罰ゲームなんて提案するもんじゃないよなっていう話。
とりあえず二週間毎日投稿します
基本は週一投稿です
ストックが一週間分溜まれば、毎日投稿に切り替えます。
次の投稿は9/28の午前二時です
放課後、とある学校に男子生徒がいる。
彼は教室で途方にくれたように立ち尽くしている。
うつむいて猫背ぎみになった背中からは、リストラされたことを家族に言えずに公園で時間を潰すお父さんのごとき哀愁を漂わせている。
彼は来栖秋人。この物語の主人公である。
そんな彼の今の心境を覗いてみよう。
俺は今、ピンチだ。
今までの人生でこれほどまでに窮地に陥ったことはないだろう。
今なら、推理ドラマで崖に追い詰められた犯人の心境も理解できる、そう思うほどの危機的状況だ。
なぜこんなことになってしまったんだろう。
神様、俺が何をしたというんですか!?
ここ数年、初詣とかめんどくせーって思って年末から新年にかけてずっと家でごろごろしていた俺への罰なんですか!?
こういう時に限って――いや、こういう時だからこそなのか現実から逃避するようにあてどない思考が頭の中をめぐる。
そして、俺の意識は走馬灯のごとく、過去の記憶から解決策を得ようとこんな事態になってしまった原因である、今日の昼休みの記憶まで遡る。
四限目のチャイムがなる。
「はい、今日の授業はここまで。次回までにちゃんと復習しとけよ」
授業を終えたばかりの教師の話を聞き流しながら俺はいそいそと昼食の準備を始める。
弁当を鞄から取り出していると、入学してからここ二ヶ月ほどで安定となった、いつものメンツが俺の机に集まってきて、周りの席を三人がそれぞれ近づけてくる。
一人目、逆立てられた赤い髪と三白眼が特徴のひどく人相が悪い俺の中学時代からの親友だ。
名前は古鉄龍次。
元ヤンだが、さして粗野ではないし相談にも乗ってくれる見た目に反して良いやつである。
こいつに習った喧嘩殺法には何度か助けられたことがあるのでそこに関しては頭が上がらない存在である。
二人目、漫画のような分厚い眼鏡と七三分けが特徴の男である。
名前は緋衣文斗。
ガリ勉野郎の呼び名で親しまれていて、本人もまんざらでもなさそうなちょっとずれたやつである。
その学力は見た目に恥じぬ高さで、学年一位どころか有名模試で全国一位をとったこともあるらしい。
三人目、常に『アイドル命』と書かれたハチマキを巻いていて制服の上に様々なアニメのキャラがプリントされた法被を着ている猛者だ。
名前は小宅英雄。
法被のプリントは『俺の嫁』だと以前聞いたことがあるが、俺はそれよりもどうやって校則をくぐり抜けているのか気になっている。
服装だけでなく見た目も丸眼鏡に脂肪増し増し汗多めの完全に名前負けしたオタクだ。
そんなやつらと、いつものように雑談をしながら弁当を半分ほど消化した頃、話が一度途切れたタイミングで俺はとある提案をする。
「なぁ、お前らさ。学校の三大ヒロインって聞いたことあるか?」
「ん、なんだそりゃ? 知らねえなあ。聞いたことすらねえ」
「僕は何度か耳にしたことはあるよ」
「吾輩は勿論知っていますぞお! 来栖氏!」
俺の言葉にそれぞれが反応を返してくる。
龍次は全く知らないようで、文人は耳にしたことぐらいはあるらしい。
英雄は……まあ、予想通りだな。
「デュフフフフ………生徒会長を務め、成績は二位以降を引き離しての三年生トップ! 若宮家の一人娘でありまさに文武両道な才色兼備ぃ。これまで告白してきた男子は例外なく冷ややかに切って捨てられてきたらしいですぞぉ。『女神』若宮詩織として有名ですなぁ」
……こいつ、興奮すると結構早口になるよな。
その癖は早く直した方がいいと思うぞ。
「若宮家ってことはあの道場か! 確かに門下生は手強かったからなあ。あの家の一人娘ってことは次期当主だろ? 一度手合わせ願いたいもんだな」
「ああ、彼女ですか。僕でも相手にしたくはありませんね。勝てる可能性がないわけではないですが……なかなかに厳しい戦いになるでしょう」
龍次も文人も何か心当たりがある模様だ。
恐らく龍次の言っている話は、喧嘩をした時に生徒会長の道場の門下生が善戦したということだろう。
剣道の門下生とか、剣を持っているかどうかで戦闘力が結構変わりそうなものだけど……まあ、龍次のことだから絶対に、最低限剣の代わりになるものでも持たせて戦っただろうけど。
意外とバトルジャンキーだからなあいつ。
文人に関しては……三年生に張り合ってる時点で間違ってるんだよなあ。
しかも、勝てないじゃなくて、なかなかに厳しいって言ってるのが恐ろしい。
こいつは俗にいう天才ってやつだな。しかも、何十年、何百年に一度とかの奴。
それにしても……見た目のとか性格とかは、個性的という枠からもはみ出てる感のあるやつらだが、性能は相当に高い――こいつらにここまで言わせるとは、生徒会長は想像してたよりも凄いのかもしれん。
「二年生にもかかわらず、放送部部長に異例の大抜擢! 毎朝の校内放送は『香奈ちゃん放送』として親しまれ、その可愛らしい容姿とロリロリなボイスから絶大な人気を誇る! これまで彼女に告白し玉砕してきた男達は数知れずぅ。むしろ、『その声で断られたい!』と何人もの男子が繰り返し告白しているらしいですぞお。そこでついたあだ名が『天使』東城香奈」
「いつも学校にできてる人だかりの原因か」
「最終下校時刻の放送も担っているから、僕も幾度となく聞いているよ」
さらっと言ってるが文斗、まだ二ヶ月なのにそんなに何度も最終下校時刻まで学校に残ってんのかよ。
自習にも余念がない。
天才なのに、努力型とかもうそれほぼ無敵だろ。
今度のテストがやばそうだったら、勉強のコツとか教えてもらおう……参考になるかはともかく。
「新入生代表に選ばれ、入学からまだ二ヶ月にもかかわらず告白する男子が後を絶たない!深窓の令嬢のようで、触れれば折れてしまいそうな儚い雰囲気に一年生男子のほとんどが虜になっているらしいですなあ。いまだに告白成功者は0! 『妖精』月島深雪として人気を高めていますぞぉ」
「そういえば、入学式で挨拶してたな」
「うん、入学試験は風邪引いちゃって体調が悪かったから首席はとれなかったんだよね」
……うちの学校は県でも上位の方にいる進学校なんだけどさ、話を聞いてる限り風邪を引いて本調子じゃない状態で試験を受けて合格したように聞こえるんだけど??
