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その46 殺意


私は幸せだった。 啓ちゃんとの関係が上手く行き過去は過去としてもう割り切れる。 そう思っていた。


私でさえ知らないところで私の過去は私を逃がしはしなかった。

そう、全てはこうなる運命だったのかな…… 死にたくない。


目の前のこの状況をなんとかしないといけないのに体が言う事を聞いてくれない。


「ダメだよ〜? 自分だけだと思ってたのかい?」


私は立ち上がる気力などなかった。

脇腹からは生温かい血の感触。 ごめんね、啓ちゃん。 また傷作っちゃった、これは跡残るだろうなぁ。



ダメだ、立てないや……

出血が止まらない、思考も回らなくなってきた。


目の前のこいつは私が死ぬのを待っているんだろうか……


啓ちゃんごめんなさい…………











_________________________________________







「啓ちゃん、二学期終わっちゃったねぇ」


終業式も終わり私は啓ちゃんと一緒に帰っていた。


「やっと明日から休めると思うと幸せだなぁ」


「そこに私とデートが入ってないのはどういう事かな?」


「冗談さ、ちゃんと考えてるよ」


「クリスマスも年越しも来年もずっと一緒にいてね!」


「おいおい、俺にも予定が一応あるんだけど」


「はいはい、尊重は一応しまーす、でも今日は早いしうちに寄ってってね!」


「わかったよ」



そして啓ちゃんと一緒に私は家の近くまで来て不意に視線を感じた。

私はゾクッとして後ろを振り向いた。


気のせい? なのかな……


「どうした? 柚」


「ん、なんか見られてるような気配がしたんだけど……」


「まさかストーカーか?」


「うーん、わかんない。 私の気のせいかも!」



ここにきて啓ちゃんに不穏な空気を醸し出す訳にはいかないし本当に私の気のせいかもしれない。


第一、心当たりがない。

いや、昔のお客さんならあり得る。

でもこれ以上啓ちゃんに心配かけたくないしね。


「おい、そんなに深刻なのか? 随分張り詰めた表情してるぞ」


「え!? 私今日啓ちゃんに何ご馳走しようかなぁ?って考えてて材料買うの忘れてたからどうしよう?って考えてたの。 誘ったのにバカだよねぇ、私って」


誤魔化せたかな?

こんなに幸せなのにぶち壊されたくない私は気付かないフリをして取り繕うとしていたのだ。


この時とても不安だった。

その不安が何かわからなかったが私は怯えていたのかもしれない、その何かに。


「本当かよ? 俺これでも結構柚の事見てるんだぞ、お前何怖がってるんだ? 」


「私にもわからないんだ、怖がってるのはこの関係が終わらなきゃいいなって」


「はぁ、何かあったらすぐ言えよ?」


「はーい!」



だがしばらくして啓ちゃんと過ごすうちにやっぱり気のせいだと思う事にした。

それから数日は何事もなかったしね。



「ねぇねぇ!もうすぐクリスマスだね!

クリスマスデート楽しみ」


「そんなにはしゃぐなよ、まったく」


だって本当に楽しみなんだ。 私にとってはこれで止まっていた時間がまたひとつ動く気がして。


本当に好きな人とクリスマスを祝う。家族がいた時みたいな……

だからこれからは全部出来るんだ、こんなに幸せな事ないや。


その時まではそう思っていた……

そして私の最期の物語が動き始めた。





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