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「初めましてだよね?」
「はい。私は白坂楓です」
そう言ってその子は名前を言った。
「俺は……」
「知ってます。中西拓也さんですよね」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「ずっと見てましたから」
ずっと? 俺の今までの練習をか?
「それで俺になんの用?」
「拓也さんのプレーを見てて一つ疑問に思いました。何故、CBがあんな前の位置に行くんですか?」
「何でって……。俺はリベロだからな」
「だからってあんな前まで走って体力の無駄じゃないですか。実際、二失点してましたし」
「あはは、そうかもな(一点決めたけどな)」
楓の言葉に思わず苦笑いをしてしまった。
「そんなことはないと思うぜ」
その時、横から大人っぽい声の男の声が聞こえた。
「監督!」
そう、監督だったのだ。
監督は基本、俺たちが練習している間は寝ているよく分からない人だ。
ただ、この人は只者ではない。
柳原龍介。
あまりの実力から十九歳と言う若さでJリーグでは満足できず海外に飛び立った。
所属していたクラブはラ・リーガの名門レア・ホワイトだ。
ラ・リーガとはスペインリーグのことだ。
現在世界ナンバーワンプレイヤーであるフランス代表のフィル=ブロンと共に戦っていた。
ポジションはトップ下であり、天才的なパサーであった。
トップ下とはFWの後ろの中央にいるポジションである。
そのパスセンスから創造者と異名をつけられるほどだった。
しかし、それから一年足らずで引退をしてしまった。
理由は怪我でもなければプレーが通用しなかったわけでもない。
後にインタビューでこう語る。
「俺より上手いやつはもうスペインにはいない。そんな奴がまた出てきたら俺はまた現役復帰するよ」と。
かなりのビックマウスだった。
その言葉を最後に消え去り、創造者から忘れられた天才と呼ばれるようになってしまった。
あれから五年が経ち、今はこの学校で俺たちの監督をしている。
「どう言うことですか? 柳原さん」
「えっ? 監督のこと知ってんの?」
「こいつ毎日お前らの練習見てんだぜ? それで俺が声をかけたんだ」
それは意外だった。
「さて本題に入るが何故ディフェンダーは前線に上がっちゃいけないと思うんだ?」
「それはゴールを守るのが一番の役目だからです」
「そうだよな。だが、ディフェンダーだって点も取れるアシストだってできる。究極、キーパーだって点を取れるスポーツなんだからな。あはは」
監督は冗談まじりで笑いながら言った。
「なんせ今のサッカーはFWがいないからな。そのせいか中盤の選手やディフェンダーが点を取るんだ。それが悪いことばかりではないけどな」
FWがいない? 監督は何を言ってるんだ?
その言葉がきっかけで俺は新たな道が切り開くような気がした。