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小さな森と旅猫のお話

作者: 小宮紬
掲載日:2019/01/06


あるところに、小さな森がありました。

木々が生い茂り、湖に恵まれ、小鳥がさえずる。そんな平和な森です。


あるとき、この小さな森に寄った旅猫が言いました。


「この森はとっても平和だ。でも、何か不思議だと思わないかい?」


動物たちは首を傾げました。他の動物たちはこの森で生まれ育ったものばかりで、当たり前のこの環境を不思議に思ったことなどなかったのです。

そんな動物たちを見て、呆れたように旅猫は言いました。


「どうしてこの森のみんなは、この森の中だけで生きていこうとするんだい?外の世界にはみんなが見たことのないような景色、食べ物、そして動物たちがいるっていうのに」


そんな旅猫の言葉に、一羽の子どもうさぎが反応して言いました。


「だって大人たちがいうんですもの。森の外は危険だって。この森の中にいれば安全だって」


そんなうさぎの言葉を受けて大人たぬきは言います。


「そうだ。森の外にはたくさんの危険がある。そんな危ないところに可愛い子供達を放り出せはしないよ」


大人たちはみんなうなずきます。そして、おじいさんフクロウがこう言いました。


「旅猫さん、君は君なりに考えて旅をしているんだろう。しかし、この森にもこの森の考えがある。変にかき混ぜたりしないでくれないかい」


旅猫は驚きました。森の外は危険だという言葉にではありません。森の動物たちみんなが同じ考えを持っていたことにです。


その後も、旅猫は森のいたるところを回っては聞きました。この森には何か不思議なことがないかい?外に出てみたいとは思わないかい?と。

しかし、答えはみんな同じでした。まるで、答えをあらかじめ入力されているロボットのように。


旅猫はショックでした。色んな場所を巡ってきた旅猫は、この世界の素晴らしいところをたくさん知っているのに、この森の誰も外の世界に興味を持っていないのです。

そして何より、子どもたちが、大人たちのいうことを不思議に思わず、素直に受け入れていることを恐ろしく思いました。


旅猫は、森の動物たちとたくさんお話をすることにしました。道端で会ったとき。ご飯を食べているとき。そして散歩をしているとき。


特に、子どもたちとたくさんお話をしました。お話の内容は、もちろん旅猫が今まで旅をしてきたところについてです。


お花畑が辺り一面に広がっていた野原で、お花売りのリスに出会ったお話。

星々やオーロラがきれいだった空を見て感動したお話。

土地によって違う食べ物の味に驚きと興味を持っているお話。


外の世界の素晴らしいことをたくさん話しました。そして、それと同時に、苦労したお話や怖かったお話もたくさん話しました。


食べ物が数日見つからなくて、とてもお腹がすいていた頃のお話。

寒さや暑さで体が参ってしまった時のお話。

怖い動物に追いかけられて、一生懸命走って逃げたお話。


あるとき、子どもぎつねが旅猫にききました。


「旅猫さんは、僕たちにお外の世界に興味を持って欲しいんだよね?なのに、どうして大変だったお話もするの?楽しいお話だけしてたら、僕たちも興味を持つかもしれないのに」


旅猫はこう答えました。


「そうだね。でもわたしは、君たちにただ外の世界に出て欲しいわけではないんだよ。君たちはまだ何も知らない。だから、外の世界に出て、目で見て、耳で聞いて、そして体で感じて欲しいんだ。外の世界にはこんなに怖いこともある、でもこれだけ楽しいこともある。それを知って、そして考えて欲しい。ただ与えられるだけじゃなく、君たちがどうやって生きていきたいかを」


子どもたちはそのお話を、静かに聞いていました。



数日後、旅猫がまた旅に出ることになりました。この小さな森ともお別れです。森のみんなにお別れを言って回っていると、子どもうさぎと子どもぎつねが、旅猫を追いかけてきました。そして言うのです。旅に連れて行って欲しい、と。


旅猫は驚いて目が丸くなりました。

続けて子どもうさぎが言います。


「私たちも本当はまだ怖いの。だから、少しの間だけ、旅に出てみたい。そして、この森に戻って考えたいの。私たちがどうやって生きていきたいかを」


旅猫は、嬉しさでいっぱいになりました。


「もちろんいいさ。一緒に見て回ろう。旅の間、たくさん話をしよう。そして、またこの森に、必ず君たちを連れて戻ることを約束するよ」


旅猫は、森の大人たちにも、子どもたちを旅に連れて行くことを話しました。するとどうでしょう。大人たちは静かにうなずいて、送り出してくれたのです。もちろん、子どもたちの安全を守るために、いくつか約束はしましたが。


旅猫が話して回っていたことは、決して無駄ではなかったのです。みんなの心にしっかりと、届いていたのです。


旅猫は、森のみんなにさようならではなく、また会いましょうと言って回りました。そして、子どもたちを連れて、旅に出ました。


きっと、次にこの小さな森に帰ってくるときは、子どもたちと共に、たくさんのお土産話を持ち帰ってくることでしょう。


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