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異種交流譚  作者: ちか
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 アキツとエウロペからの使者であるふたりは、ひとまずゆっくり休んでほしいと滞在中の部屋へ案内された。

 適度な距離を設けられてそれぞれの部屋をあてがわれたけれど、ここで引きこもっているようであれば各々使者としてはあんまりだろう。

 庭への散策の許可を貰ったミズホは、女官に先触れを頼んでグレアステアのもとを訪った。


「初めまして、グレアステア様。アキツより参りました、ミズホと申します」


 見目を裏切らぬ楚々とした仕草で礼をするミズホに目を丸くしたグレアステアは、何事か納得したように数度頷くと自らも名乗り、共に庭へ散策を、と提案するミズホに快く頷いた。


「そちらは種族を『リュウ』と聞いたが、なにやら親近感を覚えるな」

「私も『どらごん』とお会いするのは初めてですが、遠い親戚と出会ったような心地です」


 のんびりと見事な庭を歩きながら会話するふたりは、やはり共通点ともいえる互いに感じた似通う気配へと話題を移す。

 人とほぼ変わらぬ姿をしているミズホとグレアステアであるが、その身はどちらも変化したものであり本性ではない。

 ふわふわと思い浮かべるのはそれぞれの髪色や体つきから想像した自身と同じ種族の姿。

 それが決定的に間違いであることは、無邪気なミズホの言葉によって判明することになる。


「きっと、グレアステア様はさぞかし力のあるお姿なのでしょうね。お目にかかれる日がきたなら嬉しいのですが」

「構わないぞ」

「よろしいのですかっ?」


 ぱっと顔を輝かせるミズホにグレアステアはくすぐったいものを感じつつ、念の為広い場所を使って本性を変化する旨を城へ連絡する。「神」という存在のなかったパーシアでいきなり本性を現せば混乱を招く可能性があることくらい、荒事に長けすぎて政治の場に放り込まれたグレアステアにだって分かるのだ。

 エウロペは領土争いや戦争こそないが、争いそのものが根絶しているわけではない。諍いの引き金となる「怒り」とは立派な感情であり、これは失くすべきものではないのだ。それは、アキツにも言えたことであった。

 グレアステアが本性を見せるということで、アケメネスもできればその場に参じたいと申し出てきて、見世物のようであるが未知のものに対する好奇心は文明の発達に必要なものかと彼は承知した。

 そして、見せる威容。

 下肢の発達した巨大な蜥蜴のような真黒の鱗に覆われた姿に、それを支えるにはやや小さくも見える飛膜が一対。顎門には鋭い牙が覗き、吐息には火炎が交じる。眼光は、人間の姿をとったときと同じく鋭い鋼色であった。

 グレアステアは自身を見つめるものたちが一様に呆然としているのに「当たり前か」と思ったが、そのなかにミズホがいることにきょとん、とした。

 同族にも等しい彼が何故そのような反応をしているのか分からない。

 考え、どうにもミズホはまだ若いので自分のような巨体を初めて見たのかと思ったが、次第に頭痛を堪えるような顔をし始めるので益々理解できなくなった。


「……どうした」


 本性を解いてとうとう問いかければ、ミズホは「えっと」と歯切れ悪く視線をうろつかせる。


「グレアステア様の本性は、いまのもので間違いないのですよね?」

「ああ。大きすぎたか?」

「とてもご立派でございました。いえ、そうではなく……」


 ミズホは唸った末に、自身の本性も見てほしいと変化を解いた。

 さながら小さな手足と鬣のついた蛇。何故か飛んでいる。翼もないのに飛んでいる。

 これにもアケメネスたちは驚き、しかしグレアステアで慣れたのか感嘆の声を上げているが、グレアステア自身はそれどころではない。

 彼の胸中を述べるのであれば「なんぞこれ」というのが正解だろうか。

 ミズホが本性を解き、なんともいえない顔で見上げてくるので、グレアステアは数秒空を見上げ、アケメネスたちに一言ふた言告げてミズホを担いでその場を全速力で去った。


「──どうやって飛んでいた?」


 自身にあてがわれた部屋へミズホを連れ込んだグレアステアは、開口一番訊ねた。

 ミズホは困惑も露わに「し、神力で……?」と答える。


「神力? は?」

「え?」

「神力、とは……?」

「え、え、神力は……神力です。グレアステア様だってお使いになるでしょう?」

「飛ぶのに使うのは翼だ」

「物理法則でお飛びになるのですかっ?」

「はっ? それ以外になにがっ? ケツァルコアトルだって翼があったぞ!」

「ですから神力を!」


 ふたりは深呼吸をして状態を落ち着けると、改めてお互いの違いについて考えた。

 まず、グレアステアには神力というものは備わっていない。当たり前のように語られてもなにがなにやらという話だし、ミズホにしてもグレアステアの巨体を翼で支えているというのが目で見ても信じがたかったため、神力の類だと思ったのだ。神力でないなら、あの巨体を支えるにはやや頼りなさそうな翼でどうやって飛んでいるというのだという話である。


「……ええと、グレアステア様は人間の成長をご存知でしょうか」

「短命種故に見逃すところは多いが、多少は」

「赤ん坊が最初は目が見えていないというのは?」

「知っている……ああ、なるほど。つまり、神力というのは最初から備わっているが成長とともに開花する能力、ということか?」

「左様です。グレアステア様は……」


 グレアステアは笑う。力なく笑う。


「…………筋力だ」

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