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史上最強のメイド  作者: 狼森エイキ
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プロローグ

 私の名前はアンナ=ロックウェル、今年で十歳、趣味はお昼寝と剣のお稽古かなぁ。

 え? 剣なんて女の子っぽくない?

 別にいいじゃない、強くなることは悪いことじゃないわ……たぶん。

 それに女だからっておとなしくしてろ、ってのもねぇ…… 

 ちなみに私の母上はかつて「赤髪の獅子」と呼ばれるほど強かったらしいわよ。

 売られた喧嘩は全て言い値で買い、ひどいときにはスラムのチンピラを半殺しにしたとか。

 そこ、母上の方がチンピラらしいとか言わない。

 そう考えると父上の方は普通かも。

 いや、母上が普通じゃないわけじゃなくてね?

 まあいいか、父上はロックウェル侯爵家の現当主。

 五年前に隠居したお爺様に代わって就任した。 

 そう、私は貴族の侯爵令嬢なのである。

 そう聞くと羨ましいと思う人も多いかもしれないけど、そんないいもんでもないよ?

 まだ子供の私でもお花やらバイオリンやらのお稽古は多いし、行儀だのマナーだのうるさいし、極めつけはこれだ。

 今の私の状況、両手を縛られ口を塞がれ、どこかの物置に放り込まれている。

 さてこれはどんな状況でしょう?


 はい正解、私は今絶賛誘拐されている最中である。

 みんなで町に遊びに来たのだけれど、私はちょっとした好奇心から抜け出し、一人で町中を歩いた。 

 するとどういうことでしょう、ものの数分で大人に抱えられ、手を縛られここに放り込まれたではありませんか!


 いやいや、わかってますよ? 

 悪いのは私です。 

 一人で歩かなければってんでしょう?

 でもいいじゃん!

 仕方ないじゃん!

 好奇心には勝てないじゃん!?

 買い食いとかしてみたいじゃん!?

 そういうわけで私は今囚われの身なのだ。

 誘拐犯は複数、会話を聞くに私がロックウェル家の娘と知っての狼藉のご様子。

 彼らの計画では身代金をもらうだけもらってあとは外国の奴隷市場に流すという算段らしい。

 まあ……奴らの計画は十中八九失敗するんだけどね。

 だって間違いなく、彼女が助けに来てくれるから……


 ゴン!!


 うん?

 なんか壁にひびが?


 ズドォォォォーン!!


 「うわぁぁぁぁぁ!?」


 大きな音ともに壁が吹っ飛んだ!?

 ゲホゲホ! 土煙が……


 「お嬢様、お怪我はありませんか?」


 土煙の中から姿を見せたのは銀髪のメイドだった。

 肩にかかるショートヘア、スタイルは普通、その顔は凍り付いたかのように無表情だ。

 レンガの一個も運べなさそうな細腕だが、この細腕が物置小屋の厚い壁を吹き飛ばしたのだ。

 

 「お怪我…… お怪我ねぇ…… 無いわよ! せいぜい擦りむいたくらいじゃない!? でもそんなのどうでもいいわ! アンタが吹き飛ばした壁の巻き添えを食うところだったんだからねぇ!! 死ぬかと思っ…… ゲホゲホゲホ!!」


 「!! お嬢様! このような部屋に閉じ込められて体調が?」


 「アンタの立てた土煙のせいじゃああああ!!」


 「それは申し訳ありません。 お怪我をなさったのなら取り急ぎ治療しませんと……」


 「そんな暇ないでしょ! デカい音たてたせいで誘拐犯がもうじき来るわよ!? っていうかこういう時ってもっと静かに来ない? 裏口からこっそり気づかれないようにとかさぁ!」

 

 「……少なくとも正面ではなさそうですし広義の意味では裏口なのでは?」


 「自力で裏口作るな! そしてもっと静かに来ぉい!!」


 「承知しました。 まさかまた誘拐されるということは無いでしょうが、そうなったときにはそのようにいたします」


 「なんだなんだ!?」


 「倉庫の方からだ!」


 扉を叩くように開け、音を聞きつけた誘拐犯たちが来た。


 「なんだ? メイド? この餓鬼の家の使用人か?」


 「はい。 ロックウェル家、アンナ様専属メイド、リリーでございます」


 そう名乗るとリリーはスカートの端を摘まんで持ち上げた。

 誘拐犯相手にそんな恭しくしなくてもいいのに……

 変なトコ律儀だな……いや真面目すぎるのか。


 「で、そのメイドさんがまさか一人で主人を助けに来たってのか?」


 「はい、わたくし一人で対処できる案件と判断いたしました」


 「ほう……舐めたこと言ってくれるじゃねぇか。 良いぜ、俺たち全員で相手してやる。 卑怯なんて言うなよ? 一人で来たのはお前の方なんだ」


 「ええ、申しません、お嬢様が連れ去れた以上後顧の憂いを断つためにも誘拐犯の皆様をしっかり説得しろと申し付けられておりますので」


 誘拐犯一味とリリーは一触即発。

 誘拐犯は各々武器を構え臨戦態勢だし、リリーも表情はさほど変わっていないがまず怒っているだろう。

 リリーは私に危害を及ぼすものを許さないのだ。

 となればこの状況は非常にまずい!


