人生って予想外の連続だよなっていう話。 ①
次は10/5の午後四時です。
緊張した様子の月島が、一回深呼吸した後、話を切り出す。
「昨日の告白の返事の話なのだけど………」
あれ? 俺、ごめんなさいって返事もらったよな?
ああ、正式に面と向かって断ってくれるってことね。
月島の律義さに、俺が感心していると――。
「私も、あなたのことがずっと好きだったの! これから、よろしくお願いします!」
月島の口から爆弾発言が飛び出した。
………………は?
どういう状況? これ。
まるで水が上向きに流れていくのを見てしまったような衝撃に、脳が理解を拒む。
もしかすると、俺が聞き間違えただけかもしれない。
フリーズしたパソコンのような動きしかしない俺の頭がはじき出した、一縷の望みにすがってみる。
「すまん。もう一度言ってくれるか?」
月島はジト目でこちらを睨んでくる。
「何度も言うの、恥ずかしいのだけれど」
頬を赤く染めて、はにかみながら、幸せそうに呟く。
「………いいわ。彼氏の頼みだもの」
そして、スゥ吐息を吸い、今度はきちんと聞こえるようにか、先ほどよりも大きい声で再びの告白が行われる。
「私もあなたと同じでずっと前から好きだったの!! だから、告白の返事は、よろしくお願いしますってこと!」
間違いようのない言い回しと、声に俺は現実を突きつけられる。
聞き間違いではないということは……ドッキリか?
だが、まだ別の可能性はある! と周りにカメラ、あるいはプラカードやら怪しげな人影やらががないか、確認する。
だが、その片鱗のようなものさえ見受けられない。
「いきなり、おのぼりさんみたいに挙動不審になってどうしたの?」
さりげなくディスってるのは、この際スルーするとして。
聞き間違いでも、ドッキリでもないとすれば……とりあえず本気だという前提で話を進めるしかないか。
嘘をついている様子も特にないし。
まあ最悪、俺の評判が学園のヒロインと本気で付き合えると勘違いした男ということだけだしな。
「いや、何でもない。それより、教室に戻ろうぜ」
「ええ、そうね」
俺たちが教室に戻ったとほとんど同時ぐらいに、授業開始のチャイムがなる。
アブねえ、もうちょっと話し込んでたら遅刻するところだった。
月島と一緒に授業に遅刻とか、クラスのやつらにどんな疑いを掛けられるかわかったもんじゃねえ。
危うくクラスメイトに月島と付き合ったことがばれる可能性が発生しそうになり、それを回避した安堵で胸を撫で下ろす。
開始時に問題が起こりかけたが、三限目の授業中は何もなく、つつがなく終わった。
「起立。礼」
『ありがとうございました』
先生が教室を出ていくと同時に、龍次たちが駆け寄ってくる。
「おい、お前。月島さんに呼ばれてたみたいだけど、どういう状況だ今? もしかして、罰ゲームの告白……本当n……んん゛、もう告白したのか」
おいテメエ、今一瞬、本当にっていいかけたよな。
「これもしかして、告白しなくてもよかった感じか………?」
「そりゃ、そうですぞ。まさか、本気でそんな事させられるわけないですぞお」
「まあ、普通に考えればすぐわかる話だよね」
ええ………。
龍次達の口から出た言葉に絶句する。
「一応な、お前が泣きついてくるか、数日経ったら教えようと思ってたんだけどな。まさか、当日に告白するとはなあ。 一人とはいえ、すげえなあ」
「ん?」
『ん?』
俺は一人というところに、龍次達は俺が首を傾げたことに引っかかりを覚える。
そして、互いに首をかしげてみつめあう。
「一人じゃないけど………」
「嘘だろ!?」
「きっと、嘘ですぞ!」
「僕にもそれはまったく予想できなかったね………」
そこまでか?
俺が予想していた以上の反応が返ってくる。
そして、三人が話を聞きたそうにしてたので、かいつまんで昨日の話をする。
「なるほどなあ」
「凄いですぞ……」
「それは……なんともまあ」
三者三様の感想だが、三人とも感嘆の声を上げる。
そして、龍次が話の続きを聞こうと、声を上げたところで――。
「よし。それじゃあ、さっきの話を聞かせて……」
チャイムがなってしまう。
「ちっ。しゃあねえ、今日の昼休みにでも聞かせてくれよ」
しぶしぶ席へと戻りながら、龍次はそう言う。
「すまん、昼休みは用事があるからそのあとな」
が、残念ながら昼休みは先約が入っているので、龍次にその後にしてくれと頼む。
「了解」
龍次が端的に答え、自分の席に着いたと同時に先生が教室に入ってくる。
この時間は………近藤先生だから、保健か。
近藤先生は浅黒い肌とムキムキの筋肉を持つ、元オリンピック代表候補である。
「よし。お前ら、授業を始めるぞ」
「今日の授業はここまで」
近藤先生が退室する。
正直、振られるためだけに生徒会室へ行くのは面倒くさいな、と思いながらも、行かないわけにはいかないので、仕方なく腰をあげた瞬間。
カチャ『一年十組の来栖秋人くん、至急放送室まで来てください』
何故か、放送室に呼び出される。
なにか呼び出されるようなことしたか? と思いつつ、予定を変更して先に放送室に行くことにする。
放送の声が東城先輩の声だったから、告白の返事とかか?
