怖くて、こわくて
遠く届かない花に恋するのは、つらい。それは、誰だって分かるだろう。けれど・・・
こんなに近くにいるのに、思いが届かないなんて・・・・・・。
二人は、幼いときからよく一緒に遊んでいた。一人は男の子で、もう一人は女の子だ。男の名はシェラン、女の名はアクアといった。やがて二人は高校生となった。
ふう、と息を吐き出す。今日は一体何回ため息をついただろう。シェランは、青く澄みわたった空を仰ぐ。空と同じくらい青い彼の髪の毛を、風が吹き渡る。もちろん、彼の青い髪は生まれつきであるが、しばしば異質な目で見られることもあった。
「なーにやってんだよ。」
ふいに茶色が彼の視界に現れ、シェランは慌てて、仰向けに倒れ込んでしまった。茶色いのは、しっとりと長いあの子の髪。お互い逆さの顔を見つめる。シェランのスカイブルーの瞳と、あの子のエメラルドグリーンとがぶつかる。
「お前か、アクア。びっくりさせるなよ。」
シェランは半身を起こす。その隣に、アクアと呼ばれた女の子が座った。
「悩み事?なら相談に乗るからさ、言ってみりん。」
まさかシェランの悩みの原因が、このアクア本人であるとは、さすがに言えない。シェランはそのまま黙り込んでしまった。
好きだ。こいつの、アクアのことが、無性に。単なる友達でも幼なじみでもない、この感情。いつからだったのか、いやそんなことはどうでもよくて。ただ、アクアのことが好きだ。もちろんシェランも、この感情が“恋”であることは知っていたし分かっていた。それに彼は、十数年の人生の中で、恋人なる存在と付き合ったことがないわけでもなかった。またアクアの方も、そんなシェランの恋を応援し、励ましたことのある存在だった。
しかしシェランがその内なる思いを隠しているのは、彼なりの理由があった。
二人は幼なじみであり、成長してからも、互いに信頼できる親友だった。だが、彼がその思いを外の出せば、二人が恋人同士になる、あるいはその思いが通じなければ、この今の関係が壊れるかもしれない。怖い。シェランは、親友同士という今の関係が壊れるかもしれないという事が、怖くて、こわくてしかたがないのだ。だからこそ彼はこの思いを隠し、かといってどうすることもできず、途方に暮れていた。
だが、アクアはそんな彼の事情も知らず、彼に笑顔を向けた。
「ほら、黙り込まずに言ってみりんよ。人に悩みを話せば楽になるって、よく言われるだら?」
「いや、いいよ。俺は大丈夫だから。」
シェランはあいまいに笑う。ふーんとアクアが引き下がる。言いたいのに、言えない。とてつもなくもどかしい。
これが遠い花ならば、あきらめがつくかもしれないのに。手を伸ばせば届くくらい近いのに、こんなにも苦しいなんて。言えば終わる。でも、怖くてできない。ああ、どうしてこんなにもどかしいのだろう。