俺が風邪ひいた時とか、勉強したら酷いことになってたのに……。
頭は回らないし、計算は遅いし普段の実力とは全然違う結果だったのに……。
改めて、文斗はおかしいと再確認した。
「英雄、説明サンキュ。それで話の続きだが、ゲームをしてみないか?」
そう言ってから、龍次たちの反応を見ると……少しは興味を示しているようだった。
「内容は、今から三回ジャンケンをして、それぞれ負けた奴が三大ヒロインに告白するっていうやつな」
「お、ちょっと面白そうじゃねえか! 俺はやるぜ」
「僕も参加してみようかな」
「龍次氏と文斗氏がするのであれば……吾輩も参加しますぞ」
想定よりも好感触だ。きっと自分がすることはないだろうと高を括っているんだろうな。
そう思ってられるのも今のうちだぜ……お前らが告白するのを、笑いながら見てやるよ。
「よし、決まりだな。お前らが負けたときにどんな顔をするのか楽しみだぜ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ」
「僕も負けないよ」
「吾輩もですぞ」
「いくぞ!」
最初の掛け声をかける。
『さーいしょーはグー、ジャーンケーンぽん!』
俺 グー 他の三人 パー
……いやいや、まだ後二回は残ってるから。
それに二回、三回と一人負けする事はまずないからむしろ、負けに怯えなくて良いと考えよう。
仕方ない。一回は必要な出費だった。
続く二回戦目
「いくぞ!」
次は負けないという気持ちで、掛け声をかける。
『さーいしょーはグー、ジャーンケーンぽん!』
俺 チョキ 他の三人 グー
何で??
有り得ないと思っていた結果に頭が混乱する。
「おい、大丈夫か? もう後がないぞ。このままいけばお前が三人に告白することになるな」
にやにやしながら龍次が、からかってくる。
「うっせえ! 三度目の正直だ!」
そう叫び、今度こそ負けないという意思を込めながら手を構える。
そして運命の三回目。
「いくぞ!!」
もう負けられないという気迫を込めて、掛け声をかける。
『さーいしょーはグー、ジャーンケーンぽん!』
俺と龍次 パー 英雄 グー 文斗 チョキ
危ない危ない。ギリギリのところでセーフだな。
三回連続で一人負けするのは回避して、一安心する。
だが油断してはいけない。依然として危うい位置にいるのは変わっていない。
そう自分のの慢心を防ぐために、心の中でつぶやく。
焦らずに、この調子で次は勝っていこう。
「いくぞー!」
勝つ! その思いを胸に、掛け声を出す。
『あーいこーで、しょ!』
俺と英雄 チョキ 龍次と文斗 グー
「俺は次にパーを出す」
結果を見ると即座に俺はこう宣言した。
既に駆け引きは始まっている。
相手は英雄である。きっと裏をかいたと見せかけて、裏の裏をかきチョキを出すに違いない。
そう英雄の手を予測し、グーを出そうと決める。
ここが分水嶺だ。ここで何を出すのかによって、俺が学園のヒロイン三人に告白するなんていう不名誉を戴くかどうかが決まる。
英雄の様子を見ると、向こうも何を出すか決めたようだ。
緊張で心臓が早鐘を打つ。
「いくぞー!!」
この勝負、気持ちで負けた方が戦いにも負ける、そう思い、今までで一番の声を上げる。
『さーいしょーはグー、ジャーンケーンぽん!』
俺 グー 国男 パー
な……な、なあああ!?
俺は目に映った光景を受け入れられずに、机に突っ伏した。
あだ名とかが、質素なのは勘弁してください。
思いつかなかったんです。
あと、ヒロインの章? みたいなのを作るつもりなので、その時ように凝った名前は置いといてます。