5話 出会い
「精神感応が使えるの?」
驚きの表情で彼女は俺を見つめた。
「何を言ってる?」
「やっと会えた」
お団子ヘアの女性が、慌てて駆け寄ろうとしたが、何かにつまずき倒れた。
スカートの中からぐぐもった泣き声が聞こえてきた。
一緒にスカートの中の子が倒れ、泣き出したのだろう。
「ソフィア様、スカートの中に入ってはイケません、もう何度目ですか。」
彼女が少しがっかりしたように声をあげた。
お団子の女性が立上り、一歩前に出ると銀髪の長い髪をした
濃い青のフェルトの服を着た幼女の姿があらわになった。
先ほどの子だ。
「ああ、ソフィア様 こんなに幼くなってしまい、おいたわしい。」
お団子の女性が泣いている子をしゃがんで抱きしめた。
俺の時とは打って変わってまるで聖母のようだ。
立上り、二人でこちらに向かってくる。
俺は、深く息をついた。どうやら危機は去ったらしい。
今まで、精神感応を意識したことはない
視界に文字の羅列のイメージが喚起され
左から右に手を動かした、突差の事だ。
(痛っぃ)
急にまた痛んだ、詰問されて時に痛んだ箇所が
袖をまくって確認すると
ジリジリと痛い所に☆(ろくぼうせい)の様な刻印が押されていた
「なんだ、この星印、微妙に青白く光ってる」
「それが、星のマナを召喚する魔法陣よ、そのうち消えるわ」
「やっと会えた、星の守護者に」
「私の名はエイレンです。訳あってここでは私たちの詳細は明かせません」
「でも、頼みがあります」
「どうか、この子を守って」
そう言うとエイレンは、まだ泣いている幼女をグイッと両手で差し出してきた。
「この子は、ソフィア」
「あなたの名は? 」
一方的に話しかけ、幼女まで差出し問いかけてくる。
「道雄、樋口道雄ぉ・・・・」
(精神感応で答えてみる)
だいたい、星の守護者てなんだ?
エイレンが一瞬頼りなさそうに眉をひそめ、肩を落とした。
視線をわずかに外される。
「声が小さいのね」
初見だろ?ずうずうしい奴だ。こっちは人間不信もあって人見知りだ。
無理やり幼女・・ソフィアを胸に押し付けられた状態で戸惑いが無いわけがない。
「えーん、うぇーん いだいょ・・・・」
「こんなに泣いているのに、どうして抱っこしてやらないんだ」
「俺に押し付けるなんて、母親だろ」
幼女なんて身近にはいない、どう扱っていいか分からない
もちろん今まで彼女なしだ。女性の扱いもしらない。
「母親ではありません! この子を一刻も早くあなたに預ける方が安全だからです」
「現に、昨夜ソフィア様に触れたではないですか」
「はぁ!? 」
「あなたは昨夜、ソフィア様を助けて下さったではないですか」
「私たちの守護者でしょ」
「そんなはずはない、何を言っているんだよ、こんな小さい子と俺はあっていないぞ」
「いたのは、もっと大きな子だった、髪の色は確かに一緒だけど」
俺は、昨夜助けた女の子の特徴をまくしたてた。
エイレンは首を横に振る
「ええ、ですから昨夜あなたが助けた、その子がソフィア様なのです」
「昨夜の子と、この子は同一人物です」
「ある組織によって存在を消す呪詛をかけられてしまいました」
「こにままだと、ソフィア様は退行を続け万物の記憶、認識から消されて存在しないモノになってしまいます。」
量子力学的な、なにか?
