『汝が転生の女神か…。さあ我を転生させるがよい…全知全能神であるこの我を…!』
『どうした…? 早く我を転生させよ…。もちろんチートなるものも授けてな…』
「いやいやいや」
「あなた神ですよね? それも私よりはるかに高位の」
『いかにも…。我が言うのも難だが…確かに我は汝より高次の神である…。なにしろ…』
『我は全知全能であるが故に…』
「いやいやいや」
「全能なんですよね? じゃあ私いらないじゃないですか」
『然様なことはない…。我は定型に則り…異世界への転生を果たしたいのだ…』
「定型って…。ていうか、なんで異世界?」
『近今…下界の娯楽書では…未曾有の流行が起きている…。うだつの上がらぬ者が生まれ変わり、新天地で成功を収める…というものだ…。人の子らを見守る神として…ひとつ我もやってみようと思ったのだ…』
「ならご自身で転生してくださいよ」
『確かに我が権能をもってすれば…赤子の手をひねるよりもたやすいことだが…それは子供の徒競走に大人の競技者が全力を出すが如きこと…』
『然様な真似をすれば神の沽券にかかわる…』
「いやいやいや」
「そうお思いならやめましょうよ。みっともないじゃないですか。それこそ神の沽券にかかわりますよ」
『そこで、だ…。汝の力で転生したのならば…チートを与えられてなお…本来の我に遠く及ばぬ…。これならば問題なかろう…』
「(事実だけど腹立たしいなこの神…)でも、あなた全能じゃないですか」
『いかにも…』
「なら、その気になればいつでも本気出せるじゃないですか」
『然様な振る舞いはせぬ…。神たる我がたやすく自戒を破れば…人間たちに示しがつかぬからな…』
「転生ごっこの時点で示しがつきませんよ…」
『むぅ…。汝は手厳しいな…』
『ならばチートは控えめなものを頼む…』
「いやいやいや」
「今、ご自身で言いましたよね? 示しがつかないって。それが何でまた、今度はチートに話になるんですか」
『転生とあらばチートは付き物であろう…。身一つで見知らぬ地に放り出されてみよ…それで生きて行けるほど人間は強くはないぞ…』
「あなた神でしょ」
『うむ…』
「私より上位の」
『うむ…』
「全能神なのに…!」
『だがチートは欲しいのだ…』
『できれば3つでな…』
「いやいやいや」
「何ですか3つって。多いでしょそれは。チート=いかさまなんですよ」
『神から与えられた力とあっては…いわば神に認められたということ…。ならばいかさまではあるまい…』
「そりゃ、確かにいかさまは言い過ぎかもしれませんけど、ズルいでしょ、それは。自分の努力と何一つ関係ないところで、ポンと力を与えられるなんて」
『神である汝がそれを言うのか…』
「鏡見ろよ。てめぇン家 鏡ねえのかよ」
『…? あるが…?』
(皮肉とか通じねえのかよこいつ…)
『どうしたのだ…急に黙り込んで…』
(お前のせいで閉口してんだよ。能無し)
《否…能無しにあらず…。我は全知全能であるぞ…》
(こいつ直接魂に…!)
《話が逸れたな…。本題に戻るとしよう…どこまで話したか…》
《ヒロインは10人以内でな…》
「いやいやいや」
「多すぎだろ上限。高望みしてんじゃねーよ。つーかもう普通にしゃべれや」
《我としては…これでも抑えた方だ…。あまり多いと我自身忘れそうだからな…』
「忘れねーだろ全能なんだから。それともフカシか、全能でもボケんのか?」
『ところで…先ほどから口調が妙だが…。どうかしたのか…?』
「どうかしてんのはオメーだよ。つーか一人でいいだろヒロインなんて。てめえ2人以上の女から好かれる男が世の中にどんだけいると思ってんだ」
『現実の話は不要だ…。我は今…異世界の話をしている…。それと我の全能は真実だ…忘れるとは言葉の綾にすぎぬ…』
(うぜえ…。つーか異世界=夢って断言しやがったよこいつ)
『さて…あらかた望みは述べた…』
『さあ…我を転生させるがよい…』
「いやいやいや(もう死ねよこいつ)」
《我は死なぬ…全知全能故に…》
「あーもううっせえなー!!」
「させてやるよ転生! そんなにしてえならよ!!」
『ようやくか…。待ちかねたぞ…!』
「うるせえよいちいち! 転生条件は今いったやつでいいんだな!?」
『いや待て…まだチート内容を決めておらぬ…』
「もうランダムにしろよ! その方がらしいだろ!!」
『言われてみれば…確かに…!』
「じゃあ転生すっからよ! 二度と顔見せんじゃねえぞ!!」
『それは保証できぬ…。我がその気ならばここへ戻る事などたやすい…何せ…』
「全知全能だからな! 聞き飽きたわボケ! じゃあやんぞ! オラ転生!! 死ね!!!!」
『我は…死なぬ…! 全知全能ゆ…』
言いきらぬうちに全能神は閃光に包まれた。
またひとつ、新たな魂が来世に旅立ったのだ。
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望み通り異世界に転生した全能神だったが、成長するにつれ、ありがちな無個性デザインと化してゆく転生体にうんざりし、自力で再転生を果たした。
今度はランダムチートが弱かったので行き詰るたびに少しづつ力を解放し、やがて些細なことでも権能を振るうようになった。
そのころにはヒロインなどすっかりどうでもよくなっていたので、自重をなくしたことで垂れ流しになった神のオーラで、会う女を無自覚に不老の美女に変えては魅了していった。
気がつけば目もくらむような不老美女ハーレムと、その子ら孫らに囲まれてその生涯を終えた。
だが肉体が滅びても、全知全能の神故にその魂は朽ちず、再び天に昇る。
そして転生の間に至るのだが、それはまた別のお話で…。
『転生神よ…。今度は記憶も封じてほしいのだが…』
「いやいやいや」
おしまい