3話 生死
もう一度周囲を見渡す。
静まり返って、人の気配がない
自分の額に手を当て、眉間を揉む
何処だここは・・・・
誰なんだ、この子は。
どうすれば・・・・
よどんだ空気のなかで雨が降ってきた。
体にまとわりつくような気持ちの悪い
あまり皮膚に付けたくないような雨だった
(あの閃光、核反応じゃないよな。臨界とか・・ 、爆発したのか?)
(ここ、黄泉の国か?、そんな訳ないか)
服が、肌が黒く汚れていくのが見て取れる
石造りの腰掛に横たわる小さな子は雨に濡れても
薄い唇や整った眉、瞼はぴくりともしない。
通りにはお店らしい建物があるが固く扉を閉め
光すら漏れていない
いや、だれもいないのか
助けを呼ぶこともできない。
ここで、叫ぶこともできなかった。
(臆病者め)
雨脚も徐々に強くなってきた。
雨が冷たく肌を濡らす。
もう一度見渡し誰も居ないことを確認し溜息を吐く
(俺、一人ならここで野垂れ死んでもいい。でもこの子は)
覚悟を決め近寄り体に被さったその布に触れる。
だらりとした身からは生気は感じられない。
整った顔をしており見た目から、少女だろう? いや、美少年だろうか?
地面に膝をつき
口元に耳を近づける。
雨音にじゃまされて、呼吸の音は聞き取れない。
死んでいるのか・・・・腕を引き寄せ脈をとる、ひんやりとした小さな手を手繰り寄せた。
かすかだが振動を感じた。
生きている!
そこからは、勝手に体が動いた。
昔、教習所で習った応急救護措置を思い出し
急いで、両腕で担いで軒先へと運ぶ。
期せずして触れた肌の感触に少し戸惑う。
女の子だ。
布を下に敷き、少女を仰向けに寝かせた。
額に手をあて頭部を後屈させながら、もう一方の手で
顎先を軽く持ち上げ
口元に自分の耳と頬を近づけ、呼吸をもう一度確認した。
(息をしている! )
気道を確保したことで、呼吸が再開したのか。
思わず溜息が漏れた。
(良かった)
改めて全身を確かめて、その子の顔を見る
かわいらしい顔をしている。
俺は上着を脱いで、少女へと掛けた。
ちょっと疲れた。
少女の近くに腰を下ろし、周囲の様子をもう一度窺った。
ここは、どこなんだ・・・・やはり見覚えはない・・な
(今、助けたこの子は生きる運命で、俺は死ぬ運命だったりして)
(死んだのか? 俺は・・・・それでもいいか)
時折、遠くの方で雷の音が聞こえる、音が石造りの建物に反響する
注意深く耳を立てるとこの建物の反対側の方角からだ。