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異種交流譚  作者: ちか
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 中央の小さな島国を隔てて東西に別れた大陸は、それぞれが成熟しているが故に特別交流を持つこともなかったが、この度双方の大陸から島国へと使者が遣わされ、実質交流を持つ運びとなった。


「東の大陸アキツより参りました、ミズホと申します」

「西の大陸エウロペより参じた。グレアステアと云う」


 片やたっぷりの布を重ねた衣装の上からでも分かる細い体つきをした、白髪から片方だけの耳飾りを覗かせる若々しい青年。

 片や正装として通じる軍服に逞しい体を包み、眼帯で片目を隠すも鋭い眼光宿す盛りの男。

 対象的なふたりであるが、どちらにも共通するのは金色と鋼色の目を強調する瞳孔が縦に裂けているということか。

 ふたりは人間という種族の生き物ではなかった。


「よくぞ参ってくださった。神という存在と対面するのは初めて故、無作法もあるかと思うが何卒ご容赦いただきたい」

「パーシアに神、宗教が存在しないことは伺っております」

「未知であるのはこちらも同じこと」


 迂遠に「気にするな」とするふたりに島国パーシアの王であるアケメネスは感謝して、出来うる限りの歓待を約束する。

 そも、ふたりの使者を招いたのはアケメネスであった。

 パーシアは小さな島国である。

 争いというものとは既に無縁となるほど国として成熟した大国に挟まれた、小国なのである。

 パーシアにもなにか他国へ誇れるものが欲しい。

 人々が訪れるような切っ掛けとなるような、名所、名物、なにかが国として必要である。

 有識者とともに考えたアケメネスが決定したのは、天高く聳える塔の建設であった。

 大陸からでも目視ができるほどの威容を誇る塔を建て、これぞパーシアという誇りとしよう。

 誰もが熱意を以って塔の建設に勤しみ、完成を待ち望んだ。

 だが、ある大雨の年にパーシアは絶望を知る。

 止まない雨のなか、突如崩壊を始める塔。

 完成まで遠いとはいえ、長い時間をかけて建設してきた塔が、がらがらと音を立てて崩れ、溶け、流されていく。


「なんということだ! 何故こんなことに!」


 頭を抱えたアケメネスは再び有識者を集め、原因を探ったが答えらしい答えは出ない。

 そも、塔の建設とてようやく絞り出した知識のなかで始まったのだ。成功に向かうと思われたなかでの崩壊は、あまりにも頭がついていくには難しい現実であった。


「……もしや、天に届かせんという目標を面白く思わぬものがいたのだろうか」


 不意に誰かが言った。

 彼は西の大陸エウロペに短い間であるが留学経験のある学者であった。

 アケメネスがどういうことかと問えば、学者は「神」という存在について話を始めた。

 パーシアには存在しない概念であるが、万能、ときに全能を司るという偉大な存在である「神」は天に住まうものらしく、己に並ぼうとするものを目障りに思ったのではないか、と。

「神」は天を所有するのか、と一瞬憤慨したアケメネスであったが、考え方を改めれば自身の住居の隣に突如なんの知らせもなく高層建築物が建てば、そりゃ迷惑を被ることもあるだろう。「神」の御業の可能性もあるが、崩壊したという事実もあるくらいだ。


「ふむ……私はつまり、近所に迷惑をかけてしまい、怒られている可能性があるのだな?」


 そう結論を出したアケメネスは詫びと、可能ならば塔の建設を成功させるべく知識を賜わろうと使者を立てようとして……ふと気づく。

「神」のいる国はエウロペだけではない。

 東の大陸アキツも同様である。

 ならば、エウロペの「神」ではなくアキツの「神」が怒った可能性もあるのだ。どちらか片方に使者を立てて相手が違った場合は大変なことになるに違いない。

 ならば、最初から両方の国へ使者を立てれば良い。

 幸い、アキツにも文官が短い間留学したことがあるけれど、文官にせよ学者にせよ、短い間というのがなんとも悩ましかった。

 両国から多少はひとがやってきてパーシアはそれぞれの文化を取り入れているけれど、直接的な国交はほぼない。というよりも、必要とされていない。両国もまた、パーシアを挟んで遠国ということもあり国交はないという。

 この没交渉具合で小国パーシアは大国の使者を上手く迎えることができるだろうか。

 不安を抱きながら、アケメネスは城から塔の残骸を見下ろす。

 招かねばならぬ。

 原因が自身にあるのならば正式に謝意を示し、どうにか許可を仰いで知恵を賜り、後世のパーシアのためにも塔を建設せねばならぬのだ。

 没交渉。

 恥じるべきことなのだ。

 大国に挟まれておきながら、見向きもされていないということなのだから。

 王としてアケメネスはパーシアから両国へ誇りを示したい。

 斯くして使者は立てられ、両国からは温かみのある返事を持った使者がそれぞれやってきた。

 その使者たちこそ、パーシアには存在せぬ「神」の一端である、龍とドラゴンと呼ばれる種族であり、似ているようで全く違う彼らのおかげでパーシアは賑やかな日々を迎えることとなるのであった。

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