Fランク大は卒業したが、物理学など専攻していない
「そんな事、理解できるか」
俺は切れた、こんなに感情をあらわにしたのは一体どれ位ぶりだろうか。
それ位感情が爆発した。
(何を先ほどから言っているんだこの女は、星の守護者とか退行とか)
「お願い、ソフィア様を助けて下さい。あなたにしか出来ないことなんです、道雄。」
「昨夜、道雄が触れてくれたから幼女ですんだのです」
「触れてくれていなっかったら、今頃は・・・・」
「魔法で、何とかすればいいだろ、あんたらだってその星のナントカなんだろ? 」
(新手の宗教の勧誘かなにかか、劇場型勧誘・・・・とにかくかかわったら最後だ)
「本人でないと、呪詛は解けないのです、しかしこの子にとってこの場所は次元が低く魔法が使えません。まぁ、まだ言葉もまともにしゃべれないですけれど」
「ソフィアの呪詛を解くために庇護して下さい星の守護者、道雄。」
(だめだ、この女。顔は可愛いのに、脳みそが逝かれてる)
一方的に話かけられて、ほとんど言葉を発する隙が無い。
「私達はこの次元から早く離脱しなければ、場所を特定されてしまいます」
「この子を無事育て、私たちの元に・・時間の様です・・・・」
急に空気が変わった。見張られているような、ピンと張りつめた嫌な空気
エイレンは口元にそっと人差し指を立て
あれほどまくしたてていた口を閉じ、ささやき声で
「この次元が特定されてしまいました。次元を放棄します。」
「さぁ、ソフィア様を」
そう言うと透明な膜のようなものに包み込まれだした。
包まれのは、彼女だけだ。この子、ソフィアは何にも包まれていない。
「お、おぃ」
俺はソフィアを彼女の元に渡そうとその肩を掴んだ。
「次元転移」
エレインの杖から菖蒲色の魔法陣が立体的半円状に展開される。
プラズマの様な光に三人が包まれ、ふわりと浮かぶと同時に動き出す。
「うぁー、浮いている」
泣いていた幼子が、きゃきゃと喜んではしゃぎだした。
「凄いのはこれからよ」
(にこりとエイレンが微笑む。この微笑みは俺には1ミリも向けられていない、
ソフィアに対してだけだ)
ありえない速さ、遠くの星々が一瞬で見えなくなる速さで移動する。
「もっと、もっと! いけぇー」
前方に光点が現れ光が凄まじい勢いで後方に流れていく
眩しくて目が開けられない・・・・
「身構えて」
衝撃で全身がしびれる。
ソフィアが衝撃に耐えられずに俺にぶつかってきて、慌てて俺はソフィアを守るように抱きしめた。
「もう大丈夫よ」
どの程度、時が経ったのか
時間の感覚がわからない
そっと瞼を開けると懐かしい風景が眼下に見えた。
「元の世界へ戻ってこれた」
エレインは肩で息をしている、少し辛そうだ。顔が青い。
耳元に垂れ下がる菖蒲色の髪を彼女は指先でクルクル絡めながら
「マナの消費量が多いから負荷が大きいの」
「もう一回次元転移を使ったら
他の魔法も暫くはつかえないわ」
「あなたの・・道雄の次元に戻ってきました。ここなら今しばらく安全です」
「道雄の、星の加護がありますから」
人気のない郊外の公園に降り立った。
ここは、スーパースライダーと呼ばれる
車輪がついたソリ形の乗り物に乗り、すべり台を滑り降りて楽しむ遊具が設置されている。
「なついな」
(この安心感はなんだろうか。死にたいと思ってた場所が恋しい)
「小さい時、よく親にせがんだんだ」
「思い出の場所なんですね」
エイレンが少し道雄に笑顔を向けた。
「大した所ではないよ」
「いいえ、想いの記憶は大切です」
いつの間にか、ソフィアは俺の腕の中で眠っている。
ずれ落ちそうになったので抱っこしなおした。
(重い、子供ってこんなに重いんだな。)
思わず、自分を育ててくれた両親を思う。父親とは気が合わず、喧嘩ばかりだった。
そんな男でも、俺を抱っことかしたのだろうか。
「私は戻らないと、ソフィア様を頼みます」
「この子を無事育てて下さい」
「お別れの前にこれを」
不意にエレインがオリーブ色の袋をポケットから出し、中からショルダーバッグを取り出す。
「これ異次元袋(D・D・B)なの、便利よ あげる」
茶目っ気たっぷりに、エイレンは俺に片目をつぶって見せた。
オリーブ色の袋と、ショルダーバッグを受け取った。