呼び戻すことができるとか、そんな感じだろう!
思い立ったが吉日、さっそく試してみよう。
「ネクロマンス!」
唱えた途端に、バチバチッと今まで見たことない放電現象が。これ本当に成功したのではないか!?やはり、私の考察は正しかった!
シューと煙を吹き出しながら、母親らしき影がに現れた。
次第に煙が晴れていき、アイの母親のその姿が露になる。
「……シュコォー、……シュコォー」 ←かろうじて人の形を保った、骨むき出しの血にまみれた肉塊
「アウトー!」
やべえ、人体錬成しちゃったよ!アウトだよアウト!
え、これお母様御本人じゃないよね?たぶん別の何かだよね?
こんなんアイに会わせられるか!姿かたちは見えないから万歩譲ったとして、地獄の底から鳴ってるようなうめき声出してるし、なんか瘴気みたいなの纏わりついてるし、ソッコー黄泉にお帰り頂くべきだろう。
幸いアイを含めて誰もこの肉塊には気づいていない様子。何か言われる前に素早く土に埋め、とりあえず証拠隠滅に成功した。
よし、この魔法は2度と使わん!
「ナナオくん大丈夫?なんか地面から赤いのがはみ出てるけど…」
くっ、処理が甘かったか……!
「静かに眠らせてやってくれ。……ってなにやってんだ?」
よく見ると、リヴァイアちゃんはその両手に持った杖をアイに向けて構えていた。アイはカルナとの会話に夢中で気づいていないようだ。
「攻撃……するわけじゃないよな、さすがに。何のつもりだ?」
「いやあ、ちょっと試したいことがあってね」
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