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歴史街道八月号の特集が余りにも酷いので書きなぐる

作者: 有坂総一郎

嫌な予感はしていた。


尼子経久と義久が紹介ページに載っていた時点で予感はあった。


――恐らくこの特集は酷いものだ……。


その予感はやはり的中していた。正直なところ、この特集の記述なんて私でも書こうと思えば書ける内容だ。

なぜなら、その程度の知識は有しているし、過去の尼子家に関する文献を繋ぎ合わせてしまえば良いからだ。


そして、事実、そこにあったものは深読みするまでもなく、継ぎ接ぎのそれでしかなかった。


しかもだ、問題はそこではない。その程度なら、まだ許せただろう。同人誌としてならな!


これは商業誌でもあり、歴史好きの人間が読むものだ。つまり、その時点で最新の時代考証や解釈も添えるべきものなのだ。


だが、そこにあるのは名実ともに、20世紀の尼子家史観……所謂陰徳太平記史観……要するに毛利家の毛利家による毛利家のためのヨイショ史観に基いたものであり、最新の研究では尼子晴久の評価はうなぎのぼりで、毛利元就にケチョンケチョンにやられた戦国武将から、毛利元就を何度も窮地に陥れ存命中には銀山を明け渡さなかった名将という評価に変化しているのだ。


実際に、歴史シミュレーションでお馴染みの信長の野望の彼のステータスは凄い勢いでインフレしている。これはコーエーテクモが最新の考証を取り入れた結果であり、全体的に尼子家に対する評価が上がっている。


だが、歴史街道8月号のそれは言うに事欠いて「晩年に失政が続く」と書いている。


アホかと。


その最たる例で新宮党事件と出雲の社寺紛争を取り上げているが、あまりの酷い記述に唖然とする。新宮党事件が元就の謀略だとか、未だに言っている人間がいるとは思わなかった。


新宮党事件など織田信長の織田信行抹殺と同じで宗家の権力安定化であって、実際に新宮党崩壊後に西出雲を直轄化することが出来、それによって尼子宗家の権勢は拡大している。同時に直参奉行衆による中央集権化と官僚化を行い、織田家や豊臣家などと同じような政策を実施している。


それによって軍事的指揮権の直轄化、政治行政権の掌握という中央集権制度の確立の基盤が整っているのだ。代将として宇山氏や牛尾氏などを石見方面に派遣し、毛利家の攻勢に対処しているのも、新宮党事件による影響がなく、中央集権化で軍事的フリーハンドを得た効果でもある。


ここに全くタッチしていないというのは余りにも酷い駄文だとしか言えない。


まして、失政その2である出雲社寺紛争だが、これもまた酷い。


清水寺と鰐淵寺の席次がどうとか書いてあるが、そもそも鰐淵寺は尼子家に対して反抗的であり、その制裁でもあった。出雲大社として有名な杵築大社に対しては経久時代から尼子家は圧迫を続けている。なぜなら、尼子家は日御碕神社との関係が深く、その至近にある宇龍浦を貿易拠点として経営していたからだ。当然、日御碕神社と杵築大社の関係は良いわけがなく、その関係は尼子家の宗教政策に影響を及ぼす。


義久の代に関しても陰徳太平記史観が余りにも色濃く記述されている。義久が温厚消極的と書いているが、それは史実と異なると言わざるを得ない。


義久は対毛利家政策は九州大友家と連合し、遠交近攻の基本を実施している。また、朝廷や幕府を動かすことで脅威の増す毛利家を外交的に抑えようと動いている。だが、義久は条件が余りにも悪かったとしか言えない。


父の晴久は脂が乗ったいい時期に47歳で死去している。家督を継いだ義久は20歳そこそこだ。そして、周囲は譜代の家臣はいても、盛り立ててくれる一門衆が存在しなかった。いるのは弟たちくらいなものだ。尼子家を背負って立つにはあまりにも若すぎた。


そして、父の急死によってパワーバランスが崩れたことで出雲国人衆は寝返る寝返る。残るのは譜代や直臣のみ。


この状況でよく持ちこたえたというべきものだろう。


これらの最近の再評価を尽く無視した20世紀までの陰徳太平記史観を21世紀も20年経とうという時期に見るとは思いもしなかった。

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