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あれ? 俺……詰んでね?  作者: Aion
天に唾吐く愚か者……編
3/41

チャンスは突然やって来るよなっていう話。 ②

次回は9/30の午前六時です。


「何かしら?」


 月島は俺の言葉を聞き、教室から出ようとしたところで立ち止まって、こちらを振り返った。

 手には何か持っている。

 恐らく、さっき机の中から取り出したものだろう。

 どうやら、男物のハンカチのようだ。

 月島がそういうものを好むとは聞いたことがないので、知り合いの持ち物だろうか?


「用がないなら、帰ってもいいかしら?」


 ハンカチの件が気になるが、あまり別のことを聞いて本題に入れないようでは意味がない。

 そう思って、我慢しようとするが……やはり気になる。


 時間はまだあるし、少し聞くぐらいなら問題ないだろう、と自分に言い訳して、ハンカチについて質問することにする。


「そのハンカチ、誰のだ?」


「これ? これは……私の初恋の人からもらったものなの」


 ほう、そんなものを後生大事に持っているということは、きっとまだそいつのことが好きに違いない。


 ここにきて得られた新情報に、胸が躍る。


 これなら確実に振られるだろう。

 相手は俺じゃないだろうし。


 こんなきれいな長い金髪で、少し赤みがかった目の美少女とあったことがあれば、多少は覚えているはずだ。

 だが、俺には月島と会った記憶はない。

 スタイル……は初恋の人って言ってるぐらいだから、それなりに昔だろうし変わってる可能性もあるか。

 それにしても高校生とは思えない胸のサイズだけどな。


 心当たりと言えば、赤目繋がりでとある引きこもりが思い浮かぶが……あいつと一緒にするのは失礼だろう。

 そもそも、あいつは黒髪だし。

 というか……最近、あいつと全然連絡とってないなあ。

 今度、久しぶりに話でもしてみようかな。


 閑話休題。

 

 まぁ、確実に振られるなら捻った告白文なんか考えずに、定型文で良いか。

 月島は高めの声だが、淡々と話すので、あまり人に興味がないのかな? という印象を抱く。

 なので俺にも興味はないだろうし。


「あの! 俺、来栖秋人といいます。ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください!」


 俺のこの演技力、アカデミー賞レベルじゃないか?


 想像していたよりもうまい演技ができて、自画自賛してしまう。


 これなら、確実に騙せるだろう。

 学園のヒロインに罰ゲームで告白をしたのが親衛隊とかにバレたら、普通に告白するよりもひどい制裁が待ってそうだから、できるだけバレないようにしないと……。


 俺が、改めて今の状況の面倒くささを再確認しながら、月島の反応をうかがううと――。


「えっ、えっ! あのその………ご、ごめんなさい!!」


 そう言って月島は顔を真っ赤にしながら鞄をつかみながら走り去っていった。

 

 あれ?

 何か思ってた反応と違うんだけど………。

 もっとこう、慣れた感じで断られるのかと思ってた。


 前評判を聞いて予想していた対応との違いに、首をひねってしまう。

 が、考えても俺が特別な対応をされる理由が分からないので、恐らく振るときはあんなかんじの反応をしているのだろうと推測する。


 まぁ、ごめんなさいとは言ってたし、ああいう対応が人気の秘訣なのかもしれない。


 と、半ば無理やりに納得して、頭を切り替えることにする。


 とりあえず一人目には無事振られたということで後二人だな。

 できるならば、俺が告白したという噂が流れていないと確実に言える、今日のうちに三人に告白しきりたいけどな。

 俺程度の告白が噂になるとは考えにくいし、それを三ヒロインが耳にして記憶に残すとも考え難いが、可能性はないに越したことはない。


 月島が出ていった後、時間を確認すると五時半だった。


 どうせだし、気分を切り替えて校内を歩くか。

 ついでに、東城先輩と若宮生徒会長の噂でも聞き込みしよう。


 東城先輩から親衛隊がいなくなるのを待つ間、暇なので時間をつぶしがてら情報収集でもすることにする。

 

 あまり校内に生徒は残っていなかったが、それでも一通り聞き回った頃にはそこそこの情報が集まっていた。

 俺がこれならいける! と予想以上の収穫にホクホクしていると――どこかで見覚えのある生徒たちとすれ違った。

 ネクタイの色からして、おそらく三年生だが、俺に三年生の知り合いはいない。

 どういうことかと首を捻っていると、ふと入学式で見たのを思い出す。


 生徒会の役員だ!!


