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 普海高校サッカー部。

 特に強豪というわけでもなく、かと言って負けっぱなしでもない。

 実力で言えば中の下くらいのチームだ。


 「ぎゃはは、拓也シュート下手だなー」

 「うっせ!」


 俺のことを馬鹿にしているこの男は林田伊月だ。

 寝癖のあるだらしない髪にプレーも何だかだらしない。

 それでも顔はそこそこよくパスだけなら一級品なのだからずるいものだ。


 「拓也はCBなんだからヘディングの練習しろよ。俺がパス出したろか?」

 「頼むよ」


 CBはキーパーを除いて一番後ろにいるポジションだ。

 主に守備を担当する役割がある。

 背がそこそこ高くシュートが下手な俺は必然的にそのポジションになった。

 ヘディングも競り合いやセットプレーなので使う重要な技術だ。


 「いくぜー!」

 「へい」


 伊月の上げたクロスが俺の頭にドンピシャに来て、そのままゴールした。


 「やっぱ俺、パスうめーわ」

 「パスだけな」


 そんな会話をしているうちにキャプテンから集合の声がかかり、俺たちは急いで行った。

 名前は辻井友春。周りからは辻井さんと呼ばれている。


 「今から七対七のミニゲームをする。準備はいいか」

 『はい!』


 その声に部員全員が返事をする。

 この部活は部員わずか十四名しかいない割と少数な部活だ。

 俺は伊月と同じチームになりミニゲームが始まった。

 FWである辻井さんが真っ先に攻めてくる。

 この部員で一番上手く、ガタイもいい辻井さんのドリブルを止めるのは至難の技であった。

 しかし、ディフェンダーである俺はそんなことを言ってられない。

 向かってくるドリブルに俺は体を張って止める。

 それでも強引にシュートを打たれてしまった。

 幸い、キーパーのナイスセーブによって失点は免れた。


 「ちっ」


 惜しかったのが悔しかったのか辻井さんは舌打ちをした。

 次はこっちの攻撃の番であった。

 ディフェンダーでありながらも俺は攻撃参加をする。

 そう、俺はリベロだったのだ。

 リベロとはCBでも自由に動き回り攻撃参加をする選手のことである。

 ゴール付近でボールをもらった俺はすかさず伊月パスをする。


 「シュートだ!」

 「分かってるって!」


 伊月の正確無比なシュートがゴールネットの端にいき、先制点はこっちが先にもらった。


 「しゃーあ!」


 気持ちよさそうにガッツポーズをし、喜んでいる。


 「ナイスだな」

 「拓也もナイスアシスト!」


 見事な連携がゴールに繋がり、チームの調子をよくしていく。

 それでも向こうは諦めず素早く試合を再開する。

 とてつもないスピードで辻井さんはドリブルしていき、俺との一対一が始まった。

 一瞬だけ辻井さんが右を向く。

 その瞬間、俺は右に意識を向いてしまった。

 それは失敗だった。フェイントだったのだ。

 がら空きになった左のコースを強烈な左足のシュートで狙われ、失点してしまった。


 「しゃー!」


 辻井さんは雄叫びを上げるかのように喜んだ。

 ディフェンダーである俺はその前のフェイントに引っかかってしまったことが悔しかった。


 「ドンマイドンマイ!」


 隣の同じポジションである津田が両手を叩き慰めてくれた。


 「……すまん」

 「大丈夫だって! ここから逆転すれば」


 津田はいつも明るくチームの調子を盛り上げてくれるムードメーカー的な存在であった。

 試合を再開しようとした次の瞬間、大声が聞こえた。


 「みんな休憩してくださーい! おにぎりも作ったから食べてくだーい!」


 その声は石見凛だった。

 小柄だがサラッとした長く美しい髪とぱっちりとした大きな目が特徴の美少女だ。

 凛はこの部のマネージャーなのだ。

 普段は比較的大人しい性格なのだが部活で明るく振る舞ってくれる。

 その姿に部員たちは元気をもらっているのだ。

 全員が『うまそー』と言って手作りおにぎりを口にする。

 昆布に鮭にツナマヨなど種類が豊富だった。


 「うめー!」


 伊月がおにぎりを二つ両手に持ち、美味しそうに食べている。


 「どれ、俺も」


 昆布入りを手にとり食べる。


 「美味いな」


 塩っ気の効いた昆布と米が絶妙にマッチし、それはもう美味かった。


 「もっとあるからどんどん食べてください!」


 凛はみんなの食欲に負けない量のおにぎりをどんどん食べさせた。

 それにしてもあの後、作ったのだから大したものだ。

 部員たちも動いたばかりなのにこれほどに食べるのは凄いと思った。

 俺は基本的に食が細いのだが、あまりに美味かったので伊月ほどではないがそれなりには食べた。


 「よし、練習再開するぞ」


 辻井さんが言った。


 『まだ食べたばっかですよー』


 他の部員がまるでブーイングのように言った。


 「何を言ってるんだ。こんな美味いもんを食べたら練習も捗るだろ」

 「ありがとうございます!」


 辻井さんが褒めると凛も顔を赤らめて嬉しそうにしていた。

 そのままの勢いでもう一度ミニゲームを再開した。

 お互い一対一と互角の状況から始まった。

 辻井さんチームから試合が始まり、さっきと同じように辻井さんが中心となり攻めていく。

 俺は構えるように深い位置から相手の攻撃に対応する。

 SBである広井さんが何故かウイングがいる位置に来て一気にピンチになってしまう。

 広井さんはディフェンダーでありながら攻撃参加を好む人だ。

 それに加えスピードもあり、非常に厄介だった。

 ボールを保持している辻井さんは左サイドにいる広井さんにパスをする。

 そのまま不意を突かれた俺は何もできずに左足の強烈なシュートにより失点してしまう。


 「よし!」


 広井さんは冷静でありながらも熱く喜ぶ。


 「……バケモンかよ」


 普通はそんな場所からシュートは打たない。

 というよりは打てない。

 その強烈なプレーに驚きの声を隠せなかった。

 そのまま二対一と不利な状況に持ち込まれてしまった。

 俺は二度も先輩たちに敗れ、何をしているんだと自分自身を責めた。

 それでも諦めることは出来なかった。

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