 「やめなさい! これ以上は!」


 「もう遅え!!」


 違う!

 お前たち(誘拐犯)に言ったんじゃない!

 でも、そんなことが伝わるはずもなく、誘拐犯に対してこれ以上ウチのメイドをいじめないで!!的な感じになってしまった。

 しかし、現実はそうならない。

 誘拐犯の一人が振り下ろした大剣をリリーは片手、正確には親指と人差し指の二本で受け止める。

 大の男が力いっぱい剣を押してもそれが動くことは無い。

 誘拐犯たちはそのありえない光景に目を丸くしている。


 「な、なんで?」


 「申しましたでしょう? 私一人で対処できると」


 そう言うとリリーは空いている左手で拳を作り、目の前の男の鳩尾に打ち込んだ。

 鳩尾に凄まじい力を受けた男の身体はそのままふっ飛ばされ、壁を貫通した。

 残った誘拐犯数名はみな須らく口を間抜けにあんぐりしていた。

 無理もない、華奢なメイドのワンパンで大の男が吹っ飛ばされ、壁にめり込んでノックアウトしたのだ、現実ではありえないことだろう。

 それでもそこは百戦錬磨(?)な誘拐犯一味、すぐさまリーダーから次の指示か飛ぶ。


 「メイドを取り囲め!! いくら腕力が凄くったって、二本しか腕はねえんだ、一斉にかかったら勝てる」


 「おう!!」


 誘拐犯の残り計五名がリリーを取り囲む。


 「なるほど、確かにこれは少々苦労しそうですね」


 そう言いながらリリーは目にもとまらぬスピードで私の前に立ち、次いで右手の白手袋を外し、手のひらを下にして魔法の呪文を唱える。

 …………え? 唱える?

 こんな狭いところで!?


 『火の聖霊よ、わが魔力を糧とし我に火の祝福を与えたまえ』

 

 発動したのは火属性魔法の一番初歩である≪ファイアボール≫、魔法を使うときに一番最初に習うものであり、威力もそれなり。

 しかし、このリリーはフィジカルも規格外なら魔力も規格外だ。

 魔力が豊富ならそれだけ強力なものが放てる。

 つまり、


 ちゅど―――――ん!!


 リリーの加減を知らない一撃でボロかった物置小屋は大爆発を起こした。

 建物は倒壊し、更地に瓦礫が無残に折り重なっている。

 そんな惨状にも関わらず、私もリリーも怪我をすることなくピンピンしている。

 どうやら屋根が落ちてくる瞬間にリリーが結界を張ったらしい。

 でもリリーは当然誘拐犯たちを結界で守るような慈悲を与えたりはしない。

 

 「ちょっと! リリー! 小屋を吹き飛ばすなんてどんな神経してるの!? あいつら死んだんじゃないの!?」


 「問題ありません、火傷も骨折もしていますが至急命に関わることはありません。 そのくらいの加減はできます」


 「本当に加減できる奴は建物を吹き飛ばさないの!! なに? 命に関わらない程度の加減って!? 器用にもほどがあるわ!!」


 「痛み入ります」


 「皮肉だから!!」


 一通りの突っ込みを済ませ、息を整える。


 「はー、はー。 で? この状況どうするの? 放っておくの?」


 「はい。 ロイドさんが後始末をなさるそうです。 我々はこのまま旦那様方に合流いたします。 奥様がいろいろとお話したいことがあるそうです」


 「あ、はい」


 お説教だね、確実に。

 まあいいさ、覚悟はしてたから。


 「では参りましょう」


 リリーは私をお姫様抱っこした。


 「……ねえ、リリー? その…… 助けてくれてありがとう」


 「勿体なきお言葉、痛み入ります」


 やることは無茶苦茶でも私が怪我もなくこうしていられるのはリリーのおかげだ。

 彼女が来なければ私は命すら危うかった。

 いろいろ問題はあるが、それもすべて私のため、それは十分に伝わっている。

 だからお礼を言っておきたい。



 



 ……だっつーのに。


 「おろして!! おーろーしーてー!!」


 屋根の上を全力で走るな!!

 風圧で服も髪もグチャグチャなんですけどー!?


 「旦那様からは急いでお連れするように言われております。 人混みでは全力では走れませんのでしばし我慢なさってください」


 前言撤回!!

 こいつはただのアホだ!!

感想、ブクマ、評価、諸々お待ちしています。


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