チャンスは突然やって来るよなっていう話。 ①
次は9/29の午前四時です。
しかし、現実は無情なのもで、ここでいくら突っ伏していても勝負の結果は変わらない。
数分ほど突っ伏したままでダメージから回復すると、諦めて顔を上げる。
……さすがに勝負を無効にしてくれってのは受け入れられないよなぁ。
いや、でも……う~ん。
ダメもとで聞いてみるか。
現実逃避以外の手段を取ろうと思い、手始めに龍次たちの慈悲の心にすがろうとすると――。
「なあ、あのさ」
「ダメだ」
「まだ何もいってませんけど!?」
「どうせ、この勝負無しにしてくれないかとか言うんだろ?」
「なぬ! それはよくありませんぞ、来栖氏」
「そうだね。僕もそれは受け入れられないかな」
なぜ分かった。
さてはお前、エスパーだな!
「エスパーじゃねえよ」
おい、心の声を読むなんてやっぱりエスパーじゃないか。
……しかし、やっぱりダメか。
ダメ元とはいえ、最も楽に済む道が閉ざされて落胆してしまう。
「まぁ、そんなに落ち込むなって。もしかしたら、三人のうちの誰かと付き合えるかもよ」
「お前、校内顔面偏差値ランキング中の上な俺が上の上なあいつらと付き合えるって本気で思ってんのか?」
「いや? 全然。でも同じ中の上な俺が朱音みたいな奴と付き合えるんだから、可能性はゼロじゃないと思うぜ」
確かにお前の彼女は記憶では顔面偏差値上の上だけど、だからと言って、俺が学園のヒロインと付き合えるなんていう、コンマいくつとかそんなレベルの可能性を言われてもなあ……。
「君たちはまだましだよ。僕なんて下の上だってさ」
「吾輩なんてもっとひどいですぞ! 下の中なんて、吾輩のどこがそんなにダメなんですぞ!!」
どうやら、文人もそこは気にしているらしい。
英雄に関しては、多分格好と脂肪だと思う。
ちなみに、顔面偏差値ランキングとはうちの学校の新聞部が独断と偏見で決定した、学校での顔の良し悪しが何となくでわかるシステムである。
正直、何でこんなものがあるのか疑問だが、そうはいってもあるので仕方ない。
ランキングは食堂に張り出されているが、教職員も対象らしいので新任の先生とかは初見のときにキレることもあるんだとか。
そんなことがあってもこの張り紙が廃止されていない理由としては、数代前の生徒会が決めたシステムだからだ。
もともと、生徒会は大きな権力を持っていたが張り紙が始まってからは、張り紙をやめさせようと襲ってくる生徒を返り討ちにする新聞部の武力と合わせて〈権力の生徒会、武力の新聞部〉と言われるようになったらしい。
閑話休題。
「よし、じゃあ行ってくるわ。まずはクラス同じだし月島でいっか」
若干やけっぱちになりながら、サクッと済ませて楽になろう、と立ち上がったところで龍次が声をかけてくる。
「おい、ちょっと待てって。お前こんなところで告白したら、返事がどうであれクラスの男どもに殺されるぞ」
「そうですぞ! 若宮生徒会長以外のお二方は親衛隊がついているのでタイミングを計らないと厳しいですぞ。しかも、若宮会長も近づこうとするものは会長に気づかれないように密かにチェックされているらしいですし」
「それなら、ひとつ聞いたことがあるよ。何でも放送部部長さんは雑音が入らないように放送の際は親衛隊を放送室に絶対入れないとか。あとは、下校のときの放送は親衛隊を先に返してから門を出るらしいとかね」
ふむふむ。
話を聞く限り、まずは放送部部長か生徒会長を狙った方が良い感じか。
「よし分かった。まずは今日の放課後、放送部部長に告白する。行けそうなら、他の二人も狙っていくって感じでいいか?」
「ま、それなら大丈夫だろ。ちゃんとやれよ」
「分かってるって。俺は約束は破らないようにしてるから」
「来栖氏、さっさと玉砕して吾輩と共に二次元の道を進みましょうぞ! 二次元嫁は良いですぞぉ」
「僕も応援してるよ。………成功確率は2%を切ってるけどね」
他人事だと思って好き勝手言いやがって。
あと文斗、ボソッといってるの聞こえてるからな。
2%とか、数字が5%とか10%じゃない辺りに妙なリアルさを感じるぞ。
そもそも、この告白はするのが目的だから振られても構わないどころか、むしろ振ってくれって感じなのだが。
まぁ、振られたとしても女子の情報網というか、横の繋がりは凄いから俺は瞬く間に学園のヒロインに告白した男としてどの学年からもアウェーになると容易に想像できるのでどっちにしろ告白することになった時点で詰んでるし。
自分から勝負を持ちかけたとはいえ、まさか自分がする事に(しかも三人も)なるとは思いもしなかった。
勝負を思いついた時点で、こういうことになる可能性も考えて提案するのを踏みとどまればよかった……。
多分な後悔を抱きつつも、そこで話は終わり、残りの昼休みと授業をいつも通り過ごして、放課後になった。
とりあえず、完全下校時刻の六時半までは暇だし、振られた後の対応をどうするか、考える。
が、特に何も思いつかず、結局ボーとしているだけになっていた時、ガラガラと音がして教室の後ろ側の扉が開いた。
俺は教室の最後列で窓際の、小説などでは主人公が座っている席であるため、彼らにならって窓の外を眺めてながら思考に耽っていたのをやめる。
そして、反射的に入ってきた人を見ようと振り向く。
そこには予想外の人物が立っていた。
まるで神様が俺に全力で嫌がらせをしているとしか思えないタイミングだ。
何なんだよ。神様は俺に何のうらみがあるっていうんだ。
あれか? 昔連れていかれたことのある聖書朗読で、ことごとく眠りの淵に落ちたのがいけなかったのあ?
それに関しては、俺以外の人もほとんど寝てただろ!?
びっくりしすぎて、自分でも頭の中がよく分からないことで埋め尽くされる。
が、すぐに落ち着いて、誰にしているか分からない言い訳を始める。
……誓って言うが、俺は何も考えていなかった。
別にこれを狙っていたから教室にいたわけじゃない。
本当だぞ!?
……あんまり落ち着けていないのかもしれない。
そんな俺の心境など意に介さず、奴は、月島深雪は俺に気づくと軽く会釈をする。
その拍子に腰近くまであるロングがふわりと広がる。
そして顔を上げると、自分の机へと向かっていく。
忘れ物か?
……今がチャンスかもしれない。
おそらく時間的に、まだ入る部活を決めていないと聞くこの女がこの時間に荷物を取りに来るのは一旦家に帰った場合だろう。
いかな親衛隊とはいえ、家の特定や家を監視するなどというストーカー染みた行為はさすがにしないと思われる。……しないよな?
まあ、しないと信じて、その前提のもと考えると、一度家に帰ったということはイコール、マークが外れた状態だと言える。
勿論この推論が間違っている可能性もある。
もしかするとまだ部活に入っていないというのは古い情報かもしれないし、親衛隊が想像よりもヤバイ集団かもしれない。
そうなれば、俺は親衛隊にボッコボコにされるだろう。
だが、このまま手をこまねいていても、唯一接触方法が思い付かなかった月島相手にこんなチャンスはこれ以降こないかもしれない。
ここはリスクをおかしてでも行動するべきか……。
そうこう考えているうちに、月島は目的のものを見つけたのか教室を出ようとしている。
「少し話があるから、待ってくれないか?」
ここでチャンスを逃すのはあまりに惜しいと思って、慌てて声をかける。