目覚まし時計
男は商品開発部に勤めている。
ある朝、彼は目覚まし時計の音で目覚めた。
「目覚まし時計の音というのは、どうしてこうも冷たく、鋭い音なのか。」
男は身支度をして会社へと向かった。
「それは仕方ないよ、目覚ましというものはそういう風にできているんだから。」
愚痴を聞き、男の同僚はそう答えながらタバコに火をつける。
すると男は突然思い立って、
「そうか、それだ。いい事を思いついた。無いなら作れば良いんだ。あたたかく、気持ちの良い音の目覚まし時計を。」
「それは良いかもしれないな、よし、企画書を作成し次の会議で発表してみるか。」
会議の日。男はこの企画を発表した。
「面白い、おそらく大半の人が目覚まし時計の音にはイライラしながら起床しているはずだ。その案件は君たちに全て任せる。開発を進めてくれ。」
男と同僚は心地よく、あたたかな音を追求し、試作を繰り返しついにそれは出来上がった。
以前から様々な媒体で宣伝をしており、有名な作曲家を起用し、世間の人々から注目を集めていたため予約も殺到していた。なので在庫も充分に用意されており、発売日に買えないと言う人はおらず飛ぶように売れた。
そして翌日の朝、目覚まし時計の音は日本中に響き渡った。
男は電話のベルで目を覚ます。
「はい、もしもし…。あ、部長、おはようございます。」
「おはようじゃない、いま何時だと思っている。時計を見てみろ。」
男は時計を見て声を上げる。
「すみません、寝坊したようです、直ぐに会社に向かいます…」
「その必要はない、今会社へクレームの電話が相次いでいる。なぜだと思う。」
つまり、こう言う事だった。
その目覚ましの心地よい音は眠りを誘い、皆を眠りへと誘う。殆どの者が購入しており、目覚ましをセットする時間もまちまちな為、長い間なり続ける。当然目覚まし時計なのでそれなりの音量だ。どこからともなく聴こえる音に、購入していない者にさえその音は届く始末。
街の交通機関はストップし、学校や会社に遅れる者、夜勤明けでの帰り道、目覚まし時計の音を耳にし道端で眠る者等、多数の人々が迷惑を被った。
「と、言うわけで世間への影響は計り知れない。沢山の人に迷惑をかけてしまった。損害賠償もとんでもない額だ。君には責任を取ってもらう。つまりクビだ。」
会社とは目覚まし同様、かくも冷たいものだ。