 急いで追いかけて声をかける。


「すみません、先輩方って生徒会ですよね?」


「そうだけど、何か?」


「若宮生徒会長に用があるんですけど、まだ生徒会室にいらっしゃいますか?」


「あー。俺たちが出た後に部屋を閉めるって言ってたから、多分まだいるはず……」


「ありがとうございます!」


 先輩の言葉を聞いた瞬間、お礼を言って足早に生徒会室へ向かう。




 階段を上がり、生徒会室の前に着くと丁度、会長が鍵を閉めたところだった。


 ギリギリセーフ!


 冷や汗をかきながら、間に合ったことにホッと胸を撫で下ろす。

 急いだことにより荒れた息を少し整えてから、会長に声をかける。


「帰る準備をしているところにすみません。少しお話よろしいでしょうか?」


「君は……一年生のようだね。用件は何かな?」


 よしよし、事前に作戦を考えておいてよかったぜ。

 俺が集めた噂によると、会長は武家の娘らしく非常に硬派で、趣味も茶道や修行らしい。

 誰かが『ぬいぐるみとかメイクとかに興味はないんですか?』と聞いたこともあるそうだが、特にないと答えたとか。

 罰ゲームだとバレないように、上手く振られるためには、少しズレているとような告白文が効果的だと思うので、この噂を利用しようと思う。

 

「俺、来栖秋人といいます! 若宮会長の凛としている格好いいところとか、実はかわいいものに目がなくてこっそりぬいぐるみとか小物を集めてたりする可愛いところに惚れました! 俺と付き合ってください!」


 小説や漫画などでは、会長みたいなクールっぽい人がかわいい物好きとかはベッタベタな展開だが、会長は違うということは噂で裏付けがとれている。

 全然違うことを言うのはリスキーだが、この程度のズレなら、噂を勘違いした後輩が変な告白をした程度にしか記憶に残らないだろう。


 自分の作戦の秀悦さにほおを緩ませる。


「な、なぜそれを………い、いや、こほん。君の気持ちはよく分かった。少し考えさせてもらってもいいだろうか?」


「は、はい! 勿論です!」


 やべ、反射的に返事しちゃった。


 慌てて訂正しようとするものの、俺が顔を上げたときにはすでに結構な距離が離れていた。


「ありがとう。ではまたな、気を付けて帰ってくれ」


 夕日のせいかほんのり頬を赤く染めた会長はそう言って、艶のある黒髪をくくったポニーテールを揺らしながら、廊下を小走りで歩いている。

 仕方ないので、大した害はないだろうと判断して、挨拶だけをすることにする。


「先輩もお気を付けてー!」


 にしても、噂では皆即座に断られたと聞いていたけど、少しばかり誇張されてたみたいだ。

 まぁ、接点がない一年生から、的はずれなことをいきなり言われて混乱したから落ち着いて返事をするためにああ言ったんだろう。

 変なことを言う後輩にも丁寧に対応する、これが会長の人気の理由の一端なのかもしれない。


 そんなことをつらつら考えながら、最後の一人のもとへ俺は向かう。

 正直、会うこと自体は簡単だろうと思っている。

 噂の聞き込みの際に文斗と同じことをいってる奴がいたので、文人が言っていた話の信憑性は高いし。

 最終下校時刻の放送とは言っても正確には十分から十五分前くらいに放送するらしいのでそろそろだろう。

 と、その時、カチャっと音がする。


 『そろそろ下校の時間だよ。まだ部活動をしているところは切り上げてね。あんまり遅くまでいると怒っちゃうぞ♪』

 

 生徒会室は4階にあったため、少しは移動していたとしても1階にある放送室からは大分遠い。

 つまり、またしても急がないといけないということだ。

 さすがに走るのはダメだと思うので小走りとはや歩きの中間くらいの速度で放送室へ向かう。



前回の話の追記です。

生徒会選挙は、全校生徒の信任投票なので……まあ、人気投票みたいなのものです。

そういう人たちはわざわざ面倒くさい手続きを踏んでまで過去の生徒会が作った校則を変えようと思うほど、不便を感じていないわけです。

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