と、軽く予想を立ててみる。
だが、その考えはすぐに自分で否定する。
いや、まさかな。
あんな聖人君子みたいな評判の人がそんなことするわけない。
その、まさかでした………。
あなた、部長なのにこんな職権濫用していいのかよ?
聞いていた話とは違う人柄に、思わずえぇ……となるが、どんなに良い人でも人間なんだからそういうこともあるよなと納得する。
「それで、告白の返事は………?」
「その前にちょっと私の話をしてもいいかな?」
そこまで時間があるわけではないが、今この場で話すようなことだから何か俺に関係するのかもしれないと思って、許可を出す。
「どうぞ」
「実は私、最近ストーカー被害にあってるみたいなんだよね!」
いきなり出て来たストーカーという単語に、もしかして、俺の事を疑ってるのか? という疑念がわく。
だが、その考えが顔に出ていたのか、東城先輩はすぐに手を振って否定する。
「あ、違う違う。別に君を疑ってるわけじゃないよ! ストーカーの視線というか執着は粘っこい感じだけど、君のは全然そんな事ないからね!」
その言葉に、そうだろうなという感想を抱く。
そもそも執着なんて欠片もしてないから、粘っこくなりようがないわけだ。
「ありがとうございます、でいいんですかね? ……それで?」
「それでね、君には、私の恋人のふりをしてほしいの! 都合のいい話なのは、分かってるけど……。お願い! デートとかもできるだけ断らないようにするし、弁当も毎日作ってくるから!」
東城先輩の提案を検討してみる。
本気で困ってる様子だし、明るくふるまってるけど、ちょっと声とか手とか震えてるしな……。
でもなあ……めんどくさいし、二股とか外聞悪いしなあ。
それに、この話は告白が本気だと思ってるからだろし……。
三十秒ほどたっぷり思案した後、結論が出る。
よし、断ろう。
断りの文句を入れようと、口を開く。
「すみませんが、その話断らせt……」
しかし、俺の話は途中で遮られ、かぶせるように言う東城先輩の言葉に目を見開く。
「そういえばさ。君、詩織ちゃんにも告白したって小耳にはさんだんだけど。生徒会長の若宮詩織ちゃんにね」
それ、昨日の話だよね……。
耳、早くない?
東城先輩の情報収集能力の高さに舌を巻く。
「私たち、男子の間では『学園のヒロイン』って呼ばれてるらしいじゃん! そんな私たちに、二人同時に告白したなんて男子たちに知られたら、君はどんな目に合うかな?」
その情報を使って、東城先輩は俺に脅しをかけて来た。
「君には、腹黒いってことバレちゃってるみたいだし! なりふり構ってられないよ!」
そして、開き直ったようにそう宣言する。
えっ、まじで?
腹黒いって話、本当だったのか……。
この短時間に塗り替わる東城先輩の印象に驚愕する。
この状況では、もはや断るという選択肢はない。
不幸中の幸いとして、月島のことはまだばれてないっぽいが……そんなこと、この状況からしてみれば焼け石に水程度だ。
うわさを聞いたときに、信じておけばよかった……。
時すでに遅しだが、後悔の念が心に浮かぶ。
断っても、断らなくても地獄だ……。
できることなら、両方とも選びたくないがそんなことはできない。
仕方ないが、これなら昼の食費が浮く分だけ、付き合った方がまだマシだろうと判断する。
東城先輩は俺の表情を見て、腹が決まったのを察したのか、どちらを選ぶか問いかけてくる。
「それでさ! どうするの?」
「………謹んで、お受けさせていただきます」
長い沈黙の後、絞り出すような声で俺は返事をする。
「はい、よろしい! じゃ、はいこれ!」
俺の返事を聞いて、上機嫌になった先輩は満面の笑みを見せた後、カバンをごそごそと探ってオレンジ色のものを渡してくる。
「今日のお弁当ね!」
どうやら布で包まれたお弁当箱のようだ。
半強制的な契約の報酬とはいえ、ご飯をもらっていることに変わりはないので、東城先輩にお礼を言う。
「ありがとうございます、東城先p……」
「はい、そこ! 付き合ってるって話なんだから徹底しないとね? 東城じゃなくて香奈って呼んでね!」
「分かりました。……香奈先輩」
「あと、私しばらく放課後の放送、代わってもらうことにしたから! 授業終わったら一緒に帰ろ?」
香奈先輩の言葉は一見、一緒に帰るお誘いのように思えるが、どうせ強制だろう。
それなら、最初から命令してくれよ……。
この誘いは受けたくないが、どうせ受けなければ告白のことが出回って破滅するんだし、それなら多少面倒くさくても付き合った方がいいだろう。
自分に言い聞かせるようにそう考えたが、やはり無意識のうちに言葉が重くなる。
「……了解です」
香奈先輩のせいで、放課後にめんどくさい用事が増えてしまった……という重い気持ちに包まれる。
その鬱々とした気分のまま、放送室を出る。
そして、大きくため息を吐いてから、その足で生徒会室に向かう。
主人公の学校は一学年十五クラスあります。